今日、久しぶりに親に電話した。元気そうだった。


いつも、俺のことを気に掛けてくれる母。


多分、なんの変哲もない親だとは思うし、聞かされて面白いとかは


あんまりないと思う。


だけど、今日、話して初めて痛感した。


『もっと親孝行したい』



なんつーんだろ。


俺、親のことが憎かったんですよ。もう26年間、大嫌いだった。


そこは尋常じゃないんですけどね(笑)


親とは、仲が悪いどころじゃなかった。いつも衝突してた。


「子育ては、失敗してこそ」って、何かの本に書いてあったけど、


間違ってないと思う。



親に束縛されて、雁字搦めに育ったら、きっと親に感謝さえしない


人間になっちゃうんだよね。


恋愛と同じかもしんない。


だって、例えば、彼氏が「俺の側から離れるな!俺の価値観に逆らうな


!!」って四六時中言ってたら、


頭、おかしくなりそうじゃん(笑) ずっと、どうやって逃げ出そうか?とか


書置きでもして、家から失踪しようか、とか考えるじゃないですか。


まさに、監禁で。そんな精神状態で、2人の人間の仲が上手くいくはずがない。


よく 「人質が、犯人に親近感を次第に抱くようになって・・・」とか言うけど、


軟禁されたら、普通に解放しろ!!ってムカツクじゃん。


腹立つでしょ?なんで、親近感なんだよって。



また話が左に反れたけど、刑務所の監禁みたいな状態が、ずっと続いてて。


ある日、家出したんですよ。で、結局、捕まって。


そしたら、親父が警察に通報したりで(苦笑)かなりの剣幕で、叩かれたのを


覚えてます。


とにかく、厳しかったっすね。


TVなかったですからね、僕の家(笑)


見てたら、勉強しないからって理由だけで。


だから、思春期の頃、1度もTV見たことないんですよ。


逃げたくなるでしょ?


で、ずっと1人立ちしたくて。高校も寮があるところをわざわざ選んで。


とにかく、親の目から逃れたかった。


煩いんですよ、社会、社会、社会、社会、社会、社会、社会、社会って。



解かってるよ、社会性のことでしょって。


煩いし、殴るし、説教ばっかだし、遊びに行かせてくれないし、スポーツ


ばっかだし、学校の先生は、そんな時、何の役にも立たないし。


俺、キレたら、危ない人間だと思った。


だって、「死」が過ぎる時、子供の頃からよくあったもんね。


この場面で死んだら、楽なんじゃないのかって。



TV見ないとかもそうだけど、普通に友達との会話で詰まるんですよ。


だから、なかなか共通の話題がないんです。


俺が知ってたの、「新聞のコラム」の内容とかだったりしたからね(笑)


そんな小学生、怖いよ。


やっぱ、子供は遊んで、外で学ぶじゃないっすか。


だから、ずっと親を憎んでたし、とにかく離れたかった。


でも。


今頃になって、ふと思うのは、例えば、自分に子供ができたら、


親に対して自分の子が「パパなんて、大嫌い!!」ってずっと言って


たら、ちょっとどう接していいか、わかんないんじゃないのかなって。


初めて、親の立場を意識するようになった。



だから、やっぱ、親には厳しくも殺されそうになりながらも(苦笑)


ここまで育てられたわけだし、感謝しなきゃなって。


うーん、ただ、まだ許せてない部分もあるけど・・・。


でも、親にはちゃんと、今までのお返しをしたいっすね。


そう思えます。



だから、何としてでも、大成して、親を楽にさせたいって思いますね。


そのために、俺は死んでも書き続けますよ。




『無駄キング』


1.

自称、そば屋の立ち食い娘  秋風が頬をかすめ


涼しくなった頃 私にも出来た彼氏 過去のデータは無視


して付き合うことになる  もうすぐ冬になる


相手はバイトの1こ下  長かった恋の車線、追い越した


お似合いコーデュロイ  着る彼、吐く息が白い


手を繋いで歩いた バイト帰り


ナイトがメイン そんな横顔見る時でさえ


不安に襲われる 嬉しいはずが報われる


こともないのかって1人怖がっている


厚手のコート、着飾る彼にそっと


ポジティブな部分が好きだと言われ、じっと


彼のことを見ている  きっと未来が羨んでる



(HOOK)


とにかくムジャキング、おめでとう


念願の夢叶ったじゃん、これでどう?


なんてお決まりの台詞言う、俺じゃない


幸せは、他人の手で創るものじゃない


ムジャキングが、どう感じるか、もしくは


ポジティブ・シンキングじゃない君、らしくない



2.

彼女曰く 「MとMは合わない!」 ならば、SとMなら誰とでもお付き合い?


性格なんて、グリコのオマケでしかない


どうして彼は、君を好きになったの?


それがすべてを物語ってんじゃないの


不安は不安を呼ぶ 1人なら感じるだったはずの虚空


それが今じゃ、2人で何気なく道を歩く


「側にいて」それだけで幸せじゃん


ひたすら恋に飢え、蕎麦食いてぇ。とか言って腹空かせてたんだ


以前のムジャキングなら


無邪気がとりえ!って前向いてた


そこの表情に現れた 彼は笑顔に惚れた


はずじゃないのかな、 例えるなら、凍てつく寒さに堪える花



しかし、なんなんだ、『ほんのり、よっぱぴぃ』って!


酒飲んだら、ゴメン、やっぱ聞いて!


なんて彼に抱きつきディープキス


軽すぎず 重すぎず


それのどこが、不安なんだ!?


人呼んで登山家  誰かの落とした財布、拾うんだ


優しさ余って、彼と出会い、運が


上向いてきたってのに


まだ激しく燃える赤い色に


なりてぇってかい  そんな言葉に


俺、常時、無防備  突き刺すなよ、言っておくが、俺には誰もいない


ムジャキングが歩む、きょうび


ささやかな幸せである夜に



(HOOK)

とにかくムジャキング、おめでとう

念願の夢叶ったじゃん、これでどう?

