安宅の関 | レさんのブログ改めジャンク・エッセイ

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 って何だったけ、と思っていたら義経が奥州に落ちのびる際に、この関所で引っかかって弁慶がデタラメな勧進帳を読んで難を逃れた場所だった。実際には関守の富樫泰家には見破られるのだけど、彼の温情でここを通ることができた場所である。本来ならば、義経・弁慶一行の逃避行もここまで。と言うところを通り抜けたのだから、一つの節目である。結果、彼らは討たれるのだけど。

 

 ヘヴィメタル・ハードロックを好きでいてよかったなあ、と思うことの一つに後々に「あの時の、あのアルバムが以降の音楽性の変化のきっかけだったなあ」と言えるアルバムに出会えた時である。まあ、これは音楽に限ったはなしじゃなくて、絵画や文学、もちろん普通のロックにも当てはまることなんですがね。

 

 テスタメント、と言うバンドがいる。

 メタリカ・メガデス・アンスラックス・スレイヤーと言う所謂『スラッシュ四天王』たちの次の世代のスラッシュメタルバンドである。停滞はありつつも、1980年代中期から今現在に至るまで、ブレることのない音楽性を貫いている彼らの存在は奇跡と言える。(と、僕は勝手に思っています)

 巨漢のヴォーカル・チャック・ビリー、アジアンな雰囲気がどことなくジャッキー・チェン・エリック・ピーターソン(G)、老けてもイケメン・アレックス・スコルニック(G)のオリジナルメンバーが3人も残っている。アレックスは脱退したけれど、華麗に復帰して、相変わらずエモーショナルでキレのあるリードを聴かせてくれる。ちなみに彼が不在の時のギタリスト・ジェームズ・マーフィーも僕は大好きで、ソロアルバムも持っている。ちょっと引っかかりのある(良い意味で)レガートでムーディーなリードは彼ならではのものだ。

 

 彼らの一つの分岐点はサード・アルバム『プラクティス・ホワット・ユー・プリーチ』である。ここで当時まだまだ異端視されていたデスヴォイスを取り入れている。「スラッシュメタルとデスメタルは似て非なるもの。互いにまみえる事など無い」というのが当時の風潮だった気がするのだけれど、彼らは一部に、とは言え、それを取り入れて、しかも全体的にはかなり聴きやすく仕上げている。これが安高の関か、と言うとそうでは無い。

 

 彼らはこのあと、アルバムを2枚ドロップして活動を停止してしまう。そして数年のブランクあと復活を遂げるのだが、それが『ロウ』と言うアルバムである。

 音楽性は紛れもないスラッシュメタルであるにも関わらず、全編にデスヴォイスを散りばめて、リフの音質や音使いは邪悪になっていて、そこにジェームズの流麗なリードが絡む様は、鬼神の弁慶が唸り、鞍馬山で烏天狗から伝授された華麗な技で舞い斬り結ぶ義経の姿を僕は感じた。そう、この『ロウ』こそが彼らの安高の関的アルバムだったのだ。引用は、ちょっと強引だけど、それほどの名盤である、と僕は思っている。そして、以降もこの邪悪路線をメインにしている。これが彼らの安高の関である。

 

 と、まあこれほどのアルバムを出しても、残念ながら彼が天下を取ることも無く、未だに地道に自らの信じる音楽をやり続けていて、と言うのも九郎判官贔屓by義経(なんだそれ)って感じを醸し出していてまた良い。

 ラウドミュージックに耳慣れた若人なら、この格好良さは伝わるはずなので、気が向いたらぜひ。