『アヒルと鴨のコインロッカー』
伊坂 幸太郎 著 創元推理文庫
【内容(「BOOK」データベースより)】
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。
物語は、語り手が二人いて、ひとりは 椎名 という大学生で『僕』で語られる。
同じアパートの隣の部屋に住んでいる 河崎 という青年との出会いからストーリーは始まる。
もう一人の語り手は 琴美 という22歳の女性で、ペットショップで働き、『わたし』で語られる。
ブータン人の ドルジ と同棲していて、この二人の関係がなかなか面白い。
琴美の章は2年前のこととなり、椎名の章は現在で、過去と現在が交互に進んでいくカットバック形式となっている。
椎名と河崎のかみ合わない会話もちょっとユーモラスで不思議感が漂う。
また、琴美と日本語が不得手なドルジの会話も、これまた面白い。
登場人物のキャラが生き生きと個性的でよく描けているのは、伊坂ワールドそのものだ。
物語は、日常の出来事など淡々と語られ、ともすると退屈してくるかもしれないが、この2つの過去と現在が最後に一体化するようにつながる時、読者にはある驚きが待ち受ける。
この驚きは、派手などんでん返しというものではなく、穏やかに美しく(この表現は適切ではないとは思うのですが、敢えて私は使いたい)、胸に熱いものがこみ上げ、切なく心に訴える。
読み終わると、静かな余韻が残る。
あの『重力ピエロ』と同様に、伊坂幸太郎の作風らしい、愛と優しさの余韻だ。
この本を読書会で討論すると、様々な考察が出てきそうだ。
それだけ背景には、人種問題、深層心理、倫理問題、生と死についてなど、深いものが隠れている。
『アヒルと鴨のコインロッカー』のタイトルは、読む前はあまり気に入ったものではなかったけれど、意味を知った時、良い題名だと納得。
心に残る秀逸な小説だった。
さて、<ボブ・ディラン>でも聴こうかな。😊
追記:映画になっているらしいけれど、これってどうやって映画にするの?
不可能に思えるんだけどなー。