なんてお決まりの台詞言う、俺じゃない

幸せは、他人の手で創るものじゃない

ムジャキングが、どう感じるか、もしくは

ポジティブ・シンキングじゃない君、らしくない




ところで、俺、無駄キング


君と違い、『逆・ボーイズ・ビー・アンビシャス』


今年でもう26と半月になる


それでもだいぶ顔に  余裕出てきた 眞鍋Like かをり


1人でも、孤独なんて感じない


集団でいる時のほうが、よっぽど無駄life


無邪気ではなく、ムラがない


無駄であっても、『ムジャ』じゃない


だけど俺、君みたく些細な幸せ、感じたい




Special Thanks☆ ムジャキング

団体交流戦は、3戦で1勝2敗に終わった。


散々な結果だった。おまけに顔面にできた痣。昨日より、腫れは引いた


ものの、殴られた後が伺える。他校の選手たちも、僕の顔で話は持ち


きりだったらしい。


そんな状況をよそに、僕は宿舎に戻り、帰り支度をし始める。


後輩の小野が歩み寄ってくる。


「先輩、あんなに腫れたのに、調子良かったっすねぇ」


僕は、小野の坊主頭を鷲掴みしながら、無気力に答える。


「外に無断外出したのが、気分転換になっただけだよ」


小野は目を丸くする。小さい身体の両腕には、同期の仲間のバッグが


4つも抱えられてある。


「先輩のも、持ちましょうか?」


僕は、畳から立ち上がり、「いいよ、俺のは・・」とバッグを背中に回して


持つ。小野は、僕の背後にぴったり後をつけてくる。付き人じゃあるまいし。



マイクロバスは、昨日の夜霧のせいで、まだ霜が残っている。水滴が、


窓ガラスに滴り、サッシの部分に水が溢れている。


僕は、バッグを投げやりに地面に叩きつけ、バスの窓に1文字ずつ指で


なぞった。


小野は、そんな僕を不思議そうな表情で見守っている。


遅れてきたメンバーが、1人、また1人と駆けつけてくる。


「あれ?何やってんですか!!先輩!!」


大声で叫ぶ後輩を無視し、最後の1文字をハネを丁寧に書き込む。


暴力教師。


4面の窓に書き殴った文字。


今、まさに、僕がその犠牲者の1人だ。仲間が咄嗟にその様子を見て、


腹を抱えて笑っている。


暫くすると、宿舎から猪瀬監督がのっそのっそと重い腰でやってくるのが


見える。仲間の1人が、消したほうがいいよ、そんな言葉を投げ掛け、


手をワイパーのようにして拭き取る。


「長谷川先輩。習字、習ってたんすか?」


高山は、後輩の川田の声を遮り、集合をかける。


半円に群がり始める部員たち。


僕は、円から少しはみ出すようにして、1歩後ろに立った。


監督は、一昨日の暴力など全くおかまいなしといった様子で、


成績の悪かった部員を貶し始めた。


そして、最後まで僕の暴行の話は出て来なかった。


颯爽とマイクロバスに乗り込み、最後部から1つ手前の席に座る。


長く感じられた合宿。そういえば、今日はクリスマスだった、そんな


会話でひたすら意気消沈してる後輩もいた。


僕は、窓の外に流れる風景をぼんやりと眺めながら、ウォークマンの


イヤホンを耳につける。


一昨日、行った丘の上がかすかに見える。


少し進むと、マイクロバスはトンネルに入る。僕は真っ暗になった外に


映る自分の顔を見つけた。痣が目立つ。


僕は権力には屈しない。何があっても、高校3年間をこの、暴力学園で耐え


抜いてやる。確固たる意志をはっきりと確認する。


街は、次第に薄暗くなる。紫色に染まった空。暫く、彼女からまた遠く離れた


地獄のような生活が始まる。


バスに揺られて空想している時だけが、僕の唯一の安らぎだったと思う。


窓に、さっきなぞった「暴力教師」の師の半分の文字が、風に流され、


水滴で消えかかっていた。


僕は、深い眠りに就く。



母校に戻った頃、時計の針は22時を指していた。彼女は、まだ練習に明け


暮れているだろう。僕は、自分の実力のなさに、嘆いていた。


そして。車から出てきた男。


彼氏なのだろうか?僕は、集団の列から離れ、1人虚しく寮へと戻る。


疲労感からか、足取りは重い。部屋に入った時、僕は極度の痛みに


襲われる。


虫歯を麻酔なしで抜いた時のように疼く。僕は、枕を抱きかかえ、そのまま


嗚咽を漏らす。


悔しさと、痛みが入り混じり、身を捻って悶えた。


脳裏に、彼女のコートを動き回る姿を見つける。


僕は、彼女の練習の痛みと、自分の痛みをただただ重ね合わせていた。



翌日から練習が普段通り、始まった。


正月の帰省前とあって、寮生は、少し浮かれ気味だった。僕の住んでいる


寮は、バドミントン部以外にも、バレー部や剣道部、柔道部が在籍して


いた。体格は、彼らのほうが遥かに恵まれていて、集団でいると僕等は皆、


小さく映る。


朝、寮を出掛ける前に、玄関先にある公衆電話で、彼女らしき人と話す生徒


を見つける。


「おっす。また、彼女か?」


そう僕が声を掛けると、受話器を片手に、話しながら頷く。


クリスマス、という言葉が聞こえる。


大男が、メリークリスマス。僕は、彼らが彼女と話す時、僅かだが、優しさを


感じる。冷たいのは、皆、大人たちだけだ。


暴力にしたって、厳しい規律にしたって、それが何の役に立つというの


だろう。ただ、僕らを社会という、監獄に放り投げる為の手段でしかない。


僕にとって光は、コートで汗を流す、たった1人の選手だけだった。


僕は、タオルを肩に掛け、颯爽と部室へ向かう。


次の全国大会で、彼女に追い抜くため。そして、自ら光放つため。







レフトハンド・ハイジの名言集

『ジワリズム』 好評発売中止!!



