ペドロ・コスタ×小野正嗣
「映画が生まれる場所、言葉が生まれる場所」
『歩く、見る、待つ ペドロ・コスタ映画論講義』(ソリレス書店)をめぐって
ペドロ・コスタ監督は今回、東京フィルメックスで新作『ヴィタリーナ』が上映されたのに合わせて来日。
まずは監督のことを“ペドロ先輩”と呼ぶ小野さんから新作について、美しい映像と音についての言及があり、“芸術的”と呼んでいいのかという問いかけ(監督自身は“芸術的”なるものに否定的)。
監督は「観客がこういった映画を観るのに慣れていない」とした上で、この映画はある種の贈り物のような作品と説明。初めて映画がスピリチュアルなものであると体験したとか。
次いで扉や窓、枠といったものについての質問があると、監督はそういったものが出てくるのは家を撮っているからだとひとまず返答しつつ、この答えも無理して言っているだけとまぜっ返す。
また、理想的な映画は理想的な家のようなもので、誰でも共有できるものから出発できる映画が好きだとのこと。
講義録『歩く、見る、待つ』にも「映画作りは家作り」という言葉があるそうで、小野さんがたびたび同書から監督の言葉を引用するので、『毛沢東語録』のようだと笑いを誘っていた。
映画を撮ることは難しいと語る監督の「暗闇を更に暗くしろ」というゲオルク・トラークルの詩からの引用が心に残った。
休憩を挟み、文学について聞かれた監督はポルトガルでは詩が重要であり、自分の作品も小説よりは詩に近いと返答。
小説はあまり読まず、読むという考えはわくわくするけど読まない。
映画についての本やいろんな職業についての本は読むとのこと。
ここで監督が読む映画についての本の書き手として、会場にいた蓮實重彦さんとクリス・フジワラさんに話を振る小野さん。
蓮實さんは「インプロヴィゼーション(即興)は得意なんです」と言いつつ、棚からトーマス・ベルンハルトさんの『凍』を取り出し、お薦めしていた。監督もこの作品自体は読んだことはないが、自伝は読んだことがあるそう。
蓮實さんは小津だけじゃなく成瀬も観るよう巨匠の口から言ってもらいたいとリクエスト。成瀬のことなら、と振られたクリス・フジワラさんはポンピドゥーセンターで上映する映画として、ペドロ・コスタ監督が成瀬巳喜男監督の『女の中にいる他人』を選んだ理由を質問。監督は選んだ理由は覚えていない、いちばん最近観た成瀬作品だと言いつつ、人間に対する残酷さ、暴力を描いている点を評価していた。
監督は終始、フランス語でトーク。どちらかと言うと淡々と話す監督の言葉を時には感情を込めて訳す芳野まいさんの通訳ぶりがよかった。
終了後、監督の著書『歩く、見る、待つ』にサインをして頂いて帰ろうとしたところ、クリス・フジワラさんと英語で話している男性が。誰かと思ったら、園子温監督で思わず会釈したら返してくれた(笑)。見た感じ、お元気になられたようで何より。