ユニクロに対する侵害訴訟に関連した特許について異議申立てしました。 | 弁理士(南俊宏)のチャレンジ

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 良く知られているように、2019年9月にアスタリスク社はユニクロ社のセルフレジに対して特許権侵害訴訟を提起しました。訴訟対象の特許は特許6469758号です。その後、この特許を原出願として6件の分割出願がされました。そして、その中の1件が特許7470953号として特許になり、特許掲載公報が今月19日に発行されました。

 

 そこで、この特許に対して異議申立てしました。申立て理由は未完成発明(特許法29条1項柱書違反)と記載不備(特許法36条4項1号違反)です。

 

 この特許発明の読取装置は、シールド部が上向きに開口した状態で、シールド部内に収容されたアンテナから電波を放出し、シールド部内のRFタグから情報を読み取ります。特許7470953号公報の明細書には、発明が成立する理由として「RFタグ12との交信領域が収容部36(すなわち、シールド部)とその上方に制限され」るとしか書いてありません。

 しかし、商品の流通や店舗におけるセルフレジ等で使用されるRFタグの電波は、一般的に860~960MHzのUHF帯が用いられます。携帯電話では、この周波数帯はゴールデンバンドまたはプラチナバンドと呼ばれており、回折しやすいことが知られています。このため、この周波数帯の電波でRFタグと交信する読取装置では、アンテナから放射された電波は開口の周縁で回折して読取装置の周囲に広がり、読取装置の外にあるRFタグに到達すると考えられます。また、通常セルフレジは店舗内で使用されるため、開口からシールド部の上方に向かって放射された電波は天井で反射して読取装置の外にあるRFタグに到達します。これらに起因して、この読取装置はRFタグとの交信領域がその周囲に広がります。その結果、860~960MHzのUHF帯の電波でRFタグと交信する場合、この読取装置はかえって他の機器に対する電波の影響を増加させ、その外部にあるRFタグの情報を誤読する可能性が高まります。従って、この特許は発明の効果を有しない範囲を含んでおり、未完成発明に該当します。そして、これらの点が発明の詳細な説明に記載されていないことは、記載不備に該当します。

 

 また、2月8日にこのブログに投稿した記事で、ユニクロ社のセルフレジについて、外部のRFタグの情報を読み出したり、内部のRFタグの情報を読み落としたりするという口コミがあることを書きました。これが本当であり、ユニクロ社のセルフレジがアスタリスク社の特許発明(現在はNIP社の特許発明)を使用していることを証明できれば、この口コミは特許7470953号を含む一連の特許が取消・無効理由を有する証拠になります。NIP社に対する審尋やユニクロ社のセルフレジに対する証拠調べの申し出ができるか電子メールで特許庁に問い合わせましたが、その回答によると難しいようです。残念です。

 

 なお、本件特許が取消決定になれば、他の6件も拒絶・無効理由を有することとなります。

 異議申立ての審理は、特許掲載公報の発行日から6ヶ月経過後に始まります。結果が出るまでには発行日から1年以上かかると思います。それまで待てない人がいるならば、異議申立ての書類一式をGoogleドライブで公開します。コメントやメッセージでその旨ご連絡下さい。