弁理士(南俊宏)のチャレンジ

弁理士(南俊宏)のチャレンジ

弁理士の仕事をする中で日々思ったことを書いています。

 驚きました。一昨日(金曜日)、アスタリスク社より電波の漏れを防ぐ特殊筐体にRFIDアンテナを内蔵した「Reading Tub」の技術について米国で特許査定を受領したことが発表されました。これはユニクロとの訴訟対象となった特許6469758号と同一の発明のようです。アスタリスク社は、特許6469758号の出願後に、これとは別に平成30年(2018年)11月6日に出願し、特許(特許7199097号)を取得していました。そして、これに基づく優先権を主張してPCT出願(WO2019/150733)をしていました。特許6469758号が出願公開される前に特許7199097号は出願されていますので、特許6469758号公報は新規性と進歩性の判断の対象とはなりません。また、アメリカではグレースピリオドの期間(特許出願日の前1年以内)に発明者が公知にしていても特許を取得することができます。アスタリスク社は特許7199097号を出願する半年前に展示会でこの特許に係る読取装置を展示していますが、これは問題になりません。

 

 日本ではユニクロとGUに対する侵害訴訟は和解で終了しました。しかし、アスタリスク社はアメリカで新たに侵害訴訟を提起することができます。アメリカは日本に比べて特許権者に有利であり、損害賠償の金額も高額となる傾向があります。アスタリスク社の戦略は非常に優れています。

 

 一方、先月30日の投稿に書いたように、私は特許6469758号の分割出願に係る特許7470953号に対して異議申立てしました。異議申立書副本は明日か明後日にはNIP社に届くはずです。仮にこの異議申立てで特許7470953号が取消決定されれば、アメリカの特許権も無効理由を有することになります。この異議申立ては、アスタリスク社がユニクロに対してアメリカで権利行使する障害となります。異議申立ての審理は、原則として特許掲載公報の発行日から6ヶ月経過後に始まります。しかし、特許権者が希望すれば、特許異議申立期間の経過前に審理が開始されます。NIP社にはできるだけ早く審理開始の手続きをして欲しいものです。

 4月18日にアメリカに特許出願(出願番号18/638,704)しましたが、昨日米国特許庁からそれを受理したことを通知するレターが届きました。

 

 ところで、昨年7月20日にPatent Electronic Verification formとCustomer Number Request formの原本をAir mailで郵送しました。しかし、Customer Number Request formに記入ミスがあったため、それを再度提出しました。その際、最初に郵送したPatent Electronic Verification formは受け付けてもらえなかったようで、登録eFilerにはなれませんでした。未登録eFilerは、オンラインでは出願できるだけで中間処理等はできません。今回の出願は日本で特許になっているため、アメリカでは中間処理なしで特許になる可能性があります。アメリカ大使館まで公証を受けに行くのは大変なので、とりあえず未登録のままにしておくつもりです。

 良く知られているように、2019年9月にアスタリスク社はユニクロ社のセルフレジに対して特許権侵害訴訟を提起しました。訴訟対象の特許は特許6469758号です。その後、この特許を原出願として6件の分割出願がされました。そして、その中の1件が特許7470953号として特許になり、特許掲載公報が今月19日に発行されました。

 

 そこで、この特許に対して異議申立てしました。申立て理由は未完成発明(特許法29条1項柱書違反)と記載不備(特許法36条4項1号違反)です。

 

 この特許発明の読取装置は、シールド部が上向きに開口した状態で、シールド部内に収容されたアンテナから電波を放出し、シールド部内のRFタグから情報を読み取ります。特許7470953号公報の明細書には、発明が成立する理由として「RFタグ12との交信領域が収容部36(すなわち、シールド部)とその上方に制限され」るとしか書いてありません。

 しかし、商品の流通や店舗におけるセルフレジ等で使用されるRFタグの電波は、一般的に860~960MHzのUHF帯が用いられます。携帯電話では、この周波数帯はゴールデンバンドまたはプラチナバンドと呼ばれており、回折しやすいことが知られています。このため、この周波数帯の電波でRFタグと交信する読取装置では、アンテナから放射された電波は開口の周縁で回折して読取装置の周囲に広がり、読取装置の外にあるRFタグに到達すると考えられます。また、通常セルフレジは店舗内で使用されるため、開口からシールド部の上方に向かって放射された電波は天井で反射して読取装置の外にあるRFタグに到達します。これらに起因して、この読取装置はRFタグとの交信領域がその周囲に広がります。その結果、860~960MHzのUHF帯の電波でRFタグと交信する場合、この読取装置はかえって他の機器に対する電波の影響を増加させ、その外部にあるRFタグの情報を誤読する可能性が高まります。従って、この特許は発明の効果を有しない範囲を含んでおり、未完成発明に該当します。そして、これらの点が発明の詳細な説明に記載されていないことは、記載不備に該当します。

 

 また、2月8日にこのブログに投稿した記事で、ユニクロ社のセルフレジについて、外部のRFタグの情報を読み出したり、内部のRFタグの情報を読み落としたりするという口コミがあることを書きました。これが本当であり、ユニクロ社のセルフレジがアスタリスク社の特許発明(現在はNIP社の特許発明)を使用していることを証明できれば、この口コミは特許7470953号を含む一連の特許が取消・無効理由を有する証拠になります。NIP社に対する審尋やユニクロ社のセルフレジに対する証拠調べの申し出ができるか電子メールで特許庁に問い合わせましたが、その回答によると難しいようです。残念です。

 

 なお、本件特許が取消決定になれば、他の6件も拒絶・無効理由を有することとなります。

 異議申立ての審理は、特許掲載公報の発行日から6ヶ月経過後に始まります。結果が出るまでには発行日から1年以上かかると思います。それまで待てない人がいるならば、異議申立ての書類一式をGoogleドライブで公開します。コメントやメッセージでその旨ご連絡下さい。