って、知っていましたか?

 

今回の論文では、多雪地の森林における木の大きさと芽吹きの時期の関係について報告しています。

 

Marumo, E., Takagi, K., Makoto, K. (2020) Timing of bud burst of smaller individuals is not always earlier than that of larger trees in a cool-temperate forest with heavy snow. Journal of Forest ResearchDOI:10.1080/13416979.2020.1753279

 

梅と桜を比べると、しばしば梅の方が開花時期が早いように、樹種が違えば開花や芽吹きなど季節に応じて見られる生物現象: フェノロジーの時期が異なることはよく知られています。

 

また、これまでの研究では、同じ樹種も「小さな個体の方が大きな個体よりも早く芽吹く」ことも知られていました。しかし、今回の論文では、多雪地では「大きな個体の方が小さな個体よりも早く芽吹く」ことを報告しています。

 

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そもそも、個体の芽吹く時期 (開葉時期)はどのように決まっているのでしょうか。

 

開葉時期は、光合成ができる期間の長さと霜害の受けやすさとの間で決定されると考えられています。開葉時期が早いと、より早い時期から葉が開いて光合成をし、固定した二酸化炭素を成長に利用できるメリットがあります。一方、早く葉が開いてしまうと、寒の戻りなどで遅霜害に遭いやすいというデメリットもあります。このメリットとデメリットのどちらを優先した方が成長や子孫を残しやすいのかによって、樹木は開葉時期を早くしたり遅くしたりするように進化してきたと考えられています。

 

一方、同時期に芽吹いてしまうと小さな木は大きな木の陰に隠れてしまいます。これは光という空から降ってくる資源を利用していきている生物としての宿命です。樹木は光合成をしないことには、成長は勿論のこと、死なないための防御に使う炭素も獲得できません。つまり、小さな木は、遅霜の被害を受けるリスクが上がったとしても、早く芽吹いて光合成ができる期間を長くするのを優先する必要があると考えられます。

 

さて、前置きが長くなりましたが、今回の論文では北海道北部などの多雪地では、この「小さい木の方が大きな木よりも早く開葉する」という現象がみられないことを報告しています。なぜか。

 

木は、一般に5℃以上の空気に晒されると、芽が開葉に向かって動き出すことが知られています。北海道北部でも、4月に入ると気温が5℃以上になる日がでてくるので、暖かい空気にさらされた木は、徐々に芽吹きに向かって動き始めます。しかし、私たちのフィールドである北海道北部では積雪が多いため、気温が10度近くなっても、まだ地面には雪がたっぷり積もったままで、小さな木は5月上旬くらいまで雪の下に埋まっています。雪の下は、0℃くらいに保たれているので、そこに埋まっている間に芽吹きに向かって動き出すことはありません。一方で、大きな木は一年中、雪に埋もれず空気にさらされているので、空気が暖かくなったその日から、芽吹きに向かって動き出します。その結果として、多雪地帯では小さな木は芽吹きに向けた競争のスタートに大きなビハインドを負ってしまい、最終的には大きな木よりも芽吹きが遅くなることがわかりました。

 

この研究は、当時修士の学生(現:京都府林務課)であった丸毛さんが2年に渡って研究林に通いつめて発見したものです。私(小林)はそのころ、冬の温暖化が樹木に及ぼす影響について研究に興味を持ちはじめていましたが、まずは私たちの森林で、そもそも冬の気候がどのように樹木へ影響しているのかを明らかにしなければ、と思っていたころでした。いきなり気候変動うんぬんと言及するのではなく、まずは自然の仕組みをしっかりとフィールド観察によって明らかにすることの大事さを教えてくれる、地味だけどとても重要な研究だと思っています。

 

雪解け時期の研究サイトの様子

 

葉が出た途端に陰に隠れてしまう小さな木のその後の運命は?

近年見られるの積雪の減少は、小さな木と大きな木の関係にどう影響するのか?

 

疑問はつきません。これから、冬の森林生態学に関する研究を積み上げ、この森のことを少しずつ明らかにしていきたいと思っています。丸毛さん、卒業後も改定お疲れ様でした。

 


2017年春、調査地にて

 

小林