「オレンジレンジは、新曲を温めても、いいとこ、3分でリリースしてしまう」



「あの人は、本当に怖い人ですよ。

僕が、パンチラ見せても、絶対に許してくれないですからね」



「ああ!お願いだから、私の乳首を質屋に入れないでください!」



「鬱祭り」



「まったく、君は生え際フェチだなぁ」



「あのー・・。迷子になりそうなんですけど、ここはどこですか?」



「君!!そんな愚問は、サイレントスズカくんに聞き給え!!」



「お前なんか、羊に噛まれて、ひつじ年生まれになってしまえ!」



「僕はよく台詞をカミますよ。1文字でもカムんです・・」



「課長の口が、あまりに臭いので、今日は早退させて頂きます」



「社長には、やっぱり、フラフープが1番お似合いだと思いますよ」



「はい。寝て、目が覚めたら、大体の仕事は片付いていると思います」



「 ヨダレ-3=聖水 」



「彼は、まるで、ハートを射止められないエンジェルのようだ」



「世界の中心で、寒いギャグを避ける」



「あなたの側に、いつまでもいたいけど・・・・。外が寒くなってきたので、自殺します」



「アンタ!!スケボーキングが、いつまでもスケボーに乗ってると思ったら、

大間違いだかんね!!」



「私は、おしんこに処女を奪われました・・」



「髪の毛が、蒙古襲来の後みたいになってますよ!」



「僕が拾ったのは、その財布ではありません。バナナチョコパフェです」



「君の心に縦列駐車」



「社内が暑くなってきたので、スプリンクラーを撒いてきます」



「ああ、それなら、うるせいやつらの8巻を読めばわかるよ」



「ちょっと待て!!やっぱり、いいや」



「1人の乱」




<続かない>



高山は、僕の背中を押し、ドアの前へ突き出す。僕は体勢がよろけ、


ふらふらと前のめりになる。食堂では、合宿で集まった選手達が食器


を片付けている所だった。浴びる視線。


僕は、自分の顔を庇いながら、首を捻り俯き加減だった。


どうやら、僕の顔の痣が気になって仕方ない様子だ。驚きの表情を


合宿のメンバー全員が浮かべていた。


「無視していいよ、早く食べようぜ」


高山は相変わらず、微笑みながら、席に座る。


目の前にいた後輩たちが、僕を凝視している。そんなに珍しいか?


