「砧系お嬢様の初お見合い」
(ナレーション)
そこは、世田谷区砧でござります。この高貴に満ち溢れた街には、
まだ世の中の「いろは」の『い』の字も知らぬ、未婚のお嬢様が
住んでいらっしゃいます。
さて、本日も、ご結婚をお控えになっていらっしゃるお嬢様であらせる、
大河内 由香里 様のお見合いが誠密やかに営まれる模様で
ございます。舞台は、美しい日本庭園が一望できる由緒正しきご家庭
でございまする。ご親族も同席し、人生初のお見合いでございますの。
それでは、皆様、ごゆっくり得とご観覧くださいまし。
父「由香里。今日は、初めてのお見合いだな!普段から教えてきた
マナーを守るように!」
母「お父様ったら、硬いのよ、表情が。今朝から、緊張しっぱなしで。」
由「母上、本日の為に、準備万端です。父上にも、ご迷惑をおかけ致さぬ
よう、事を進めて参ります。」
父「うむ。その意気込みだぞ、由香里。」
母「もぉ、お父様ったら!」
ピンポン
(チャイムが鳴り、一同、動揺)
母「わたくしが、今、出ますの。待っておくんなまし。」
父「早く出ぬか。相手を待たせるとご無礼にあたる。」
母「はい、はい、今行きますよ。」
ドアが開く
(母上が、玄関にて正座をし、丁寧にご挨拶で出迎える)
見合い相手が、一張羅で門を跨ぐ。
(以下、見とする)
見「超、でけえよ、この家!」
母「ええ。お褒めくだすって。有難うございますの。」
見「いやぁ。参ったな。こんな家があるんだねぇ。」
母「さぁさぁ、お上がりになすって。」
見「何このスリッパ!虎の毛皮じゃん!すげぇ。」
見合い相手は、ご家庭に入るや否や、戸惑いを隠せない様子。
本日のお相手は、何しろ、元野球部の大学生4年生の大樹君
でございますから(笑)
中へ通される、ご一行。襖を開け、初対面でございますの。
見「おっ!超美人じゃん!マジかよ」
父「なっ・・(絶句)」
母「まぁまぁ、お父様、今日は娘がヒロインでございますから。」
父「そ、そうだな。今日は何卒、宜しくお願い致す。」
見「ああ。おじさん、よろ~。」
由「初めまして、由香里と申します。」
母「さぁ、座布団へお掛けになってくだしゃんせ。」
見「あ~らよっと。」
父「(我慢して)大樹様と存じ上げましたが、いや、大樹君といったかな。」
見「うん。そうだけど?」
父「ごほん(咳)。まずは、自己紹介をしてくれぬか?」
見「いいよ、おっす。俺、元野球部。今は大学行ってんだけどぉー」
母「有名大学の4年生ですものね。」
見「そう。親のコネだけどね!」
父「なぬっ!!」
見「今時、なぬなんて、古いでしょ。」
母「これ、お父様。由香里。あなたも存じ上げなさい。」
由「はい。母上。わたくしめ、当家6代目、長女でございます。
今日は、お暑い中、来てくださって、何よりです。」
見「そうそう。超アッチーの!来る前にアイス食べてたんだけど、
溶けちゃってさぁ~(笑)」
由「愛す?」
見「ア・イ・ス!アイス食べたことないの?」
母「当家では、抹茶のシャーベットしか口にしませんもので・・。」
見「へぇー。変なの。」
父「むむむ!!」
見「だから、むむむなんて言わないって、おじさん。」
母「(冷や汗を掻きながら)まぁまぁ。今日は、アイスが溶けるほど
お暑うございましたものね。」
見「俺んち、すぐそこだけどね。」
由「どちらに御住まいでございますの?」
見「俺?砧のアパートだよ。4畳1間!」
由「4畳と申しますと・・・」
見「大体、2人が寝そべってギュウギュウだよ。」
由「牛?」
母「家の御手洗いより、少し狭いくらいよ。」
由「まぁ、そんな窮屈な場所で、牛をお飼いになられてるなんて・・。
信じられませんわ、母上。」
見「牛じゃねーよ。俺が住んでんだよ!よくわかんねーなぁ!」
父「それより、大樹君の父君と母君は、何処へ?」
見「え?母ちゃんは、スーパーのパート。親父は、蒸発中だけど?」
父「わしとした事が、聞いてはならぬ事を。すまぬ。」
母「ご免遊ばせ。」
見「いいよ。別に友達も笑ってるし。てか、由香里ちゃんは、彼氏いんの?」
由「カレー?」
見「ちがう、彼氏!」
母「由香里、所謂、恋人はいますかと申してるのよ、このお方。」
由「え・・え・・いませぬ。」
見「マジで?こんなカワイイのに?」
由「河合?」
見「いや、そこ伝わんないの、おかしいでしょ?」
母「お褒めに授かったのよ、由香里。」
由「有難うございまする。」
見「母さん、通訳なの?マジ、うけんだけど!(笑)」
父「それでは、どのような女性が好みか、お聞かせ願いたいのだが・・」
見「硬すぎんだけど、さっきから!由香里ちゃんとか、好みだよ。」
母「都下?」
見「漢字、やめようよ!」
父「『とか』というのは、2人以上の場合を指すのだが。」
見「国語の授業かよ。」
由「日本文学はお好きでございますか?」
見「そこでその質問もおかしいよね。」
母「あら、まぁ。大樹様は、文学青年ってわけね。」
見「勝手に話、作るなよ。」
父「平家物語ぐらいは、読んでおるだろう。」
見「過大評価だよ。」
由「まぁ。教養がおありですね。非常に知的な方と見受けました。」
見「偏差値30なんですけど・・(苦笑)」
母「まぁ、謙遜がお上手ね。」
見「どこまで、持ち上げれば気が済むんだよ!」
父「なるほど。これは、わしとしたことが。百聞は一見にしかずじゃな。」
見「こえーな、オッサン!どこで、俺の情報ゲットしてんだよ。」
由「月等?」
見「日本語、喋れよ!」
母「まぁ、文学青年ってわけね。」
見「それ、さっき聞いた!」
父「軒並み、嘘ではなかったようじゃの。」
見「スパイかよ。」
由「お気に召されましたか?」
見「どこで気に入るんだよ!?」
母「これはいけません。お汗をおかきになってますの。
アイスでも、お食べなさいます?」
見「あるんじゃん!!」
父「一杯食わされたな!あっはっは。」
見「俺の台詞!俺の台詞!」
由「これで、結婚相手候補として、名を連ねましたね。」
見「ナレーターかよ。」
母「本日は、お越しくださって誠に有難うございました。」
見「もう来ねーよ!!」
こうして、初のお見合いは不成立に終わったそうな。
砧の父上殿は、今回の不慮を非常に悔やまれ、当家の
恥と言わんばかりに隠蔽したそうでございます。
お嬢様のご結婚は、何時になるか。
吉報が待たれる、今日この頃でございます。
<了>