オーダースーツを買う動機は様々あるかもしれませんが、多くの方の動機は「着心地が良いお気に入りの一着を仕立てたい」ではないでしょうか?

 

しかし、そこには大きな落とし穴があります。

それは、オーダースーツ=着心地が良いという誤解です。

確かに、採寸しているので多少着心地は良くなるでしょう。しかし、プロスポーツ選手や恰幅が良いといった特殊事情がない限り、ゲージ品からの補正幅はそう大きくないでしょう。

 

それならオーダースーツなんて買う意味ないじゃん!既製品で良いじゃん!となるわけですが、そうじゃないんです。

 

着心地の良さは仕立て(正確に言えば、襟回りや袖回り等)にあるのです。

故に、既製品でも着心地が良いものもあるし、オーダーでも買う価値があるのか?と思ってしまうものもあるのです。

 

では、仕立ての良し悪しはどこで決まるのか?

それはマシンメイドならば縫製工場、ハンドメイドなら職人さんです。

 

でも、縫製工場の詮索はNGです!

 

 

もう察しの良い方であればお気づきかと思いますが、縫製工場や職人さんの技術力が高いと工賃は当然に高いのです。

であれば、当然、スーツの販売価格はある程度の金額になるのです。

だから、私は決して高い物好きではありませんが、ある程度の値段以上のテーラーさんにしか足を運びません。

だって、「その値段じゃどうせ低レベル工場でしょ?」という感じだからです。

 

決してこれは根拠なく言っているのではありません。

良いテーラーさんはある程度の価格はします。少なくとも最安値価格帯にはいません。

しかし、こういう良いテーラーさんは水牛ボタン、一枚襟、AMFステッチ、キュプラ裏地、ヒゲ襟、お台場仕立て、本切羽などが標準仕様ですし、イセ込みもしっかりしています。お金がかかるのに、あえてこのような仕様にしているのです。

どれも知らない人からすれば気がつかないかもしれない部分ですが、言われなくても標準にしているのです。

 

例えば、マンションだってタンクレストイレ、大理石のキッチン、内廊下等あえてお金がかかる仕様にすることがありますが、これは高級マンションがそうだからです。スーツもこれと同じです。

 

特に、一枚襟やイセ込みは技術力が要るところです。型紙も拘っています。

これでは安い工場では請け負えないのです。

反対に、高い工場と契約しているテーラーがあえて技術力が要らないチープな仕立て(例えば、二枚襟など)にしますか?しないですよね?

だから、良いテーラーさんはある程度の価格はしますし、標準仕様のスーツでもレベルが高いのです。

それゆえ、ゲージ品の仕様を見れば、どの程度の縫製工場と契約されているのかは推し量れます。

 

名前は出しませんが、値段を全面に出しているテーラーさんの標準仕様を見てください。きっとこんな感じのはずです。

プラスチックボタン、二枚襟、ポリエステル裏地、ヒゲ襟なし、イセ込み量が多くない

 

ぶっちゃけ、例えば、ボタンがプラスチックだろうが水牛だろうがどうでもいいのですが、安い縫製工場を使われているテーラーさんの思想は「どれだけ安くできるか?」なので、ボタン一つとっても安くしようとするのです。

この表れが低レベル縫製工場を使っていることのシグナルなのです。縫製工場のレベルが低ければ、たとえフィッターさんが優秀でも出来上がるスーツはお粗末なのです。

 

反対に、既製品でも標準仕様のレベルが高いところは、着てみると「おっ!」となるのです。

きっと縫製工場のレベルが高いのでしょう。

しかし、そういうお店は概してハイブランド。ゆえに、工賃のみならずブランド代が乗っています。

そうすると、あら不思議。オーダースーツの方が安いという現象が生じるわけです。

 

だから、良いスーツを買おうと思うと、オーダースーツの方が安いのです。

一方で、単にスーツを買おうと言う思想だとオーダースーツ(一部の安さ勝負のテーラーは除く)は高く感じるのです。

 

また、コスパで選ぶと失敗する例をお伝えしましょう。

 

先日、いくつかの有名百貨店のクリアランスセールに行きました。

そこには、ゼニアやロロピアーナの生地で作られた2ピースが7万円程度で売られていました。

着心地も低の上という感じで最悪という感じではなかったのですが、買う気にはなりませんでした。

しかし、コスパを考えると決して悪くない、というか超お買い得です。

しかし、私は買わないです。タンスの肥やしになるからです。

 

失礼を承知で言えば、「まぁ、着心地の良いスーツを着たことがなければ、買っちゃうよね」と思ってしまいました。

そう確信したのは、近くにいらっしゃったおじ様がゼニアやレダを知らなかったのです!

どちらも有名ブランド。特にゼニアは良い生地なのは間違いないですが、生地のブランドで決めてはいけません。ちゃんとスーツの仕立てを見ましょう。

スーツを見たところ、裏地はキュプラとポリエステルの混紡、二枚襟、AMFステッチあり、お台場仕立てとまずまずでしたが、着た瞬間、「あっ、いいや」という感じでした。

悪い買い物ではないですが(むしろ、超お買い得なお買い物ですが)、「着心地が良いスーツを知ったとしても、そのスーツを着続けますか?」と問いたいです。

 

スーツもとどのつまり、ものづくりです。

生地の良さ、オーダーかどうか、ブランドショップや百貨店かどうかといったことに惑わされずスーツ自体で評価しましょう。

しかも、スーツの良し悪しは着れば分かりますので、決して難しくありません。

 

良いスーツとは何かを手っ取り早く知りたければ、ゼルビーノのラグジュアリーラインのゲージ品を試着してください。冷やかしになってしまってもイヤな顔をされないと思うので。

 

私がこれまでに着た・買ったスーツ(一部ですが…)に対する評価はこちらにまとめております。