そう言い掛けた時、1人が声を上げた。


「ちょっと、やりすぎじゃないんですか?!それ・・・」


僕は顔を抑えることなく、右手で箸を持った。かすかにお腹が鳴った。


昨日の昼から何も食べてないのだから、当たり前だけど。


高山は、威勢よく、いただきます!と言いながら食べ始めた。


僕もそれを確認して、後輩の質問攻めを聞き流し、啄んだ。


久しぶりに喉に通る水が美味しかった。ただ、口の中全体が染みるまでは。



午後からの練習は、交流戦だった。僕は、抜け出した罰として、3軍でプレイ


をすることになった。その方が、気楽。内心、気持ちは帰路を辿っていた。


僕等のチームは、後輩2人と同期の2年生、そして僕だった。


急に編成されたチームともあって、監督の監視下からは遠ざかっていた。


何気なく送る拍手。


昨晩の出来事を思い出していた。夜道の街灯が僕を。そして、彼女のいる


高校を灯していた。僕は、『聖経高校』と書かれた正門の鉄柵を飛び越えて


忍び込んだ。


プールの水面に月が映し出されていた。風が吹くたび、黄色い光が歪む。


僕は、プール脇を駆け抜け、体育館へ周った。


場所は、事前に聞いていたのだ。


聖経高校は、男女共学で、部活動は男子も強く、全国クラス。そのため、


合宿で知り合った選手の1人に、校内の配置を聞き出していたのだ。


彼は、快く教えてくれた。僕は、体育館で練習時間が夜の20時までと


いうことを知っていた。20時に時間を合わせるには、19時には合宿先を


離れなければならない。


僕は地図を頼りに、高校の体育館まで行き着いた。時計は、19時45分を


指していた。


彼女が。いた!!小声で、囁いた。


コートに2面、部員がずらっと並んで練習を続けていた。僕は、息を潜めた。


コートを舞う、彼女の姿は、2年前とは別人だった。白いシャツにかすかに


背筋のブラジャーが透けていた。ひたむきに打ち込むほどに、額を伝う汗。


彼女がスマッシュを放つ。罵声が聞こえる。


女子の女監督だ。眉間に皺が寄っていて、今にも戦闘態勢だった。


「彩!!何度言ったらわかるんだ!!それで、チームを引っ張って


行けるのか!!」


練習時の僕と重ね合わせていた。彼女も罵倒され、我慢している。


彩。下の名前。僕は、思えば上の苗字でしか呼んだことがなかった。


『三田さん』 僕は、三田さんと敬意を払って呼んでいた。周囲も


三田さん、と言っていたが、それは皆が距離を置いて話すのと、


意味が違っていた。


僕にとって、三田さんは、憧れなのだ。美人で、汗が似つかわしくない人。


それでも、練習の時は違う表情を見せる。しかし、どこか楽しんでいる様子


でもある。こんなに辛い、過酷なトレーニングなのに。


僕は、もっと近くで彼女を見たいと思い、茂みから顔を乗り出そうとした、


その時。思わず、うつ伏せに倒れてしまった。


がさっと音がした。咄嗟に身を気の裏へと隠す。


「やばい!見つかったかもしれない・・・」


僕は高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、震えている。


監督の罵声が一瞬とまったが、直後にさきほどより大きな声を張り上げた。


「どこ見てんだ!!彩!!集中しろ!!」


ほっと、胸を撫で下ろす僕。その後の練習は、深夜22時まで続いた。


彼女1人が、猛特訓を受けていた。よほど、期待されているのだろうと


思った。


月が頭上に上がる頃、体育館の電気は落とされた。


僕は、身体を捻り、体育館裏の木の片隅で待つことにした。


着替え終わった彼女の姿を捉える。


仲間とたいわいのない会話や明るい笑い声が聞こえる。


僕は、猫のようになりながら、身を縮める。裏門から出るようだ。


こっそりと後を付けていった。


僕は、三田さんと一言でもいいから会話したかった。やみくもに


彼女達の横並びの列を追う。


「じゃあね!バイバイ!!」


彼女が1人、違う方向へ行くのを目で追った。両手のバッグが後に遅れて


捻れる。


僕は必要以上に息が上がっていた。極度の緊張。今、行かなくてどうする!


僕は自らを奮い立たせ、思い切って背後から前に回って声を掛けようと


した、その時だった。


1台の車が彼女の前に停まった。青いカローラだった。ナンバープレートが


微かに見えた。神奈川ナンバーだった。恐らく、両親か、友人だろう。運転席


のドアが開く。


彼女は少し脚を弾ませながら、手を振っている。


車の中から出てきたのは、20代前半の男だった。僕は、戦慄を覚えた。


肩が少しずつ震え始めるのを感じた。もしかして、男・・。彼氏。


僕は、自分の目を疑った。足が完全に棒になっていた。冷たい風に、


手が悴む。


彼女は、男に親しげに会話した後で、助手席に周り、颯爽と乗り込んだ。


青い車は、暗闇の中、灰色の煙幕を巻き、高校と正反対の方角へと


去っていった。


僕は、ただ、呆然とその一部始終に見とれているだけだった。結局、何も


話し掛けられなかった。


自分に対する不甲斐なさ。徐々に押し寄せる悔しさ。


僕は、強く握り締めた拳をじっと見続け、涙を堪えた。


辺りは、街灯と僕だけが取り残されていた。寒さに震え、孤独感に


苛まれた。


僕は、自分の学校とは他の、高校の前でたった1人きりだった。



その後、僕は1人肩を落とし、歩いて帰ったが、経路や風景など、


全く覚えていない。感じたことのないような敗北感。


頭の中のトラックを、何周も何周もぐるぐると周り続けているだけだった。



「先輩!!長谷川先輩!!聞こえてるんでしょ!?先輩!!!!」


僕はうっかり、彼女を思い出していた。後輩が、僕と目先近くまで寄り、


上から見下ろしていた。拍子に、両手をフロアに付き、仰け反るように


壁際へ頭を擡げた。


「先輩、やっと気付いた・・。次、先輩の試合ですよ!!」


「あ、ああ!解かってるよ、そんなこと!」


僕はたじろぎながら、ラケットのグリップを握り、我に返る。


背後から、同僚の声がする。


「最近、長谷川、どうしたんだよ・・。無断でどっか、ほっつき歩いてるし。


らしくねーなぁ」


僕は目の前にある試合に気が向かない。


ワックスが一面、塗られたコート。照明で反射し、眩い光となって目に


飛び込んでくる。


猛特訓の三田さん。いつの間に、あんなに軽快なフットワークが出来るよ


うになったのだろう。そんな空想に耽りながら、僕は、相手選手と挨拶を


交わした後、プレイと同時に左右に身体を傾けた。


重心移動。右足の小指のつま先にぎゅっと力を入れ、左へ流れる。


シャトルの真下へ動く。


彼女を思い出す時、僕はグリップに力が入る。相手コートには、いつも


彼女がいた。それが、例え、幻想の世界だったとしても。


一心不乱に、アリーナで彼女を追い求める。


ふら付いた足元。彼女への想い。それだけで、身体を支え続けていた。





「左手」



半島が一望できる丘の上にいる。僕は、潮風を真っ向から受け、


Tシャツが靡くのを、ずっと抑えていた。晴天の空が海を飲み込む。


コバルトブルーは、どこまでも深く、僕の存在すら忘れ去っている。


あの日、見た夢。


それが現実に変わるなんて、8年前の僕が考えただろうか。


運命だと思っていた。彼女と出会い、別れ、そして1人きりだった。


初めて見た時。彼女は、僕を尊敬の眼差しで眺め、今となっては


僕は彼女に憧れを抱いている。


風が木々をざわつかせる。木漏れ日の作った影が揺れる。


僕は、左手をずっと、ずっと握り締めている。



宿舎に戻ると、チームメイトが待ち構えていた。


「おーい!!どこ行ってたんだよ!みんな、探してたんだぞ!!」


息を切らして僕の下へやってくる。仲間の蛭間が声を掛けてくる。


「監督が呼んでるから、行って来いよ。かなり怒ってたけどな・・」


僕は冷たい廊下をすたすたと、靴も履かずに裸足で歩いた。


非常階段の照明灯が緑色に光っている。壁を手で触りながら、


監督の猪瀬がいる部屋まで歩いていった。


ノックする音が辺りに響き渡る。静まり返った部屋の中。


どうやら留守のようだ。


引き返そうと思った矢先、突然、扉が開く。


目の前に先生。小声でぶつぶつ呟いている。言い訳しても


仕方ない。僕は、半ば諦めながら、自ら部屋に入ろうとする。


その瞬間、監督が僕の襟を掴んで、一発、頬を殴った。


鈍い音がした。


拍子に、その場に倒れこむ。体勢を整えようとすると、監督が


睨みをきかせて言い放つ。


「お前、集団行動を乱してるの、解かってるのか!!」


今度は、平手打ち。


頬にじんじんと響く。バチン、バチン。


暫く経つと、頬が腫れ、熱を帯びてくるのがわかる。


それでも、監督は僕を罵りながら、ひたすら平手打ちやパンチを


僕の顔めがけて、繰り出してくる。


気付くと、監督は息を切らし、それでもまだ僕のことが憎いのか、


罵声を浴びせながら殴ろうとしてくる。


「今、何時か、わかるか!みんな探してやったんだぞ!お前1人を!!


