ナショナル・シアター・ライヴ/ブリッジ・シアター『夏の夜の夢』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ナショナル・シアター・ライヴ/ブリッジ・シアター

『夏の夜の夢』

National Theatre Live: A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM

 

 

2019年 ブリッジ・シアター 2時間40分

作:ウィリアム・シェイクスピア

演出:ニコラス・ハイトナー

デザイナー:バニー・クリスティー  衣裳:クリスティーナ・カニンガム

ムーブメント演出:アーリーン・フィリップス

作曲:グラント・オールディング

照明:ブルーノ・ポエット  音響:ポール・アルディッティ

映像版監督:ロス・マクギボン

 

出演:

オリヴァー・クリス(アテネの公爵シーシアス/妖精の王オーベロン)

グウェンドリン・クリスティー(アマゾンの女王ヒポリタ/妖精の女王ティターニア)

デイヴィッド・ムアースト(饗宴係フィロストレイト/パック、またはロビン・グッドフェロー)

アイシス・ヘインズワース(ライサンダーを恋する乙女ハーミア)

テッサ・ボーナム・ジョーンズ(ディミートリアスを恋する乙女ヘレナ)

ポール・アデイェファ(ハーミアへの求婚者ディミートリアス)

キット・ヤング(ハーミアを恋する若者ライサンダー)

ケヴィン・マクモナグル(ハーミアの父イジーアス)

フェリシティ・モンタグー(大工クウィンス)

ハメド・アニマショーン(機屋ボトム)

ジャーメイン・フリーマン(ふいご直しフルート)

アミ・メットカフ(鋳掛け屋スナウト)

ジェイミー=ローズ・モンク(指物師スナッグ)

フランシス・ラヴホール(仕立屋スターヴリング)

チポ・クレヤ(妖精・豆の花)

ジェイ・ウェッブ(妖精・蜘蛛の糸)

シャーロット・アトキンソン(妖精・蛾の精)

レニン・ネルソン=マクルーア(妖精・カラシの種)

レイチェル・トルツマン(妖精・トコジラミ)

 

STORY

アテネ公シーシアスとアマゾン国のヒポリタとの結婚式が間近に迫る中、貴族のイジーアスと娘ハーミア、若者のライサンダーとディミートリアスがやってくる。イジーアスは娘をディミートリアスと結婚させようとしていたが、ライサンダーと恋仲のハーミアが聞き入れないため、シーシアスに訴えにやってきたのだった。シーシアスから4日の猶予を与えられたハーミアは、ライサンダーと駆け落ちすることにして森に向かう。ハーミアは友人ヘレナにも駆け落ちのことを伝えるが、ディミートリアスに想いを寄せるヘレナも後を追う。森にはシーシアスとヒポリタの結婚式で芝居をする6人の職人が練習をするために集まってきていた。一方、森では妖精王オーベロンと妻タイターニアが取り換え子をめぐって喧嘩をしていた。腹を立てたタイターニアは妖精パックを使い、オーベロンのまぶたに媚薬を塗らせる。いたずら好きのパックはライサンダーたちにも媚薬を使い、ライサンダーとディミートリアスがヘレナを愛するようになる。更にオーベロンもロバの頭に変えられた職人ボトムに惚れてしまう。オーベロンを憐れに思ったタイターニアの命令により、パックが魔法が解き、夫婦は仲直りをする。眠り込んでいたハーミアたちも目を覚まし、ハーミアはライサンダーと、ディミートリアスはヘレナと結ばれ、シーシアス夫妻とともに結婚式が開かれることになる。


"National Theatre At Home"第13弾。

7月10日より日本でも劇場公開予定。

 

 

本作には固定された舞台がなく、可動式の直方体(床は森を意識してかグリーン)を様々に組み合わせて演じられる。客は立ち見で、舞台が変形するたびに見やすい位置へと移動。

いわゆるイマーシブ(immersive、没入型)演劇によるプロダクション。

 

客いじりも多くあり、パックが客の間を通って舞台から舞台へ移動する際、「ロンドンっ子め(Londoners!)」と言うと、その後、客席から「俺はアイルランド人だ!(I'm Irish!)」とのツッコミ。これにはパックもしばし黙って「気に入ったよ(I like that.)」と返答していた。

他にも職人劇団一同が月暦を知ろうというので、客席からスマホを借りるシーンも。最初はロックがかかっていたため解除してもらい、一同がスマホを見ながら、「うわっ、こんな画像が」というようなリアクションをしつつ、持ち主を見て笑いを誘う。最後はセルフィーを撮って返却。

第二幕では客が花冠をつけていて、結婚式に参加しているような感じに。最後はビヨンセさんの"Love On Top"が流れる中、観客を巻き込んでまさにお祭り状態。

 

もう一つ、大きな特徴はオーベロンとタイターニアの役割が逆転されている点。

原作ではパックのいたずらにより、タイターニアがロバ頭のボトムズに惚れてしまうのだが、本作ではオーベロンがボトムズと恋に落ちる。2人仲良く泡風呂に入るなんていう演出も。

職人劇団のメンバーが半分は白人女性、半分は黒人男性というのも意図的なキャスティングだと思うが(しかも劇中劇ではジェンダーフリーな配役をする)、オーベロンがこうした経験を経ることによって彼と表裏一体の存在であるシーシアス(同じ俳優が演じているしね)の態度が変化するあたりが面白い。

最初はヒポリタが透明なケースに入れられて登場するなど随分暗めな雰囲気があったけど(女性たちは『ハンドメイズ・テイル』のように髪の毛を隠した衣裳だし)、シーシアスが変わるためにはオーベロンとタイターニアの役割を入れ替える必要があったわけですな。

 

キャストではボトムを演じたハメド・アニマショーンさん(『バーバーショップ・クロニクルズ』にも出演)が歌あり踊りありで観客を魅了。

パックら妖精たちはエアリアル・シルク(大学の講義の補講としてこの作品を解説していた北村紗枝先生のツイートで知った言葉。笑)を使ったパフォーマンスをして身体能力の高さを窺わせた。