今年も、当会代表の竹内貴久雄さんは、早稲田大学での「オープンカレッジ」の講座を、下記日程で行います。オペラファンにとって興味深い内容ですので、ご紹介いたします。

以下にアクセスしていただければ、詳細がわかります。「早稲田大学エクステンションセンター」ホームページです。

 

 https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/62192/

 

以下に、同じ内容をご紹介します。

 

【ジャンル】芸術の世界(会場:早稲田キャンパス)

【講座名】名作オペラの魅力を「ライブ映像」で考察する

【サブ講座名】名舞台の比較鑑賞で辿る西欧の音楽と文化

【講師】竹内 貴久雄(音楽評論家、文化史家、書籍編集者)

(講師プロフィール)

1949年生まれ。文化庁主催1999年度芸術祭参加CD解説が芸術祭大賞を受賞。以後、日本の西洋音楽受容史に深く関心を持って研究を続け、『唱歌・童謡120の真実』(ヤマハミュージックメディア刊)、『ギターと出会った日本人たち』(前同、刊。文庫化により『ギターから見た近代日本の西洋音楽受容史』と改題)など著書多数。音楽評論家として、演奏史を踏まえた視点からの「名盤復刻」を中心にCD解説は300余点執筆。英BBC放送アーカイブCD『BBCラジオ・クラシックス』(100巻)の日本版全解説を執筆。また書籍編集者としては、ウィーン国立歌劇場350年記念国際出版の日本版(リブロポート刊)の編集を担当している。

 

【受講料】 全8回、27,324円(一般申込受付)

【日 程】   全8回、2024年 09/25, 10/02, 10/09, 10/16, 10/23, 10/30, 11/06, 11/13

      各、水曜日 15時05分~16時35分

【講座の目標】

・代表的オペラの名場面をライブ映像で比較鑑賞する。

・同じ演目が「こんなにも違って見える!」を実感する。

・社会の変化によって変貌を続けるオペラの面白さを知る。

【講義概要】

オペラは、音楽、演劇、美術が一体となった西欧の総合芸術ですが、私たち日本人も、最近はDVD等で手軽に日本語字幕付きでの鑑賞ができるようになり、より一層身近なものになりました。本講座では、盤歴60年の音盤コレクターでもある講師が個人所有する豊富な映像素材を活用しながら、名場面を厳選して名作オペラの醍醐味をたっぷりと比較鑑賞します。同じ演目が映像ソフトの違いによって生まれ変わる不思議を、勘どころを押さえて解説します。作品解釈が社会の変化によって変貌し、それが演出にも現れてきた事実。一世を風靡した歌手や指揮者の名舞台。名唱・名演が持つ不滅の価値、次代を担う若いアーティストたちの台頭なども解説します。

 

【全8回の講義予定】

 

1)ロッシーニ『セヴィリアの理髪師』――ベルカント・オペラの精華――  低迷していた「イタリア・オペラ」を、一気に復活させた傑作を歌いこなせた名歌手たち。

2) モーツァルト『魔笛』 ――これは「オペラ」か?「芝居」か?――  モーツァルトが 生涯の最後に描いた「芝居小屋」のように親密な世界を守る方法とは?

3)ビゼー『カルメン』 ――作曲者が理想としていた上演形態は?――  オペラ・コミックからグランド・オペラへの様式変更によって、こんなに台本が変わった?

4) ヴェルディ『アイーダ』 ――変貌する古代エジプトの物語――  「歴史大作映画」から、激動する世界情勢を受けた視点で解釈する「現代演劇」のような世界まで登場。

5) ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』 ――作曲者自身による渾身の台本が拓いた歌劇改革――  ワーグナーの世界を、それぞれの演出家は、どのように「読み替え」てき たのか? 歌手は、それにどう応えてきたか?

6) プッチーニ『蝶々夫人』 ――世界はどのように「日本女性」を描いてきたか?―ー 「蝶々さん」は悲しい女性か? 明治期に書かれた物語には欧州諸国と新興国アメリカとの文化的軋轢があった?

