『AX アックス 』
伊坂 幸太郎 著 角川文庫
伊坂幸太郎史上最強のエンタメ小説 <殺し屋>シリーズ
『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる待望作!
<<鳴りやまぬ驚愕と感涙の声!>>
★2020年の年間文庫ランキング4冠達成!
★2018年 本屋大賞 ノミネート作!
★第6回静岡書店大賞(小説部門) 大賞受賞作!
★フタバベストセレクション2017(フタバ図書) 第1位!
最強の殺し屋は恐妻家
物騒な奴がまた現れた!
物語の新たな可能性を切り開く、
エンタテインメント小説の最高峰!
【内容(「BOOK」データベースより)】
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰!
本作は前2作の長編とは違って、次の5編の連作短編集となっている。
1話 AX(アックス)
2話 BEE
3話 Crayon
4話 EXIT
5話 FINE
AX(アックス)
<兜 >は表の顔は文房具メーカーの営業社員、裏の顔は凄腕の殺し屋で家族には知られていない。
40代半ばで営業部でもベテランの一人だ。
裏の仕事の仲介は、オフィス街にあるビル内の医師。そしてベテラン女性看護師のうちひとりもこの仲介業について把握している様子。
患者のカルテと、彼が仲介した仕事の資料を偽装したカルテとが混在して保管されている。
個人情報であるので、第三者が簡単には閲覧できないから情報を隠すにはもってこいなのだ。
医師が言う「あなたには、手術をおすすめします」。手術は殺しのこと。
今回は<悪性の手術>だという。悪性とは標的がプロであるということ、そして<薬は足りていますか>と医師が言うのは、武器の補充の確認。
プロが標的の場合は、自分がやられる場合もあるので、報酬は多額なものとなる。
兜は引退したかったが、医師はなかなか引退させてはくれない。
結局、この区内で爆発物を仕掛けて騒動を起こす輩を片付ける仕事を受けることにした。
兜は裏の仕事以外では、全く普通の日常で、奥さんに小言を言われても妻を愛し、息子克己の成長を愛情込めて見守っている。
今回受けた殺しが息子の進路相談の日と重なった。爆弾魔の殺害がどうしてもその日にしなくてはならない事情があり、彼は裏の仕事を効率よく片付ければ、進路相談に間に合うはずと思った。
物語は兜が時間内に仕事をこなし、進路相談に間に合うかが一つの読みどころ。
ところが学校には一応少しの遅れで間に合うが、着いてからまた事件が起きる。
事件が解決し、結末でのオチが、気が利いていて笑える。
BEE
同業のスズメバチという殺し屋が兜の命を狙っていると仲介の医師から言われた。
妻から電話で、「大変なの!ハチが」と…
てっきり殺し屋のスズメバチが妻を襲っているのかと思いきや、それは家の庭に スズメバチの巣 があると言うことだった。
妻から絶対自分ではやらないで業者を頼んでと言われたにも拘らず、彼はネットで駆除の仕方を調べ、自分でもできると確信した。
朝4時過ぎ、防護服がないのでスキーウェアやダウンジャケット、ヘルメットなどで工夫し、まるで宇宙服のようないでたちで、殺虫スプレーと枝切りバサミを持ち、巣に立ち向かうのだった…
Crayon
最近、兜はボルダリングを始めて、そこで 松田 という男と知り合った。
この章で初めて兜の本名が 三宅 という苗字であることが記されている。
松田とは、ともに恐妻家、そして子どもが高校三年生で同級生であったことが分かり親近感を覚え親しくなっていった。
松田に「三宅さんとはパパ友ですね」と言われ、初めて友達ができたと兜はじんわりと感動が込み上げくるのを感じた。
ある日、二人は酒を飲み交わした帰り、妊婦から道を尋ねられ、松田が丁寧に教えていたその時、強盗が現われ、松田と妊婦が包丁を突き付けられた。
妊婦には逃げるように言う。妊婦はゆっくりと遠ざかっていった。
松田が、体当たりをしたら男は倒れた。
男は後頭部を強打して死んでしまった。
さあ、兜と松田は…
EXIT
警備会社の社員で百貨店に配置されている 奈野村 という男と知り合った。
テナントの文房具店に営業でやって来る兜と、この1か月で話をする間柄になっていた。
ある日、奈野村の息子が父親の夜勤の仕事ぶりを見たいと言い、連れてくることになる。
ところが、その息子は悪い友達に脅かされ、父親の眼を盗んで友人たちを百貨店に侵入させ、万引きをする手はずになっていた。
そこから、夜の百貨店での騒動になり、死人まで出る。
そして、ストーリーは二転三転して奈野村は何者なのか…
兜は、裏の仕事を辞めたいのに、医師は先行投資分を回収するまで働かなくてはいけないと言う。さもなければ家族が危険になることをほのめかす。
それで殺しの仕事ではなく、ある工場から目的のものを取ってくると言う簡単な仕事を受けた。
工場に行った兜は、ドアを開けたとたんに音がして、慌ててのけぞってあおむけに倒れた。
罠が仕掛けてあってボウガンの矢が飛んできた。危なかったが難を逃れた。
その後も暴漢4人に襲われたり、たびたび命を脅かされることに遭遇する。
FINE
この章は、克己の視点で語られるが、時々兜の視点にもなる。
その理由は、ネタバレになるからここでは明かせない。
また、内容についても書くことができないので、あとは読後感想として下記に…
読了
わたしは、短編集はあまり読むことが少ないです。
通勤電車で読むには向いているように思いますが、長編のような満足感が味わえないので、ついつい手に取ることが少なくなります。
今回は、3部作の完結編なので、ぜひ続けて読むつもりで、連作短編集だとは気が付かずに買ってしまいました。
シリーズ前作2作とは、またちょっと違った殺し屋の物語で、平凡な日常と非凡な殺し屋生活が、ごく当たり前のようにそのつなぎ目がなく、殺し屋稼業も日常の生活と変わりなくこなす姿が、淡々とユーモラスに描かれています。が、それも3話まで。
4話目のEXITの章で、衝撃 を受けることになります。
この<EXIT> <FINE>の2つの章で、俄然この物語は完成度の高い連作短編集となりました。
作者著作の『重力ピエロ』は、兄弟愛、親子愛、家族愛が根底のテーマとして流れていて、私の好きな作品でしたが、この『AX』も、同様のテーマであると思えます。
読後、しばらく余韻を残し、それも決して明るい余韻でもなく、かといって暗いものでもないのですが、この<愛>が切なく胸に訴えたのかもしれません。