え!!何処行ってたか、言え!!そんなに殴られたいか!!」


僕はひたすら沈黙を押し通した。何故、殴られているのかも解から


なかった。


ただ、僕は、海の見える場所へ行ってきただけ。


帰り際、左手を見ようと思っただけ。


それでも、監督は、僕を殴る。我慢していると、涙が自然と溢れてきた。


悲しくはない。ただ、頬が麻痺し、眼窩の神経が緩んでいるせいだ。


僕は、ずっと左手をぶら下げ、右手だけでカバーしていた。


力の強かった監督は、いとも簡単に僕の腕を振り払い、そこから顔面を


狙い撃ちしようとする。


何分が経過しただろうか。


僕は、意識が朦朧としてきた。気付くと、歯茎から血が噴き出ている。


生ぬるい。冬とあって、口の周りだけが温かい。


ちゅるっと血を飲み込む。生唾と一緒に喉を通る。


気持ち悪い感触。僕は、そんな作業をひたすら監督の、見えない口の


中で行っている。


「もういい!お前は明日の練習出なくていいから、そこにずっと居ろ!」


そう行って、監督は扉を開け、出て行く。


ピシャという激しい音の余韻だけ残して。


僕は、涙と血の合流を喉下でひたすら繰り返している。


泣きたくなんてなかった。


涙が出ても、折れたら敗北だと思っていた。



翌日、僕はほとんど一睡もせず、監督の部屋に居残った。


チームメイトは、宿舎と繋がった体育館で、バドミントンの練習を


続けている。


昼過ぎ。後輩の呼ぶ声がする。扉がゆっくりと開く。


「失礼します!あっ!!」


後輩の小野は、僕を見た瞬間、呆然と立ち尽くした。


時が止まる。彼の眼球が泳いでいる。目を塞ぐリアクションを


した後で、僕に声を掛けてきた。


「ど、どうしたんすか。その顔・・・。あ、痣になってますよ!」


彼をゆっくり見た後で、壁に背もたれし、座りながら答えた。


「殴られた。何十発か、わかんねーけど。昨日、俺、いなかったの


気付かなかったのかよ?」


いや・・。そう小声で呟きざまに、僕の肩に触れる小野。


「いや、知ってます。探したんすけど、何処行ってたんすか??」


僕は、答えるのがあまりに億劫だったため、俯きながら


そのまま自分の太腿ばかり見ていた。多分、疲れがピークに


達したのだと思う。


「せ!先輩!先輩!!」



彼女の姿が見える。小さな身体で精一杯、背伸びをしながら、


シャトルを打っている。コートの中で彼女は踊る。


歓声が聞こえる。会場がどよめく。


彼女は強かった。数年前に見た時とは打って変わって別人だった。


出会いは、交流試合。僕は、その試合で全国大会ながら、ベスト8に


入る健闘を見せていた。好不調の波が激しかった僕は、


翌日に行われた準々決勝で格下の選手に敗れた。勝てる相手だった。


皮肉にも、相手の選手は、彼女と同郷で同じクラブ仲間だった。


思えば、僕はあの日から、勝てない選手だったように思う。


いつも格下相手に競っては負ける。


大体、トーナメントで行われる試合は、8試合くらい勝ち進まなければ


全国区の大会には出場できない。


僕は、負け癖のせいで、いつも3回戦や4回戦選手だった。


実力はある。そう言われ続けてきた。現に、中学時代は県内で僕ほど


有名な選手はいなかった。


「長谷川が出れば、優勝をさらってく」そう言われていた。


しかし、高校入学と同時に、僕の成績は別人のように落ちぶれていった。


敗北者。


そもそも、優勝者以外、敗北するのだから。優勝なんて、いくらレベルが


低い県内であっても、安易に出来るものではない。


実力があれば、追随され、常に追われる立場なのだ。


プレッシャーとも戦わなければいけないし、何より自分の実力を現段階


より上げなければいけない。


そんな中、僕は1人、突っ走っていた。そして、高校入学直前の試合で、


彼女と出会った。


彼女は、体格には恵まれてはいなかった。どちらかというと華奢で、彼女


も勝てない無名の選手だった。


僕はそんな彼女の直向なプレーと、足腰のラインを見てふと思った。


「彼女、この先、伸びるな・・・」


左利きのプレーヤー。脚が長く、筋肉の付き方が、太腿にかけて


発達していた。


右利きの相手からすればやりにくい選手だ。


細い左腕。遅いテンポ。


それでも、僕は彼女を応援した。


そして、彼女もまた、僕を応援していた。


拍手喝采。熱気に蒸せ返る体育館。


2階席から彼女の姿が見えた。その時の僕は、コートの中で


ひたすらシャトルを追っていた。がむしゃらというのは、いささか


違うが。


上を見ると照明が明るい。


「何だ・・ちょっと眩しすぎない??」



そう思った時、僕を揺り起こす男がいた。


高山だ!


