統合失調症と抗パーキンソン病薬の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症と抗パーキンソン病薬の話

統合失調症の治療における抗パーキンソン薬については過去ログのアキネトンのテーマに記載している。以下に1つだけリンクを挙げている。

 

 

今回は統合失調症の人に抗パーキンソン薬を併用すると言う趣旨とは異なり、治療にどのように生かしていくか、あるいはその考え方など、ちょっと風変わりな記事である。

 

統合失調症は子供や高齢者にはほぼ発症しない精神疾患である。例えば70歳の人に統合失調症に類似する精神病が発症したとしたら、ほぼ間違いなく統合失調症とは異なる精神疾患である。

 

しかし50歳くらいに初めて精神科病院に初診し、間違いなく統合失調症と診断される人がいる。これはたいてい40歳以前に既に発病しており、ひきこもりの状態で家族が精神科病院に連れていけなかったか、家族が敢えてそうしなかった事例が多い。

 

男性の場合、経過中、例えば警察沙汰などで警察官同伴で精神科病院に受診するケースが見られるが、女性の場合、そうならない経過が増えて、数十年単位で家族を困らせているケースもある。

 

警察官沙汰になったからと言って必ず措置入院になるとは限らず、医療保護入院で処遇される事例もそこそこある。特に夜間輪番などで放火などで警察官に保護され、精神科病院に入院し結局、時間が経っているため措置鑑定にすらにならない(そのような役場の裁定)ケースもあるので驚く。

 

うちの県は措置入院の件数が他県より多いように思うが、全国的にはきっちり運用されてはいないように見える。

 

統合失調症に対しパーキンソン病は若い人もいないわけではないが、圧倒的に高齢者の神経疾患である。言い換えると、パーキンソン病は高齢になるほど発病しやすくなる疾患である。

 

この定跡的なものは統合失調症にも生きていて、統合失調症なのに、高齢になり明らかにパーキンソン病に見える病状を呈する人がいる。これは長期間、抗精神病薬を服薬しているのだから、そりゃそうだろうと思うかもしれないが、長期間抗精神病薬を服薬してパーキンソン症候群を呈している人と、異なる病態なのである。

 

このような相違からも、統合失調症という疾患は、単にD2に全面的に疾患の座があるとは言えないことがわかる。

 

ヒトは高齢になるほどドパミンが減少しているか、ドパミン神経系のシステムが脆弱になるのかわからないが、次第にパーキンソン病に罹患しやすくなり、それは統合失調症の人も例外ではないのである。しかし滅多にそうならないので、統合失調症の人は狭義のパーキンソン病にはなりにくいとは言える。発病を促進するような薬を飲んでいてもそうなので、明らかに生物学的背景がある。

 

そのようなことから、長期に統合失調症を患っている人も、古典的な定型抗精神病薬(例えばセレネースやトロペロン)を服薬している場合、相対的にEPS的なバランスが崩れ、より多くの抗パーキンソン薬(アキネトンやセドリーナ)が必要になる。

 

これが曲者で、抗コリン薬的作用の影響を受けて便秘が悪化するのである。悪くすると、麻痺性イレウスの頻発に至る。このようなことから、定型抗精神病薬は薬物プロファイル的に高齢者までカバーしていないことがわかる。

 

困るのは、長年、セレネースなどで治療されているような人たちでは、非定型抗精神病薬に変更が難しい人が少なからずいることである。これはもしかしたら、セレネースなど強いD2遮断作用の薬を処方され続けていたからこそ、非定型抗精神病薬を拒絶するのかもしれない。

 

僕はセレネースから非定型抗精神病薬に変更を試み、それが失敗して撤退し、元の処方に戻した人が結構いる。その結末だが、誰一人長生きはしていない。ここで言う長生きの水準は80歳前後である。

 

50歳代の統合失調症のセレネース処方の人は分水嶺にある人だと思う。50歳代はまだセレネースなど定型抗精神病薬の悪影響がまださほど影響しない年齢であるが、可能ならこの年代で非定型抗精神病薬に変更したいところである。

 

もし、セレネースからエビリファイに変更できたとしたら、非常に価値が高い精神科治療的成功だと思う。それがリスパダールやジプレキサだったとしても、変更しないよりは遥かにマシである。正直言ってセレネースからエビリファイは真逆のような薬剤プロファイルなのでハードルが高いが、それ以外の抗精神病薬であれば、まだ変更の成功率は上がるであろう。

 

年末、過去に受診歴がある患者さんが10年ぶりに再診した。現在50歳くらいで、かつてはセレネース4㎎の処方であった。彼は今の主治医とトラブルになり戻って来たと言うが、なぜか、セレネース4㎎+リスパダール12㎎と言う処方になっていた。外来患者でこのような処方の人がいることにまず驚いた。また、彼はこの処方でさほど副作用もなくケロリとしているのである。

 

今やリスパダール12㎎は5年に一度くらいしか見かけない処方である。この処方で、もしセレネースがなく単剤リスパダール12mだったとしても、他の非定型抗精神病薬に変更を考慮した方が良い事例だと思う。

 

パーキンソン病では、オンオフ現象なる症状変化が診られる。これは同じようにきちんと服薬していても急にパーキンソン症状が悪化する経過を言う。これは起こる予測ができない。

 

おそらくドパミン系の神経はそういう現象が起こりやすいのではないかと思う。逆のサイドで統合失調症にもそのようなオンオフ現象が診られるからである。

 

長期的にきちんと服薬していても、急激に悪化することが統合失調症にも結構あるのである。しかも予測ができないことが多い。予測が出来なことが多いと言うニュアンスだが、人によれば季節性に予測がしやすい人がいるためにこのような表現になった。

