「樹木の根と枝の成長時期は同調しているのか?」という疑問について調べた論文が受理されました。
Makoto, K. , Wilson, S.D., Sato, T., Blume-Werry, G., Cornelissen, J.H.C. (accepted) Synchronous and asynchronous root and shoot phenology in temperate woody seedlings. Oikos.
この研究では、温帯に生えている木について、枝が長い期間、成長しつづける木は、根も長い期間、成長し続けることなどがわかりました。
以下、少し詳しく解説します。
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季節の移りかわりにともなう動植物の変化のことを「フェノロジー」と呼びます。
植物で言えば、いつ花が咲き、芽吹き、枝が伸び、紅葉して、葉が落ちるか、などの現象です。
例えば「植物がいつから枝を伸ばし始めるか」は、植物が、いつ・どの場所に葉を配置でき、どれだけ光を獲得できるかに関係します。つまりフェノロジーは、植物の資源獲得戦略ー生き様と深く関わっています。
一方、上述した植物のフェノロジーの例にあるように、過去に盛んに研究されてきたのは、地面より上で起こっていて観察しやすい部分ーつまり地上部のフェノロジーです。森に行ったり、道端で木を眺めれば、「あ、花が咲いたな」と気づくのは簡単です。しかし、「あ、根が動き始めたな」と地下部のフェノロジーを気づくのは容易ではありません。気づくためには、穴を掘るなどしなければなりませんし、掘ってしまうと根を切ってしまうので、自然状態の様子を継続して観察するのが難しくなります。こうした理由から、地下部のフェノロジーは、地上部のそれに比べて驚くほど未解明な点が多いのが現状です。
植物は、二酸化炭素や光など地上部で得られる資源だけではなく、土壌の養水分など地下部の資源も利用しなければ生きていけません。つまり、植物全体としての生存戦略のを理解するには、根のフェノロジーの解明が不可欠です。
地中に埋めた透明なアクリル板越しにみえる根の様子。時々、ミミズも顔を出してカワイイ。
そこで私たちは、まず「樹木という生物に共通して、地上部と地下部の成長フェノロジーの時期に関係はあるのか?」という疑問を検証しました。具体的には、北海道で約35年前に調査された42種の樹木を対象としたデータを解析し、多くの樹種間で共通に見られるパターンを探索しました。
その結果、枝が成長している期間が長い樹種は、根が成長している期間も長いことがわかりました。
一方、根の成長期間を長くするには、成長を始める時期の早さよりも成長終了時期の遅さが重要であるなど、樹種間で獲得できる地下資源量の違いには、秋の根の動きが重要であることが見えて来ました。
その他にも、落葉樹に比べて常緑樹の方が、根の成長開始は早い上に成長終了時期は遅く、結果として長く成長を続けることなどもわかりました(枝はそうではない)。
「え、そんなこともわかってなかったの?」と思いますが、これまでは多くても10種類ほどの限られた特徴の樹木で調べられていたのに対し、私たちは42種類というかなり様々な特徴を持った樹木を対象に研究をしました。結果として「温帯に生えている色々な樹木」に広く当てはまることができる一般的なパターンを発見したという意味で、新しい知見です。
こうした樹種による資源利用時期の違いに関する研究は、「違う種類の樹木がどのように限られた資源を分けあって共存しているのか」という生物多様性の維持メカニズムの理解につながります。また、いつ枝を伸ばし始めるかなどフェノロジーには温度が関係しており、今後、温暖化が進んだ際にどのように樹木の成長が変化するのかを理解する上でも役立ちます。
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今回、解析に用いたフェノロジーデータは、小林が自分で取得したものではなく、私が生まれた頃、約35年前に、共同研究者である佐藤孝夫さん(当時、北海道立林業試験場)が1〜2週間おきに2年間...という長い間、丁寧に観察して得られたものです。その重厚なデータを偶然見つけた時の感動は今も忘れません。42種という膨大な樹種について調べられたデータは、現在の基準に照らし合わせても世界的にも価値のあるものであると思いました。一方、データを再解析することで、現在でも未だ答えを得られていない根のフェノロジーに関する疑問を検証できるのではないかとも考え、研究をはじめました。
日本では、昔から素晴しい根の研究が行われています。しかし、古い成果の一部は、使用言語が英語ではないという理由で、未だ世界に存在を知られないでおり「もったいない!」と思っていました。今回、そうしたデータを、論分として公開することを通じて、日本の地下部研究の力強さを発信する一助にもなればと思います。
個人的には、少しやってみたかったデータマイニングのようなこともでき、単純な解析をやっただけですが、新しい研究スタイルに挑戦したプロジェクトでもありました。データを取得されてその利用を快諾いただいた佐藤さんはもちろん、議論や論文の執筆までを一緒にやってくれたScott, Geshce, Hansなど頼もしい共同研究者たちに感謝です。
根の研究は始めたばかり。まだまだ、このデータを使って検証したい仮説はあるので、続編を発表していきたいと思います。
小林