「起きろ、長谷川!!起きろって!大丈夫かぁ~~???」


彼は、チームメイトでもあり、ダブルスのペアでもある。


いつの間にか、布団に横たわっている僕を、彼は大声で叫んで


呼んでいる。


眩しい・・。そう思ったのは、彼の持ったペンライトのせいだった。


「おお、やっと気付いたか!ちょっと起きろ、飯食うぞ!しかし、すごい


な、その顔。今回は酷いくらいやられたなぁ・・あっはっは!!」


笑ってる場合かよ。僕は、彼の目を見て、呟く。


高山に支えられ、腕を担がれながら身体を起こす。


「痛ぇ!いててて・・・」


僕は、どうやら背中も強く打ったようだ。口ばかり気にして、気付かなかった


ようだった。高山は、満面の笑みを浮かべ、僕を気に掛ける。


「大丈夫かぁ。お前も、また反抗したんだろ?猪瀬のやつ、よっぽど


お前が折れるのを見たいんだなぁー」


僕は、高山も殴られているのを何度も目撃している。僕と高山は、チーム


メイトの中でも、意地でも監督のやり方に屈しない選手だ。


1度決めたら、後に引き下がらない。高山も意固地になって、監督の


方針に従わなかった。


負けても勝っても、内容の悪い試合は、全て体罰。


それに、集団行動を乱すと、殴打の刑。この部活では、連帯責任が伴う。


僕は、ただでさえ、1匹狼なのにも関わらず、部活のせいで


殴られてばかりいた。何の責任のない行為であったとしてもだ。


ただ、試合で結果が出なかっただけ。


けれど、必要以上の愛のない暴力で、僕の精神と肉体はもはやボロボロ


だった。


高山は、そんな内部事情を知っているから、僕を責めることなどしない。


何処へ行ってたかも、「検討がつくから言わなくていいよ」そう笑いかけな


がら、僕を庇う。


高山には、世話になっている。勿論、彼が監督に殴られた時は、真っ先に


止める。お互いの暗黙の了解みたいなものだった。




<続く>



書きたいことは山ほどあるんですよ。


だけど、何だろうな。


脱力感みたいなものに襲われて。多分、ここ3ヶ月、小説のことしか


考えてなかったってのもある。


あとは、単純に身体が疲れてるとか。


でも、創作活動やってるアーティストには、こういう状態って


何度もあるんだろうなって感じる。


壁があるのは、知ってる。


でも、その壁が、スケルトンなんですよ。先が見えてるんです。



だけど、突き当たってる。前には進めない。


目の前にあるものが見えてるのにも関わらず、ゲットできないって


のは、もどかしいじゃないですか?


そうそう。もどかしいんですよ。



過去にスランプって、よく経験したから解かるけど、そういう時は、


好きなことをやるのが1番いい。


目の前にあるものを投げ出すか。それか、好きって気持ちを


強く求めるか。


どっちかでしょうね。



やりたいこと、やってないのは、人として成長しないですよ。


逆に、やりたくないことをやらないのを称して、『怠惰だ』だとか言われる。


だけど、怠惰って、別に何もやってない怠惰とは違うじゃないですか。


上のレベルの成長を求めたり、ワンランクアップしようって時には、


必ず突き当たる惰性のほう。



それは、ある意味でターニングポイントであって、チャンスだとも


思う。


今日も、ぼんやりネットを見てたら、窪塚洋介 がインタビューしてる記事


を見つけて。読んでると、こう書いてあった。



「コンビニ行くのに急ぎ過ぎて階段とエレベーター使い忘れちゃった!と言う


方がしっくりくる」



ん????


階段を使い忘れて飛び降りたんですよ、彼(笑)


ヤバくないですか?


天才の域ですよ。でもね。


彼の言ってることは、不思議と前向きなんですよ。これって、長嶋監督


とかと似てるって思うんです。



彼らにとって、それは当たり前で。


ごく普通の行為でしかない。


だから、至って普通なんです。多分、死ってやつもフツーに


「死んじゃいました(笑)」って言うはずですよ。


めちゃくちゃポジティブじゃないですか。


これ、見習うべきです。



ネガティブに陥るのは、誰でもできるし、そのまま放置プレイでも


して、死も何も考えずに生きてれば、もっと現実を悲観できる。


だから、何も難しいことじゃない。



大事なのは、壁に突き当たったり、どうもスランプで調子が出ない


って時に、楽観まで持っていけるかで。


それって、やっぱり意識しなきゃいけない。



常人はですけど(笑)だけど、それを窪塚洋介は、自然の流れで


やってのけてるんです。


だから、天才。



老人になって、「死」からの恐怖に初めて逃れられるって


読んだことあるけど、やっぱりそれも意識してるんですよ。


ハッキリと死を。



だから、ポジティブにもなれる。


よく、死ぬのか死なないのか、いつだろう、明後日だろう・・・・、


って考えてるうちは、多分、悲観の虜ですよね。



不安要素。


見えないものは、不安にさせる。


だからこそ、目を見開いてはっきりと「生」と「死」を見つめて


いくことが必要なんじゃないかって、思えますね。



うーん。


近頃、人の奥深い部分を見てるんで。


生きるって事も見えてきたし、人と話してたら、


「あ、この人、生きてんのか、死んでんのか、よくわかんねーな」


って思うこと、多々あります(笑)



見えるんですよ。その人が何を考えてるか。


気分も、感情も、思考回路も。


本音か、嘘かくらいなら、すぐ見抜けます。



だからこそ、もっと生きたいって感じてますね、今は。


逆も然りで、死をもっと見つめたいってのも、強く働きかけてきます。



多分、その辺の脱力感もあるかもしんないですね。


どうせ、いつか死ぬんじゃん!って。



だけど、俺は生きたいんです。


だからこそ、オプティミズムを求めて、アゲチンでありたいなって。


密かに感じてますね。




「ライター、貸してもらえますか?」


この頃、よく街中で声を掛けられるようになった。


常に、人に優しくすることを心かけて、アゲチンとして自ら上げている


うちに、相手にも伝わってるのかもしれない。


わずかだけど、コンビニの店員でさえも微笑んでた。


何故だか分からないけど(笑)



