『マリアビートル』
伊坂 幸太郎 著 角川文庫
<殺し屋>シリーズは
『グラスホッパー』
『マリアビートル』
『AX (アックス)』 の三部作になっている。
物騒な奴らを乗せた新幹線は疾走する!
ノンストップエンターテインメント
★2022年、ハリウッド映画化!!★
主演:ブラッド・ピット
監督:デヴィッド・リーチ(『デッドプール2』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』)
邦題: 『ブレット・トレイン』 (原題:BULLET TRAIN)
★英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳部門 ショートリスト作品(最終候補作)(英題『Bullet Train』)
殺し屋シリーズ累計300万部突破!
【内容(「BOOK」データベースより)】
幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!
物語の舞台は東京発、盛岡行きの東北新幹線「はやて」の列車内での2時間30分。
冒頭と結末を除いて、ほぼ全編が、この車中だけで展開するという異色のストーリーだ。
追うものと追われる者、狙うものと狙われるものが列車に乗り合わせる。
密室状態という、実に面白いシチュエーションで読者は強烈なエンターテインメントに狂喜することになる。
登場人物の殺し屋それぞれの視点で入れ替わりながら物語は進んでいく。
その殺し屋の名前またはあだ名が章題になっている。
主な殺し屋は果物が2人なので5人。
ほかにも1作目に出てきた殺し屋、槿(あさがお)も登場するが、この殺し屋は列車には乗っていない。
①木村
②果物(蜜柑と檸檬)
③天道虫(てんとうむし)
④王子
木村
元殺し屋の木村雄一は、復讐のためにある中学生を探していた。
昔の仲間からの情報によると、東北新幹線7号車5列目3人掛けの窓際の席にいた。
見るからに健全な、優等生然としていて、まだあどけなさが残る少年だった。
その少年は、木村の息子、渉(わたる)6歳をデパート屋上から突き落としたのだ。
今、渉は意識がなく重篤な状態で入院している。
息子の復讐のため、彼はアル中だったが酒をやめていた。
彼は拳銃にサプレッサーを取り付け、ゆっくりと少年に近づいた。
と、そのとき少年は素早く振り返り、手に隠し持っていたスタンガンで木村の太ももを直撃した。
木村は体が麻痺し、目を開けた時には体の前で両手首、足首が縛られ身動きが取れない状態だった。
果物
蜜柑と檸檬と異名をとる腕利きの殺し屋二人。
二人とも180センチ近くあり、よく似ているため、双子か兄弟に間違われるが赤の他人同士である。
性格はまるで違っていて、蜜柑は文学好き、檸檬は<機関車トーマス>が大好き。
3号車10列目の三人掛けの座席にいる。
三人掛けの真ん中にいる25歳の青年は闇社会の大物である峰岸良夫の息子。
拉致監禁されていたのを救い出し、犯人たちを殺して身代金も持ち帰るという父親から受けた仕事だ。
すべて完ぺきにこなし、あとは報酬を受け取るだけ。意気揚々としていた。
ところが、身代金の入った黒いトランクが消え、探しているすきに峰岸の息子が殺されてしまった。
これでは、仕事を完遂したはずが、父親になんて言ったらよいか。
父親は闇の大物、殺される。
二人は、困惑する。
天道虫
本名は七尾といい、真莉亜という女性が窓口になって仕事が入ってくる。
真莉亜はいつも簡単な仕事だというが、簡単に終わることは皆無だった。
必ず何かアクシデントが起き困難を極める。
最初の仕事の時、災難が降りかかり、それから毎回また厄介なことになるのではと気弱になる。
今回の仕事は、誰かの旅行荷物を奪って次の駅ですぐ降りる。
たったこれだけの簡単な仕事だと真莉亜は断言する。
ところが、簡単なはずの仕事が、とんでもないことになる。
指示通りの場所にあった黒いトランを奪い、次の上野駅で降りようとしていたところ、降り口の扉の前のホームにいたのは、七尾と同じ仕事をしていた<狼>と呼ばれていた男だった。
かつて、<狼>が小学生の子ども3人の顔面をこぶしで次々と殴っていたのを見て、七尾は彼を突き飛ばし、蹴りを後頭部に放った。
そんなことで<狼>は、七尾を見つけたからには許さなかった。
<狼>は列車に乗り込んできて、七尾は降りられなくなる。
そして七尾は、ナイフを持った<狼>と闘う羽目になった。七尾は後ろから羽交い絞めにして首を折るぞと脅していたところ、列車が大きく揺れ二人とも尻もちをついてしまった。
ふと見ると、<狼>は起き上がらず、本当に首が折れて死んでいたのだ。
七尾は、やっぱり簡単な仕事ではなかったと、この死体をどうしたものか考える。
<狼>の座席番号に座らせることにした。トランクは、最適なある場所を見つけて隠した。
そして次の大宮に着いたらトランクを取り出して降りようと思った。
