*8月は 8月22日(木)1時5分開場、1時25分 開演です。
*通常は「第3木曜日」が例会日ですが、8月は、会場の都合により、第4木曜日となりますので、ご注意ください。
*会場は、川崎市国際交流センター(東急、東横線・目黒線「元住吉」下車)大ホールです。
*1回鑑賞券は1200円。当日、会場に、おいでください。なお、随時入会受付の年会員制度があり、その場合、毎月1回の例会を、年12回鑑賞で6000円(入会金不要)です。ご希望の方は、当日お申込みください。当日分より有効です。
以下は、前回の例会で配布された内容案内文。執筆は、当日、上映前の解説も担当する音楽評論家の竹内貴久雄さんです。
■モーツァルト作曲 『ドン・ジョヴァンニ』
§ 数あるモーツァルトのオペラで、最もドラマチックな世界
『ドン・ジョヴァンニ』は、モーツァルトが台本作家のロレンツォ・ダ・ポンテと組んで作った3つのオペラ・ブッファ(喜歌劇)の一つです。あとの二つは『フィガロの結婚』と『コジ・ファン・トゥッテ(女はみんな、こうしたもの)』ですが、その中で『ドン・ジョヴァンニ』は、最も特異な内容で、「これって、ほんとうに〈喜劇〉なの?」と思わず問いたくなるような内容のオペラとなっています。
もともとタイトルは『ドン・ジョヴァンニ――または罰せられた放蕩者』というもので、次々と女性をもてあそんでは逃走する、という人物が主人公。このオペラは、娘が襲われたと知って後を追ってきた父親を、主人公ドン・ジョヴァンニが決闘の末に刺し殺してしまう、という殺人の場から始まります。その後も、次々に女性に手を出してはトラブルを起こし、最後には、殺した父親の亡霊に襲われて地獄へ堕ちてゆく、という物語です。
ストーリーの表面だけを追っていくと「こんな悪事を働いていると地獄へ堕ちるぞ」という一種の〈教訓話〉のようでもあるし、途中で召使いが有名な「カタログの歌」で「ご主人様がお相手した女性は、なんと合計2065人」と軽快に歌う楽しさからは、喜劇の味わいも感じられる、といった具合で、様々の面を聴かせるオペラでもあります。
『ドン・ジョヴァンニ』は、確かに随所にモーツァルトらしい軽やかに飛び跳ねるメロディも聞かれ、イタリア・オペラ伝統のオペラ・ブッファ風の趣きも聞かれますが、このオペラが初演された時代、18世紀の聴衆からは「恐ろしい物語」として、「喜劇形式の悲劇」とも呼ばれたようです。「悲劇」の持っている「重さ」とは、ロマン派の音楽が持っている独特の、情念に訴えかけてくる重さに通じるものなのかも知れません。
オペラの歴史のなかで、モーツァルトの先輩にあたるロッシーニは、長命だったために、モーツァルト以後のオペラの発展をある程度まで見届けることができましたが、その彼が『ドン・ジョヴァンニ』を、「これまでに作曲された全てのオペラの最高傑作」とまで賞賛しているのです。ロッシーニには、きっと、自分の時代の音楽が進んで行こうとしている〈未来〉が感じられたのでしょう。『ドン・ジョヴァンニ』の音楽の新しさとは、大きな感情の振幅を表現する、スケールの大きさなのです。
『ドン・ジョヴァンニ』の大きな振幅を内包した音楽の力は、やがて19世紀ロマン派音楽の、感情のうねりを大きく表現する音楽へとつながって行きました。だから、モーツァルトの死後、ロマン派の時代、しばらくの間、最も上演されたモーツァルトのオペラは『ドン・ジョヴァンニ』だったとも言われています。来月は、そうした数あるモーツァルトのオペラの中で最もドラマチックな世界の魅力を堪能しましょう。