7) ヨハン・シュトラウス『こうもり』 ――ウィーン風オペレッタの世界を究める――  本物の「笑い」と「音楽」との両立を求めて、それぞれの歌手が挑戦してきた軌跡を追う。

8) リヒャルト・シュトラウス『ばらの騎士』 ――誰にも必ず訪れる「人生の黄昏」を美しく歌い上げたのは誰?――  落日の帝都ウィーンのイメージと重ね合わせた親しみやす いパロディが、優美なワルツに乗せて広がる……。

 

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◎「オープンカレッジ会員先行受付」というものが8月2日から8月19日まで行われていますが、「一般申込受付」が8月27日の9時30分から先着順で開始されます。社会人向けの公開講座ですから、誰でも申し込めます。定員30名までですので、お早めにお申し込み」ください。

 

◎受講のお申し込みは、冒頭でご紹介したURLからたどり着けるはずですが、下記からも、24時間受付しています。

  https://www.wuext.waseda.jp

 

◎直接の電話、メールでのお問い合わせは下記です。

   早稲田大学エクステンションセンター早稲田校

   ℡ 03-3208-2248    E-mail : wuext@list.waseda.jp

*8月は 8月22日(木)1時5分開場、1時25分 開演です。

*通常は「第3木曜日」が例会日ですが、8月は、会場の都合により、第4木曜日となりますので、ご注意ください。

*会場は、川崎市国際交流センター(東急、東横線・目黒線「元住吉」下車)大ホールです。

*1回鑑賞券は1200円。当日、会場に、おいでください。なお、随時入会受付の年会員制度があり、その場合、毎月1回の例会を、年12回鑑賞で6000円(入会金不要)です。ご希望の方は、当日お申込みください。当日分より有効です。

 

以下は、前回の例会で配布された内容案内文。執筆は、当日、上映前の解説も担当する音楽評論家の竹内貴久雄さんです。

 

■モーツァルト作曲 『ドン・ジョヴァンニ』

§ 数あるモーツァルトのオペラで、最もドラマチックな世界

 『ドン・ジョヴァンニ』は、モーツァルトが台本作家のロレンツォ・ダ・ポンテと組んで作った3つのオペラ・ブッファ(喜歌劇)の一つです。あとの二つは『フィガロの結婚』と『コジ・ファン・トゥッテ(女はみんな、こうしたもの)』ですが、その中で『ドン・ジョヴァンニ』は、最も特異な内容で、「これって、ほんとうに〈喜劇〉なの?」と思わず問いたくなるような内容のオペラとなっています。
 もともとタイトルは『ドン・ジョヴァンニ――または罰せられた放蕩者』というもので、次々と女性をもてあそんでは逃走する、という人物が主人公。このオペラは、娘が襲われたと知って後を追ってきた父親を、主人公ドン・ジョヴァンニが決闘の末に刺し殺してしまう、という殺人の場から始まります。その後も、次々に女性に手を出してはトラブルを起こし、最後には、殺した父親の亡霊に襲われて地獄へ堕ちてゆく、という物語です。
 ストーリーの表面だけを追っていくと「こんな悪事を働いていると地獄へ堕ちるぞ」という一種の〈教訓話〉のようでもあるし、途中で召使いが有名な「カタログの歌」で「ご主人様がお相手した女性は、なんと合計2065人」と軽快に歌う楽しさからは、喜劇の味わいも感じられる、といった具合で、様々の面を聴かせるオペラでもあります。
 『ドン・ジョヴァンニ』は、確かに随所にモーツァルトらしい軽やかに飛び跳ねるメロディも聞かれ、イタリア・オペラ伝統のオペラ・ブッファ風の趣きも聞かれますが、このオペラが初演された時代、18世紀の聴衆からは「恐ろしい物語」として、「喜劇形式の悲劇」とも呼ばれたようです。「悲劇」の持っている「重さ」とは、ロマン派の音楽が持っている独特の、情念に訴えかけてくる重さに通じるものなのかも知れません。
 オペラの歴史のなかで、モーツァルトの先輩にあたるロッシーニは、長命だったために、モーツァルト以後のオペラの発展をある程度まで見届けることができましたが、その彼が『ドン・ジョヴァンニ』を、「これまでに作曲された全てのオペラの最高傑作」とまで賞賛しているのです。ロッシーニには、きっと、自分の時代の音楽が進んで行こうとしている〈未来〉が感じられたのでしょう。『ドン・ジョヴァンニ』の音楽の新しさとは、大きな感情の振幅を表現する、スケールの大きさなのです。
 『ドン・ジョヴァンニ』の大きな振幅を内包した音楽の力は、やがて19世紀ロマン派音楽の、感情のうねりを大きく表現する音楽へとつながって行きました。だから、モーツァルトの死後、ロマン派の時代、しばらくの間、最も上演されたモーツァルトのオペラは『ドン・ジョヴァンニ』だったとも言われています。来月は、そうした数あるモーツァルトのオペラの中で最もドラマチックな世界の魅力を堪能しましょう。

