通訳幹部の活躍に対する嫉妬 | 熱血講師 ショーン 近藤 Leadership & Language Boot Camp

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通訳幹部の活躍に対する嫉妬

日米共同指揮所演習は、訓練のクライマックスを迎えようとしていました。

連日連夜、状況が複雑になり、作戦の進展に合わせて、日米での空域統制調整会議の頻度が多くなっていきました。

当然、あの通訳幹部の活躍の場が増えるわけです。

所内の隊員、皆、「さすが、通訳幹部はすごい。」という話で持ち切りになり、私は、もれなく一作業員として所内で勤務するしかない状況に追い込まれていました。

非常に惨めな思いでした。

その時の正直な思いは、「英語教育を受けたい。受けたら絶対、この通訳幹部より良い仕事ができるはず。」と自惚れていた自分がいたのです。

実際、教育を受けたから、通訳としてしっかりとした仕事ができるようになるかと言えば、そうではありません。

やはり経験が相当必要になってきますし、その通訳のセッションのための下準備をしっかりとしなければ現場では通用しません。

しかし、この時の自分は思い上がっていたのです。「絶対、この通訳幹部よりは自分の方がセンスが上田馬之助!。」(古いっ!)なんて思っていたわけです。

さて、訓練状況が進展し、この時点で我が自衛隊の陸上主力部隊は、敵の反転攻勢に会い戦況悪化という状況が生起していました。

ここから米軍が必殺ミラクルな技を決めてくるのです。

それは、超越交代なるものなんです。

超簡単にご説明いたしますと、現在、自衛隊の部隊が展開している地域の更に前方に米軍が展開していくというパターンなのです。

その際、自衛隊は後退していきます。

かなりの損耗を抱えた自衛隊を如何に後退させるのか?という問題が出てきますが、今回の訓練において、米軍はチヌークというタンデムローター式の大型輸送ヘリコプターを66機運航するので、それらに自衛隊の地上部隊を乗せ撤退させるという提案をしてきました。

陸上自衛隊でさえ50数機程度の保有なのに、この日米共同作戦のこの場面にチヌークを66機も投入できる米軍の軍事力に驚きを隠せませんでした。

日米における航空機の運航統制に関してはATO(航空任務命令)のシステムによって処理をされるわけですが、これが物凄い情報処理量なのです。

それぞれの航空任務を処置していきながらこの66機という大編隊の航空任務に関する調整をやっていかなければなりませんでした。

この際、米軍からの注文がもう一つありました。

空域の統制権は合衆国海兵隊が握るというものでした。

従って、航空自衛隊総隊司令が管轄するこの権利と陸上自衛隊が管轄する極々低空の空域の統制権が海兵隊に転移するということでてんやわんやの大騒ぎになりました。

ここで、状況がかなり複雑化してきたため、多くの日米調整会議が開かれることになったのです。

私は、心機一転、通訳幹部の英語をつぶさに観察することにしました。

そして、自分の語学能力向上に繋げようと思っていたのです。

数回の彼の会議通訳で理解できたことは、彼の通訳は、

①非常に単純な英文でしか行われていなかったことです。

②単語も非常に簡単なものしか使っていなかったことも分かりました。

③シンプルな通訳だけに通訳として訳出する文章が短くテンポよく会議が進んでいっていたことがわかりました。

①については、良い点もあれば改善しなければならない点もあります。

シンプルなセンテンスは明快単純で非常に分かりやすいという点は評価できますが、全ての訳出はその方程式には当てはまらないということを肝に銘じなければなりません。

単純な英文だけで通訳をすると間違いを避けることに大きく貢献すると言えますが、非通訳者の話の格式を下げかねない恐れがあります。

話者の話す日本語の重みを相手方にしっかりと伝えることが出来る英文でなければ「やっつけ通訳」になりかねません。非通訳者の立場を思慮した通訳をしていく必要があります。

②についても同様な事が言えます。

簡単な単語を使用するということは、確かに大きく外さないという利点があります

。が、その訳にしっくりとくる適切な単語選択がなされていませんから、相手の理解のツボにはまらないことも多く、少し考えた上で理解してもらうというひとつ余計な作業を相手に課します。

通訳とは会話を促進させるという重責を担っているため、そのように相手に余計な仕事を課すということは本来の通訳の仕事の目的に合致していないため感心できかねます。

では、③はどうでしょうか。

確かに会議通訳においてはテンポは非常に重要です。

この点は評価できます。

しかし、忙しく通訳する必要はありませんし、非通訳者お互いの理解度をそれぞれの表情から汲み取りながら通訳していく「間」を持ちながらの通訳が大事であると私は思っています。

これは、後々、通訳を経験し上での教訓です。

しかし、当時はこの①、②、及び③を教訓として学んでいた私でした。

この通訳幹部の通訳観察によって更にモチベーションが上がったことを覚えています。

訓練も同様に様々な教訓事項を得て終了したのでした。

私にとってこの日米共同指揮所訓練は様々な教訓を得ることができた非常に実りのある、しかし悔しい思いのあった経験になりました。

今となっては懐かしい思い出です。

このあと、管制陸曹としての日常に戻って行くわけですが、そこから小平学校へ入校するまでのストーリーに繋がっていきます。

続く