梅田芸術劇場主催 三島由紀夫没後50周年企画『MISHIMA2020』(「橋づくし」「憂國」) | 新・法水堂

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梅田芸術劇場主催公演

三島由紀夫没後50周年企画『MISHIMA2020』

 

 
2020年9月21日(月・祝)・22日(火・祝)
日生劇場
 
原作:三島由紀夫
美術:杉山至  照明:吉本有輝子  音響:長野朋美  映像:山田晋平
衣裳:原まさみ「橋づくし」、writtenafterwards「憂国」  ヘアメイク:国府田圭
囃子:望月太佐衛「橋づくし」  三味線:杵屋六治雄「橋づくし」
演出助手:加藤由紀子  舞台監督:齋藤英明
制作:藤田早苗  制作助手:伊藤宏実
 
「橋づくし」
作・演出:野上絹代
 
出演:
伊原六花(料亭の娘・満佐子)
井桁弘恵(芸者・かな子/元芸者・小えん)
野口かおる(芸者・小弓/警官)
高橋努(女中・みな)
 
STORY
1950年代の陰暦8月15日。新橋の料亭の娘・満佐子は親友の芸者・かな子と先輩芸者の小弓、そして田舎から出てきたばかりの女中・みなを用心棒に伴って願掛けに出かける。それは満月の深夜、後戻りすることなく黙って銀座界隈の7つの橋を渡って祈れば、願いが叶うというものだった。
 
「(死なない)憂國」
作・演出:長久允
 
出演:
東出昌大(武山信二)
菅原小春(武山麗子)
 
STORY
2020年4月26日。コロナ禍の中、新宿ロフトに仲間たちが立て籠もるが、交番勤務の警官である信二は呼ばれずじまいだった。信二は看護師の麗子と昨年のクリスマスイブに結婚したばかりだったが、2人の出会いも4年前、新宿ロフトのイベントだった。事件のあった日、信二に出動命令が下り、信二はためらいながらもライブハウスに乗り込んで職務を遂行する。その帰り、氷結を買って帰ってきた信二は深く落ち込み、自決することを決意する。

三島由紀夫没後50周年企画の前半組として、「橋づくし」と「憂國」を舞台化。
21日夜公演をオンライン配信にて鑑賞。
 
まずは野上絹代さん演出の「橋づくし」。
冒頭はけたたましくまくしたてる浴衣姿の女性たち(みなだけはワンピース)。
そこから一転、静寂が訪れ、満佐子以外は一時停止。そこから録音された“心の声”に合わせて動きながら願掛けの説明を始めると、他の3人も歩き始める。同じように小弓、かな子の担当パートが続く。
満佐子は人気俳優との恋仲になること、かな子はいい旦那(パトロン)を見つけること、小弓は食うに困らないお金を手に入れることといった具合にそれぞれ願いごとを秘めつつ、三又になっている三吉橋、築地橋、入船橋(かな子が下痢のため脱落)、暁橋(小弓が知人に話しかけられて脱落)、堺橋と渡り、最後の備前橋にたどり着く。
一人、また一人と脱落するにつれ、不気味さを増すみな。このキャラを高橋努さんが演じるのは反則気味ではあるが適役だった。また、場慣れしている野口かおるさんが、初舞台の伊原六花さんと井桁弘恵さんをリードしているのが伝わってきた。
 
背景にはGoogle Mapのようなものだったり、双六形式だったりの地図が映され、舞台上では柱にゴムを渡して橋を再現(備前橋のみセットが登場)。退場した2人は人形を映し出して小えんと警官を演じる。
野上絹代さんの演出作品は初めて観るが(『カノン』上演中止が惜しまれる)、動と静を意識しつつ、遊び心が感じられた。維新派の照明をずっと担当されていた吉本有輝子さんの照明も効果的。
 
◆◇◆◇◆
 
10分の休憩の後、「憂國」を基にした「(死なない)憂國」。
『WE ARE LITTLE ZOMBIES』などの長久允監督が舞台初演出。
 
冒頭に市ヶ谷駐屯地での演説や棺が運ばれる映像が流れた後、全身白づくめの衣裳の信二がマイクを持って登場。設定は現代に置き換えられており、ライブハウスで盛り上がっている様子がスクリーンに映し出される中、226ならぬ426に新宿ロフトで起きた立て籠もり事件について語り始める。
コロナ禍の中で“デッドハウス”と化したライヴハウスへの愛、そして国を憂えてもなお自決せずに生きて行くという高らかな宣言が力強い。
 
カメラが舞台上のキャストにかなり近く、これ、劇場の観客はカメラマン込みで観ているんだろうかと思っていたら、最後にカメラが引いて空っぽの客席が映し出される。むむ、ということはこれは事前収録されたものだったのね?
2人が出会ったその日(Have a Nice Day!のイベント)にキスをするシーンではサランラップを持ち出して濃厚接触を避け、信二がライブハウスに乗り込む際にはフェイスシールドを着用といった演出も。笑
 
東出昌大さんは後ろ髪の長いかつらに眼鏡姿。
こういう少し狂気を孕んだ役をやらせたら東出さんは実によくハマる。
『いだてん』での人見絹枝役も印象的だった菅原小春さんは上着がノースリーブで、へそが出ている衣裳。彼女もまたこういう舞台は初めてだと思うけど、堂堂たる演技。
 
上演時間1時間41分(「橋づくし」38分、休憩10分、「(死なない)憂国」53分)。