A Victorian Naturalist

 

Beatrix Potter's Drawings from the Armitt Collection

 

著: アイリーン・ジェイ(Eileen Jay)

/メアリー・ノーブル (Mary Noble)

/アン・スチーブンソン・ホッブス 

(Anne Stevenson Hobbs)

 

訳: 塩野米松

 

Originally published in 1992, UK

1999年11月30日 発行

福音館書店

東大阪市図書館より貸出

 

ピーターラビットシリーズの作者、ビアトリクス・ポターの

キノコの絵とその研究を中心に解説した本です。

3名の著者がそれぞれ各章で

異なる視点からポターの絵について書いています。

 

最初はジェイによる

「ビアトリクス・ポターとアーミットコレクション」と

「ビアトリクス・ポターと考古学」の章です。

ジェイは湖水地方の郷土史を研究しています。

ポターがキノコの絵を寄贈したアーミットコレクションと、

その創立に携わったアーミット姉妹を紹介しています。

アーミットコレクションを持つアーミットライブラリーは

アーミット姉妹を中心に地元の有志により創立されました。

ポター一家の親しい友人であった

ハードウィック・ローンズリー牧師が

創立したラスキン図書館を吸収合併しています (p.13)。

会員制図書館でポターもその会員でした(p.14)。

アーミット三姉妹は湖水地方で生まれ育ち、

文芸に造詣がありました。

マンチェスターで教育を受けた姉妹に

ポターも関心をもったそうです(p.30)。

何でも姉妹の1人、ソフィアが学んだ

マンチェスター美術学校で

ポターの祖父は校長を務めていた所縁もありました(p.30)。

ポターと姉妹たちと交流があったことから、

自身のキノコの絵をほとんど

アーミットコレクションに寄贈しました。

本書が書かれた時にはアーミットライブラリー委員会では

ワーズワースの孫、ゴードン・G・ワーズワース氏が

活躍していたそうです(p.46)。

湖水地方の芸術活動の拠点となった

アーミットライブラリーの話や

ポターの考古学や肢体不自由児福祉協会などの慈善事業への

関心が学べて面白かったです。

 

菌類に詳しいノーブルによる

「ビアトリクス・ポターと郵便屋のナチュラリスト」と

「植物の化石のスケッチ」では

ポターの絵に描かれているキノコと

彼女のキノコ研究を解説しています。

キノコ学入門もあり、キノコについての知識が得られます。

ポターとキノコの在野研究をしていた郵便配達員

チャールズ・マッキントッシュの書簡の引用と絵から

ポターのキノコ研究の手法を解析しています。

 

最後はビアトリクス・ポター研究で著名な

V&Aミュージアムの学芸員、

アン・スチーブンソン・ホッブスによる

「ビアトリクス・ポターの自然描写」で終わります。

ホッブスによるポター研究については

卒論の時に読みました。

この章でポターのキノコの絵における

芸術性を解説しています。

ホッブスはポターのキノコの絵には

常にレイアウトへの工夫が見られると述べています(p.169)。

ホッブスはポター作品には抜群の平衡感覚と

優れたデザインセンスが備わっていることを評価します(p.175)。

 

ポターにおけるラファエル前派の影響が知りたくて

再読しましたが

知りたかったことが沢山学べて有意義な読書でした。

ポターに大きな影響を与えたローンズリー牧師は

ラスキンに師事していました (p.13)。

アーミットライブラリーに寄贈されたポターの愛憎書には

モリスの「英国のガ」が含まれていました(p.47)。

何よりポターはラファエル前派の影響を受けていたことを

認める発言を残しています (p.163-164)。

これらの事実だけではなくホッブスもポターの絵には

輪郭をはっきりさせるというラファエル前派の手法や

光の効果をそのまま生かす技法が見られるという

指摘があります(p.161, p.164)。

ポターの絵におけるラファエル前派の表現技法が

知れて良かったです。

 

キノコや植物などの自然を描くことに関心がある方、

ラファエル前派や

ビアトリクス・ポターが好きな方にお薦めの本です。

 

 

 

ピーターラビットとビアトリクス・ポターについての

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