自ら指し示す。


これって、意外と出来ない人、多いんじゃないのかなって思う。


やっぱり、自分から変えていかないと、何も始まらないってのは、


当たってる。面倒くさい、そんな事を言ってたら、


色んな人や物から見離される。


俺は身をもって学んでる。


アゲチンと名乗り始めてから、そんなに効果や見返りを


求めていなかったにも関わらず、です。



以前、ダブルワークでかなり多忙な時期があって。


その時は、よく嫌なヤツらに絡まれた。


電車の中で、チンピラにメンチを切られたこともあったし、


会社内でブチギレて、植栽をなぎ倒したこともあった。


夜、警官に停められた時も「俺の睡眠時間、奪いやがって!」と


ひたすら罵ってた。


会社でも社員の女に


「てめえ、いい加減にしろよ。殺すぞ」


とか言ってたこともあった。


俺は、とにかく、暴言・暴力的な男だったと思う。


そして、今より冷徹だった。



何なんでしょうね。


ふいに、目が覚めたというか。このままじゃ、俺、生きてても


しょうがないなって。


朝、ゴミを出すよりも前に、俺自身が出されたほうがいいんじゃ


ないかって。


苛リストですよ、あの頃の俺。


でも、そういう苛々は、同類を呼ぶっていうか。


相手に確実に伝わって、自然と集まるもんなんですよね。


不思議と。



もう卒業っすね。


アゲチンだと、自覚したからには。


親が殺されるとか以外に、キレることは、まずないでしょうね。


抑え方も学んだし。


それに、相手のアゲる方法も徐々に分かってきた。


上げるのは、そう簡単じゃないことも。



褒めちぎればいいってもんじゃないし。


相手によって、千差万別だし。


ゴマ擦ることでもないし。



やっぱり、相手が何を求めて、どんな性格かってところ


ですよね。1番、大事なのは。


人間の欲求とか、願望を深く切り取れば切り取るほど、


見えてくるんですよ。


それは、色んな形をしていて、色取り取りで。


折り紙に似てます。



自分で変形することも可能だし、色も混ぜ合わせることも出来る。


ポテンシャルは、誰でも持ってる。


それを、自分の得意な形に出来るかどうか。


そこだと思うんです。


遠くへ飛ばしたいなら、紙飛行機でより飛距離の出るものに


すればいいし、デザイン性を重視するなら、鶴にしてもいい。


で、相手が「鶴だ!」って感じた時、相手と自分の


気持ちが合致するっていうか。


そのへん、人間関係と一緒かもしれない。


みんなは、どう思うかは分からないけど。


これだけは言えます。


感情的になればなるほど、思考的な理性から


見離されて、きっと不幸を味わう。


人間なら、まず考えて行動する。


だから、きっと誰かが、不幸だと言って指差すような出来事も


その本人にしてみれば、結構、幸せを感じてたりすると


思いますよ。



過去、苛リストの俺が言うから、間違いないです。




『分裂病斡旋オフィシャルサイト』



分裂病患者が、1人、また1人とアゲチン病院に足を運ぶ。


彼らが病気になったのは、家庭内暴力やノイローゼ、鬱病が引き金と


なり、最終的に1人の世界に没頭してしまったからである。


先天性だとか、生まれつき精神が薄弱と、誰かが言うが、


それは誰もが発症する恐れのある病気である。


精神がタフで。なんていうのは、鍛錬以外にない。


誰だって、打たれ弱いものである。人は、脆く崩れ落ちる。


アゲチン病院では、患者と対話し、精神を開放させる役割を担っている。


これは、分裂病患者との会話の一部に過ぎない。



医「はい、いらっしゃい。よく来てくれたね」


患「・・・・・」


医「怖がらなくていいんだよ。ここで、君を責める人なんて誰もいやしないから」


患「・・・・・」


医「今日はお母さんと、どうやって来たのかな?電車?車?」


患「・・・・・でん・・・」


医「電車だね。そうか。混んでたみたいだね。久しぶりの外はどうだった?暑くなかった?」


患「うぅ・・・」


医「暑いんだね。そっか。クーラーを少し下げようか。」


患「あつい・・」


医「そうだよね。今日は晴れてたもんねぇ。」


患「さむい」


医「寒いか。敏感肌だなぁ(笑)」


患「・・・・・・」


医「よし、今日はちょっと面白い話をしよっか?」


患「うがぁ・・・」


医「あっははは。わかった、わかった。まだ面白い話はしてないから。焦らなくても大丈夫」


患「うぅ・・・」


医「あれは、おじさんが小学生の頃だった。まだ小1の頃でね。あれは暑い


夏の日だったんだ。近所に住む小6の女の子がいてねぇ。


それは、それは、可愛かったんだ。


いや、嘘じゃないよ。かなり美人で小学校でも有名だった。


彼女は、いずれ女優か、アイドルになるだろう、そう言われてた。


おじさんも、ファンの1人だったよ」


患「・・・・・」


医「でね。彼女がその日、体育の授業があって。その頃、みんなブルマを


穿いててさ。小学校の渡り廊下ですれ違ったんだ。すると、いい香水の香り


がして。おじさん、何だか、ムラムラきちゃってさ」


患「・・・・・ふぅ・・」


医「ムラムラくるだろ?その頃のおじさんと言ったら、マセガキだったんだ。


急にブルマに誘われちゃってさぁ」


患「・・・・・」


医「彼女の体育の授業が終わるのを待ち伏せしてたんだ。で、集団と


すれ違いざまに、わざとお尻に手を擦り付けて」


患「むぅぅ・・・・」


医「うん、うん。興奮するのは、まだ早いぞ。で、触れると、今まで触った


ことのない感触がしたんだ。なんていうか、柔らかくて気持ちが良かった。


プリンよりも柔らかくて、もっと弾力があって。


