コムレイドプロデュース『神の子』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

コムレイドプロデュース

『神の子』

 

 

【東京公演】

2019年12月15日(日)~30日(月)

本多劇場

 

作・演出:赤堀雅秋

舞台美術:土岐研一 照明:佐藤啓

音響:田上篤志(atSound)

衣裳:坂東智代 ヘアメイク:鎌田直樹

演出助手:松倉良子 舞台監督:南部 丈

宣伝美術:榎本太郎 宣伝写真:江森康之

宣伝衣裳:森保夫 宣伝ヘアメイク:林摩規子

制作:佐々木康志、新居朋子、武藤香織

プロデューサー:西田圭吾

 

出演:

大森南朋(警備員・池田守(48))

長澤まさみ(ボランティア・田畑美咲(32))

田中哲司(警備員・五十嵐健(53))

でんでん(同・土井春彦(65))

江口のりこ(スナックのママ・林田美保(39))

石橋静河(ボランティア・斎藤真理子(24))

永岡佑(サラリーマン・横山秀樹(37))

赤堀雅秋(ニート・若林国男(50))

川畑和雄(ボランティア・渡辺正人(36))

飯田あさと(フリーター・青木和弘(32))

豊田温大(林田の息子・賢人の声)

 

STORY

工事現場の警備員として働く池田、五十嵐、土井の3人は、ともに独身でパチンコに行くのも、スナックに行くのもいつも一緒。ニートの若林に因縁をつけられながらも、変わり映えのしない退屈な日々を送っていた。一方、駅前広場でごみ拾いのボランティアをする田畑と斎藤らは、タバコをポイ捨てするサラリーマン・横山の悪意にもめげずに活動を続ける。池田たちの行きつけのスナックのママ・林田は、ほとんどストーカーのような土井の行動に苦言を呈する。林田は半年前から五十嵐と関係を持っており、池田もそのことに薄々気づき始めていたが、五十嵐はシングルマザーとして息子を育てる林田のアプローチを重荷に感じていた。ゴミ拾いのボランティアに参加するようになった池田は田畑に好意を寄せる。偶然出会った夜中の公園で、自分が最低の人間だと打ち明ける池田を優しく抱きしめる田畑。やがて五十嵐もボランティアに参加。土井も一緒にボランティアグループ主催のウィンターキャンプに参加するが――。


『同じ夢』からおよそ4年ぶりに赤堀雅秋さん、大森南朋さん、田中哲司さんが集結(光石研さんがいないのが残念)。

 

『美しく青く』も素晴らしかった赤堀雅秋さん、ここ数年は作家として脂が乗っているという感じ。

 

序盤、田畑(どうでもいいけど田畑と聞くと『いだてん』を思い出しちゃうじゃんねぇ!)とともにボランティア活動をする斎藤(フルネームは韓国文学の翻訳家と同姓同名!)が、タバコの吸い殻をポイ捨てして立ち去るサラリーマンを見送りつつ、そうやって悪意をまき散らすのはせいぜい1日にひとつかふたつ、でも自分たちはその無数の悪意を拾うことができると語る。

この台詞、結構ポイントかなと思うのだけど、そうやって拾っても拾っても悪意は決してなくなることはない。それが証拠に、このサラリーマンは最後、工事現場の前を通り過ぎる際に再び吸い殻をポイ捨てする。

 

たかがポイ捨てで悪意とはいささか大袈裟かも知れないが、もっとあからさまに悪意を見せる人物が赤堀さん自ら演じる若林。

工事現場では道幅が狭くて自転車が通れない憤懣を警備員の池田にぶつけ、後半に再登場した際はナイフを手に身勝手な理由をつけて、これから無差別殺人をするとのたまう。

我々は大なり小なりこうした悪意と日々接している。そうした現実から救いを求めて宗教に走るような人もいるが(ボランティアグループの実情は新興宗教らしいということが終盤に明らかになる)、警備員のダメダメ3人組は現実と向き合いながら生きていくことを選択する。土井は新たに警備員となった渡辺と弁当を頬張り、五十嵐は林田とくっつき(林田は妊娠)、池田も再会した田畑とまた新たな物語を紡いでいく予感とともに幕が閉じる。

彼らを包み込むように降る雪が温かく感じられた。

 

赤堀作品に決まって出てくるのがカラオケのシーン。

本作でもカラオケ以外に様々なシーンで歌が歌われたり、流れたりする。列挙すると、青山テルマ「ここにいるよ」、ジュディ・オング「魅せられて」、氷川きよし「きよしのズンドコ節」、加山雄三「お嫁においで」、子門真人「およげ!たいやきくん」、「マイム・マイム」、加藤和彦と北山修「あの素晴しい愛をもう一度」、更にはバレエ『ロミオとジュリエット』の楽曲もある。

これだけジャンルも多岐にわたる楽曲が本篇のあちこちで使われるのは、一つには赤堀作品がどこにでもいるような市井の人々を描いていることと密接に関係があると思う。バレエを除けば、上記の音楽は多くの日本人にとって馴染みのあるものであり、それこそカラオケで歌ったことがあるという人も多いだろう。そうした楽曲用いることで、観客は舞台上の登場人物たちが生きる世界が自分たちの日常と地続きだと感じられる。

 

長澤まさみさんの舞台を観るのはこれで5回目だが(『キャバレー』だけ見逃した)、同じ年齢のこれだけ等身大な人物を演じるのは初めてでは。自然体な演技が新鮮。

江口のりこさんも秀逸。自分でもイタいと分かっている女性をユーモアを交えて演じる。

大森南朋さん、田中哲司さん、でんでんさんのダメ男ぶりもよき。

 

上演時間約2時間6分。