王子
王子慧(さとし)、中学生。
悪ガキ仲間のリーダー的存在。
見た目は優等生で良家のボンボンのように見える。
ところが、その裏の顔は悪魔のようで、冷徹な心を持つ。
言葉は丁寧で大人はみな自分より馬鹿だと見下して、自信過剰で底意地悪い性格。
小学4年生の時から、人を殺すことに興味を持ち始め、自分のせいで人が死んでも、何の感情も沸かない。
王子は、木村に言う 「人を殺してはどうしていけないの?」と…
木村の章で木村を拘束した中学生とは、この王子のことだ。
木村は、元の仲間に頼んで王子を探してもらったが、実は仲間は裏切り、木村の情報を王子に伝えていた。逆に王子の罠にはまってしまったのだ。
そして、王子は「僕に電話が入ることになっている。連絡が取れなかったり、僕に何かあれば、おじさんの病院にいる子どもの人工呼吸器が外されることになっているんだ。だからおじさんおとなしく僕の言うとおりにしていてね。」と脅迫した。
ワゴン販売の女性が近づいてきたので助けを求めたかったが、木村は何もできなかった。
その後、王子はトイレに行き、そのとき七尾が<狼>の死体を抱きかかえているところを王子は見た。そしてそばには黒いトランクがあることも。
そして、黒いトランクを探している別の男に声をかけられた。
そこで、探していた男がいたのは後ろだけれど前の方だと教えた。
トイレから戻り、それらの話を木村にした。
王子は、これは面白くなってきた、あのトランクはどこにあるのか、興味津々で探しに行く。
そして、七尾が隠した場所を突き止めた。
さぁ、これをどうしようか。どうしたらより面白くなるかと計画を練り、自分はどうしてこんなに運に恵まれているのかとほくそ笑んだ。
鈴木
1作目の主役だった元中学校教師。
本作では塾の講師となっていた。
前作ではひき逃げで亡くなった妻の復讐に燃える役回りだったが、今回も列車に乗り合わせた善良な人間で顔を出している。
鈴木という名前を聞いた時、勘のいいひとは1作目のあの鈴木だと気が付く。
後半、王子の問いの「人を殺してはどうしていけないの?」に答えるとき、妻がなくなった話をするので、そこで初めて気が付く読者もいるかもしれない。
槿
槿(あさがお)は、押し屋と呼ばれる殺し屋。
押し屋とは、対象の人間の背中を押して列車や車に轢かせて事故や自殺に見せかけて殺す殺し屋。
誰も正体を知らない。押し屋は1作目の『グラスホッパー』に登場している。
列車には乗っていないが、この物語で重要な役割を担っていることが後でわかる。
登場人物がそれぞれ目的をもって列車に乗り込み、状況が入り組んで絡み合い、次々と事件が起きていく。
いったいこの狭い空間で人間関係がどう展開していくのか先が読めない中、スリル満点になっていく。
黒いトランクが、あっちに行ったりこっちに行ったりの争奪戦、人間は右往左往。
王子は、それを面白がってみている。
ドタバタ喜劇風で終始笑いっぱなしで最高の読み物だ。
この小説の楽しく読める要素の一つである会話がとても面白いということ。
まるでお笑いの掛け合いみたいな…
思わず吹き出しそうになる軽いノリの会話が実によくできている。
それぞれの人物キャラクターも個性的で楽しめる。
私が特に面白いと思った人物は檸檬。ひょうきんですっとぼけた感じで笑える。
次に面白いのが天道虫の七尾。不運続きですっかり不運が板についているのが面白い。
木村と王子の会話もかみ合わなくて吹き出しそうになる。
蜜柑は生真面目で理論家。檸檬と正反対の性格でそれがいい相性になっている。
いずれも、どこか可愛げのある殺し屋たちだ。
その中で異彩を放つのが、中学生の王子。
悪賢さとねじ曲がった根性は天下一品。大人をからかい、手玉に取るやり方は憎たらしい。
高慢ちきな王子の鼻をへし折ってやりたくなる ( ˊᵕˋ ;)
物語も後半になってきて、思いもよらない展開となってくる。
読者も今までは、笑いの中で面白おかしく読んでいたが、だんだんそんな流れとは違ってきて、死体が増えてくるから笑っては読めなくなる。
このストーリーは、いったいどうなるの?って…
後半はスピードアップして、仰天の新たな登場人物が増え、二転三転していく。
このシリーズの1作目も面白かったけれど、その以上の傑作だった。
会話も最初は、単純に笑わせる会話としか思っていなかったけれど、その会話がのちに、うまく活かされて使われることが度々起こると、素晴らしいと思う。
緻密に計算されていた会話だったのだと。
また、殺し屋たちの名前にも意味があったということが分かる。
蜜柑と檸檬などとへんてこりんな名前を付けているのか。また、なぜ章題をそれぞれの蜜柑と檸檬にせず果物として一緒くたにしていたのか。これはとても違和感があった。
ところが、これにも作者の緻密な計算があったということが、最後のオチでわかる。
最後の最後で ワロタワロタ!!
映画『ブレット・トレイン』予告1
2022年9月1日 全国の映画館で公開