 

この統合失調症におけるオンオフ現象を考える際、まず統合失調症はパーキンソン病に比べ、疾患の座という視点でD2に限局せず、より広さ奥行きがある疾患であることは重要だと思う。つまり統合失調症の方がオンオフと言っても亜型的な病態が増えるのが自然である。これは臨床経験に一致している。

 

ここで、ひきこもりと統合失調症についての話に戻るが、最近、たまに診ることがある40歳後半から50歳代の明らかに精神科初診の統合失調症の患者さんでは、ひきこもりにも前半、後半があることに気付く。

 

前半は精神病的な精神症状がなく、むしろASD由来の社会性の乏しさから来る二次的なひきこもり状態である。これが10年以上続いていたと思うが、当時を診ていないので診断的な確証まではない。

 

その後、精神病的思考が生じ始め、ひきこもりでも違和感のある行動が診られ始める。例えば、カーテンを開けなくなるとか、目張りをするとか、母親に盗聴器の話をするなどである。おそらくこの辺りで統合失調症が発病したと思われる。これが後半のひきこもり状態である。背景はASDだが、後半以降はASD的色彩がある統合失調症である。

 

このような人が初診した時、明らかに統合失調症に見える。一見、統合失調症なのである。従って背景のASDはそこまで重くはなかったのではと思う。実際、5年以上の就労歴があったりする。

 

逆に、3歳児検診で発達障害を指摘されて、後に統合失調症が発病するケースもある。そのような人は(僕の患者さんに限れば)、破瓜型(解体型)統合失調症のように見えることが多く、50歳くらいで初診する人に比べ、緊張病的ではない。しかし悪化すると緊張病症候群に至る人もいるが、滅多に起こらないといった感じである。たいてい、背景にASDがあると神経症的所見を持つ人が増える。このような人の社会適応はさまざまだが、A型ないしB型事業所に通所している外来患者さんのイメージである。

 

背景にASDを持つ統合失調症の特徴は例外はあるかもしれないが、ほとんどの人が抗精神病薬への忍容性が低い。エビリファイが理想だが、エビリファイですら重荷になる人もいる。神経症的所見があるので、ベンゾジアゼピン、バルプロ酸、少量の非定型抗精神病薬を併用しているような複雑な処方になっていることが多い。

 

ある時、3歳児検診で発達障害を指摘されていた統合失調症の患者さんが、急激に悪化し入院治療をした際、エビリファイよりロドピンの方が遥かに治療パフォーマンスが良いことが判明した。その患者さんはうちの病院に転院時に、エビリファイを主体としたシンプルな処方だった上、その後、10年以上入院することもなく、薬を変更する機会がなかったのである。

 

しかし、エビリファイは幻聴などの視点で、あまり効果的ではなかった。ロドピンはエビリファイより幻聴や表情の改善には遥かに有効だった。その患者さんは転院時から幻聴が止まってはいなかったが、ずっとA型事業所に通所するなど、それなりに安定していたので、精神科医なら外来患者であれば処方変更する人はほぼいないと思う。エビリファイで治療されているからである。

 

逆に言えば、このような安定した経過の人は入院するくらい悪化しない限り、薬が変更されることはないと言える。この患者さんの場合、エビリファイ24㎎からロドピン50㎎単剤へ変更で、このレベルならEPSも問題にならない。

 

長期ひきこもりで、かっては前半のASDの時代があったと思われるが、45歳くらいで統合失調症が発病した患者さんは、入院後、あまりにもかたくなで、服薬はしない、食事はとらない、風呂にも入らないなど、看護者の指示はほとんど入らなかった。極めて忍容性が低く、かろうじてロナセンのみ効果が目視できた。しかし4㎎でもEPSが出て増量できそうにないのである。

 

当初は、ロナセン以外の薬も試みたが、セロクエル(クエチアピン)で中毒疹が出たのには驚いた。セロクエルはEPSを含め副作用が少ない非定型抗精神病薬で、記憶に残る大きな副作用は、横紋筋融解症とこの人の中毒疹(口内まで及ぶ)しかいない。セロクエルは中毒疹が出る前、効いている気配がなかった。ジプレキサ、ラツーダなどの他の抗精神病薬もほぼ使えない人であった。

 

この人に、ある時、セドリーナを併用してみた(トリヘキシフェニジル)のである。これはロナセンの副作用を緩和し、可能ならもう少し増量できるように併用したのである。ロナセンは8㎎まで増量することにした。

 

すると、副作用がいくらか軽減したが、そこまで改善しなかった。この人には8㎎はやはり無理かと思った。また、本人がセドリーナを中止してくれと強く訴えるので、セドリーナを中止し、時間を置きロナセンは4㎎まで撤退する予定であった。

 

セドリーナを中止したところ、不思議なことに魔法が解けたようにEPSが消失し、ロナセン8㎎が安全に服薬できるようになった。作業療法に毎日参加できるようになり、表情も断然明るくなった。薬を止めてくれという訴えもなくなったので、診察時のストレスも減少したのであった。

 

この奇妙な経過は、ある種のオンオフ現象なんだと思う。ロナセンはおそらく全ての抗精神病薬の中でD2への親和性が高く、D3への作用も言われてはいるが、ある意味、抗パーキンソン病薬のようにレセプターの限局性が高い点は重要である。

 

ロナセンだからこそ、特殊なオンオフが生じ、その患者さんの精神症状を奇妙な経過で改善させたのである。これらはあくまで私見だが、今はそのような理解をしている。

 

僕は過去ログにあるように生物学的に診るタイプの精神科医なので、そういった思考になりやすいと思っている。