『月の獣』
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【東京公演】
2019年12月7日(土)~23日(日)
紀伊國屋ホール
作:リチャード・カリノスキー 演出:栗山民也
翻訳:浦辺千鶴
美術:伊藤雅子 照明:服部基 音響:高橋巌
衣裳:西原梨恵 ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:坪井彰宏 舞台監督:藤崎遊
出演:
眞島秀和(アラム・トマシヤン)
岸井ゆきの(セタ・トマシヤン)
久保酎吉(老紳士)
升水柚希(ヴィンセント)
STORY
第一次世界大戦の終戦から3年が経った1921年、アメリカ・ミルウォーキー。生まれ育ったオスマン帝国(現・トルコ)の迫害により家族を失い、一人アメリカへと亡命した青年・アラムは、写真だけで選んだ同じアルメニア人の孤児の少女・セタを妻として自分の元に呼び寄せる。新たな生活を始めるため、理想の家族を強制するアラム。だが、まだ幼く、心に深い闇を抱えるセタは期待に応えることができなかった…。二人の間に新しい家族ができぬまま年月が経ったある日、彼らの前に孤児の少年ヴィンセントが現れる。少年との出会いにより、少しずつ変わっていくアラム。やがて彼が大切に飾る穴の開いた家族写真に対する思いが明らかになっていく。【公式サイトより】
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1995年初演、2001年にはフランスのモリエール賞を受賞した作品。
日本では2015年に俳優座劇場のプロデュースで初演。演出は今回と同じく栗山民也さんで、夫婦を石橋徹郎さんと占部房子さんが演じた。
本作は老紳士の回想という形式を取っていて、1921年、孤児のアラムとセタが結婚するところから始まる。
両者ともオスマン帝国によるアルメニア人大虐殺を生き延びてアメリカに渡ってきた移民であり、アラムは家族写真の顔に穴を開け、父親のところに自分の顔を貼りつけたものを飾っている。
そしてその穴を埋めるべくセタと子作りに励むが、一向に子宝に恵まれない(結局セタのせいにされるんだけど、アラムは検査したのか気になるところ)。
一幕の終盤、セタがいくら話しかけても聖書を読むことしかせず、お互いに聖書からの引用で相手を非難するやりとりが見ていて切なくなる。
二幕に至り、ヴィンセントの存在が夫婦の関係を変化させていく。
セタは孤児院から脱走して路上生活を送るヴィンセントを家に招き、スープを食べさせ、ケーキを餌にして風呂に入れるなど世話を焼く。
ある日、ケーキの配達の手伝いをするようになったヴィンセントが、コートもなくみすぼらしい姿で現れる。
見かねたセタがアラムの父親のコートを着せてやるのだが、予定より早く帰宅したアラムがそのコートで象の真似をしているヴィンセントを見て激怒する。
後に明らかになるのだが、そのコートはアラムを虐殺から救ってくれたもので、父親の形見以上の存在だった。
一方、セタも自分の身代わりに姉がトルコ人にレイプされたという暗い過去があり、夫の目にトルコ人の姿を見いだしてしまう。
恐らく子作りも彼女にとっては苦痛なものであったことであろう。
ちなみにタイトルの「月の獣」は虐殺の2年前、トルコで発生した月蝕のことなのだけど、不妊という意味も含んでいるのかも。
最後に夫婦はヴィンセントを養子として迎えることにするのだが(やがて彼は老紳士となる)、改めて「家族」という言葉の重みを感じさせてくれる良質な作品だった。
岸井ゆきのさんは最初は15歳という設定で人形が手放せないなど幼さも残しつつ、年を経るにつれ大人びたセタを演じてやはりただ者ではない。
眞島秀和さんの新しい家族を希求する姿や天衣無縫と言っていい升水柚希くんもよかったけど、陰のMVPは久保酎吉さん。ベテランの味わいある演技がこの作品全体を温かく包んでいた。
上演時間約2時間22分(一幕1時間、休憩15分、二幕1時間7分)。