この世のものとは思えなかった。で、それでも飽き足らずに、彼女が


体育の時や集団で廊下をすれ違う度に、お尻や胸を押し当ててた。


わざと躓いて、あっ!って言いながら(笑)」


患「・・・・・・」


医「でも、それは決して悪いことじゃないと思ってた。だったら、


そんな感触の物が世の中に存在すること自体が悪かい?」


患「ぶふ。げほっ」


医「違うよな。1度は、そういう時期があるじゃないか。君もわかるだろ?」


患「・・・・・・ん」


医「そうだ。君の想像してる通りだよ。触れることは、悪だと誰かが言う


かも知れない。だけど、おじさんは、その時だけ。その時の彼女にだけ、


存在した花園を追い求めたんだ。来る日も来る日も」


患「・・・・・・」


医「そうかい。今じゃ、娘や妻にこんな話出来ないけどなぁ。それで、結局、


彼女にあからさまに抱きついたんだ。そしたら、何て言ったと思う?」


彼女は怒るどころか、笑ったんだ。そりゃ、可愛かったよ!八重歯が


きゅっと出てね。思わずお母さん!なんて叫んじゃって(笑)」


患「・・・ふぅん・・はぁ・・・・」


医「とても体にいい話だよ。君もいつか、解かる日が来るよ。


健全は、お尻にありなんてなぁ!」


患「・・・・・」


医「今日は、来てくれて嬉しかったよ。おじさんも今まで長い人生を


生きてきたけど、一部始終、真剣に聞いてくれたのは君だけだよ。


ありがとう」


患「・・・・・」


医「はい、これ、その時のブルマ。君にあげるよ」


患「(臭いを嗅ぐ)・・・ぐほ。げほ!」



患者は、その時、うっすらとだったが、初めて笑みを浮かべた。


彼は、去り際、ブルマを掲げて、病室から走って出て行く。


よほど、嬉しかったのだろう。医者はそう思った。


健全は、お尻より始まる。


その後の彼がどうなったか、誰も知らない。ただ、彼は今でも


ブルマを握り締めているに違いない。


強く。したたかに。





『芸術は回る』



河川敷で、友人の稲葉が何やら、神妙な顔で


向こう岸を見つめている。


彼に元気がないのは、恋人に没頭し、考え耽っているせいだ。


僕らは、2年前、偶然にも出会った。


別れて以来、もう2度と会えないんじゃないか、そんな雰囲気だった。


彼は、映画が好きで、よくフェデリコ・フェリーニや


クエンティン・タランティーノの話を僕に聞かせてくれた。


映画に疎い僕にとって、彼は映像や絵画の伝道師だった。


彼は、首を左右に振り、音を鳴らしながら語った。


「大衆性に、負けたら終わりだよ」


僕は、彼が一芸術家であることを悟っていた。


恋に滅法弱い彼だったが、僕はそんな純粋無垢な彼に対して、


リスペクトし、敬意を払っていた。


そして彼は、何より元気が取得で、いつも笑わせてくれた。


僕が、難しい顔をしている時でさえ。


「そんな顔してたら、若くてもインポになるよ」


説教臭いのは、昔からだ。


彼が、エキセントリックに振舞うとき、次第に語気が強くなり、


決まって全身を使って説明し始める。


流暢だが、たまに滑稽。


僕は、そんな姿に見とれているうちに、彼の持つ不自然な世界観に


うっかり引き込まれてしまう。


まるで、空中ブランコをするピエロだ。


サーカス。彼自身が、サーカスの主役でもあるような気さえしてくる。


僕は、彼の俯いた表情を危惧し、話し掛ける。


「でも、最近、元気ないじゃん。彼女と上手くいってないの?」


彼は、ははは、と腹に力を入れず笑う。


河原の流れを目で追っている。


水音が、きゅるきゅると彼の言葉を遮る。


彼は、徐に小石を手に取り、立ち上がる。


手裏剣のように小石を投げると、飛び跳ねながら、水面に波紋を作り出す。


最後に向こう岸に行き届いたのを確認すると、彼は僕を振り返って言った。


「来年、結婚するんだよ。でも、自由がない」


自由。


彼の言葉が、何を意味をしているのか、僕にはすぐに解かった。


自由は、雲1つない青空にある。淀みのない川の流れにある。


彼は、束縛から逃れたい。そう言ったのだと思う。


けれど、僕は、その時、「別れて、1人になるしかないんじゃない?」と


言い出せなかった。


彼が恋人を本気で好きだったのも知っているし、今更引き返せないのだ。


男としての強い責任感。


追求したい自由。


少なからず、誰しも持っていることなのかもしれない。


僕は、彼の表現が自由だったのをよく知っていた。けれど、彼は


その芸術性や才能までを手放してまでも、結婚を選んだのだ。



僕は、何も言い出せず無言のまま、彼の次の言葉を待った。


彼は苦笑いしながら、言った。


「今、話しても仕方ないから、やめよう」


そう言って、立ち上がり、乗ってきた車の方へと歩き出す。


バンパーが光っている。


空に描いた夢。


熱く語った映画。


太陽と同化した、彼の恋愛。


僕は、それも彼らしいのかもしれないと思った。


帰り際、小石を無造作に蹴り上げる。


タイヤに当たり、虚しくコツ、と響く。



新車なのに・・、そう僕が呟くと、彼は天を仰いだ。


僕の中で。


彼の笑い声は、高々と響き渡り、木霊する。


それ以来、僕は彼と会う機会がなくなった。



今、僕の部屋には、びっくりするほど丸い球体の石が置いてある。


彼が、こっそり僕のバックに忍ばせたらしい。


見れば、見るほど丸い石。


地球が、現実が、丸い。


あとは、どこを見るかだ。


人によって、見方は違うかもしれない。


僕は、彼と同じ部分を見ていない。


けれど、2人で見てきた夢は、同じ一点を指していた。



指で、石をなぞると、妙な触り心地で胸騒ぎがする。


僕は、彼の選んだ道を見つける。