 

「映像オペラを楽しむ会」は、「身近にオペラがある暮らし」をキャッチフレーズに、毎月1回、選りすぐりのライヴ映像で名作オペラを大スクリーンで鑑賞する愛好会です。

次回の例会は、7月18日、午後1時05分 開場、1時25分開演。演目は、ヴェルディ作曲 『イル・トロヴァトーレ』です。

お問い合わせは下記まで。

operakai08@gmail.com

以下が、前回の例会で配布された「次回のお楽しみ」に掲載された説明文です。

 

§ ヴェルディの中期を代表する「旋律美」にあふれた傑作
 ヴェルディが残したオペラは、主要なものだけでも20曲はありますが、その中にあって『イル・トロヴァトーレ』は、とりわけ旋律の美しさがいたるところにあふれている名作として人気の高い作品です。ローマでの初演の日には、作曲者ヴェルディがカーテンコールで15回も呼び出されたというほどの聴衆の熱気が伝えられていて、それ以来、聴衆の強い支持が失われることなく今日に至っている人気作です。


 このオペラが書かれた時期は、ヴェルディの作曲の筆に弾みが付いていて、一つ前には『リゴレット』が、一つ後には『椿姫』が書かれています。1851年から1853までの、わずか3年間のことです。正に〈ノッていた〉ヴェルディ中期の傑作群の中核となる作品です。


 この時期には、ヴェルディも音楽ドラマとしてのオペラ台本のつくりに注文を付けるようになっていて、ヴェルディなりの方法が確立していたようで、『リゴレット』『椿姫』とともに、この『イル・トロヴァトーレ』も、幕が上がってすぐの〈掴み〉のメロディで聴衆の心を一瞬にして捉える手際のよさが感じられます。不吉な予感に満ちた、恐ろしい因縁のドラマの開始です。


 多くのヴェルディのオペラ同様、この作品も、しばしば、ストーリーの展開が不自然で、無理があるとか、破綻があるとか言われてきました。ですが、初演当時の批評家も認めているように、それを忘れてしまうほど、グイグイと聴衆の心を掴んだまま離さないで聞かせてしまうのが、ヴェルディのオペラの醍醐味なのです。あっという間に全4幕を聴き終えてしまいます。まさに「傑作」! ですから、このオペラを一気に聴かせる「指揮者」の力量も試される〈怖さ〉があります。
 来月は、とっておきの名演でご覧いただこうと、名盤の比較視聴の最中です。

 

§ おそろしい〈因縁話〉の発端は、こんな話
 舞台は「15世紀初めのスペイン」という設定。因縁話の発端とは、以下のようなものです。
 ――先代の王には息子が二人いましたが、その内のひとりがルーナ伯爵で、赤子の時に行方不明となったのが弟のガルシアです。ガルシアの失踪に関連していると疑われたジプシーの老婆は火あぶりの刑に処せられたのですが、その直後、処刑場に幼い子どもの焼け焦げた骨がくすぶっていたのを、その老婆の呪いだと人々は思い、ガルシアは死んだのだと皆が思いましたが、先王は、「ガルシアはどこかで生きている」と言い続けたまま亡くなりました。
 じつは、その死んだと思われていたガルシアが、マンリーコと名を変え、トロヴァトーレ(吟遊詩人)としてジプシーの老婆の娘アズチェーナに育てられて、旅から旅へ、という生活をしていたのです。運命の兄弟が偶然に出会い、さて――。息をもつかせぬ緊迫のドラマの結末は?

 

執筆:竹内貴久雄(音楽評論家)