『一人っ子の国』 | 新・法水堂

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『一人っ子の国』

ONE CHILD NATION

 

 

2019年アメリカ映画 89分

監督・製作:ワン・ナンフー(王男栿)、チャン・ジアリン

音楽:ネイサン・ハルパーン、クリス・ルッジェロ

撮影:ワン・ナンフー、リュウ・ユアンチェン  編集:ワン・ナンフー

出演:ワン・ナンフー、ワン・ザオディ(母)、ワン・ジハオ(弟)、ワン・ジメイ(祖父)、ワン・グイジャオ(父方の伯母)、ブライアン・スタイ(リサーチ・チャイナ)、ロンラン・スタイ(ブライアンの妻)、ワン・トゥンデ(元村長)、リュウ・シアンウェン(計画生育宣伝委員)、ユアン・フアル(助産師)、ジャン・シュウキン(計画生育委員)、ワン・ペン(芸術家)、ドワン・ユエノン(元人身売買業者)、ドワン・メイリン(ユエノンの姉)、パン・ジアオミン(香港在住の記者)、ゾン・ジュアンジエ(双子の妹)

 

STORY

1979年から2015年まで中国で実施されていた一人っ子政策。1985年生まれのワン・ナンフーは自分が母親になるにあたって、初めてこの政策について考える。ナンフーには5歳年下の弟がいたが、それは祖父が役人にかけあって認められたものだった。ナンフーは故郷・江西省王村の元村長、計画生育宣伝委員、助産師、芸術家に取材し、中絶や遺棄によって数多くの赤ん坊の命が奪われていた事実を知る。更に人身売買業者によってアメリカ人の養子となった子供もいて、伯母も子供を泣く泣く売り渡した一人だった。ユタ州でリサーチ・チャイナを立ち上げたスタイ夫妻は、自身が養子にした3人の娘の実の親を探すが、探し当てた親は当局が用意した偽物だった。また、香港に亡命し、一人っ子政策についての本を刊行したパン・ジアオミンにも面会し、双子の姉がアメリカにいるゾン・ジュアンジエにも取材する。


サンダンス映画祭グランプリ(ドキュメンタリー部門)受賞作品。

 

これまた町山智浩さんが『たまむすび』で紹介されていた作品なのだけど、改めて中国という国の恐ろしさを感じずにはいられなかった。

特に一人っ子政策を推進するにあたってのプロパガンダ。歌や踊り、街中に溢れるスローガンで一人っ子政策がいかに素晴らしいかをアピールする。それが2015年、一人っ子政策が中止されるやいなや、今度は「一人よりも二人がいい」と多産を奨励し、これまた人々が歌ったり踊ったりしている。

まさに洗脳された状態で、監督の家族も町の人々も「仕方なかった」と口を揃える。監督はそうした人々に対しても容赦なく批判の目を向ける。もちろん一人っ子政策にも賛否両論あっていいとは思うが、政府の方針に盲目的に従うことは一党独裁制の弊害と言えるだろう(自民党政権の批判をすると非国民ばりのレッテルを貼られる日本も似たようなものだけど)。

 

一人っ子政策を推し進めるにあたって、犠牲となった命の数にも愕然とさせられる。

女の子より男の子が喜ばれるのは日本も似たようなところがあるけど(特に田舎は)、「二人目も女の子だったらバスケットに入れて道端に捨てていた」などと平気で言う。そもそも監督の名前も女性なのに「男栿」(栿は柱の意味)だし。

 

助産師の証言も衝撃的。何人子供を取り上げたかは覚えていないけど、5~6万件の不妊手術や中絶手術を行ったというこの女性は、今では罪滅ぼしの意味も込めて不妊治療を行っている。

更に衝撃的だったのが、ワン・ペンさんの写真。

黄色いゴミ袋に入れられて道端に捨てられた赤ん坊の数々には目を疑うばかり。

映画の冒頭に「一部、刺激的な映像が含まれています」と断りがあったのもむべなるかな。

 

しかし、ワン・ナンフー監督、よくぞこの映画を作ったものだな。

中国当局に目をつけられても不思議じゃないけど、やはりそこには一人っ子政策の犠牲となった人々のことを伝えずにはいられない怒りがあったのだろうな。