抗精神病薬治療におけるアキネントン処方量減少の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

抗精神病薬治療におけるアキネントン処方量減少の話

昔の統合失調症治療は定型抗精神病薬しか選択できなかったため、しばしばアキネトン(ビペリデン)が併用されていた。例えば以下のような処方。

 

セレネース 3㎎

アキネトン 2㎎

 

当時、僕が不思議に思ったのは、セレネースでさえ全ての人に薬剤性パーキンソン症候群が生じるわけではないのに、最初から併用を推奨されていたことである。

 

薬剤性パーキンソン症候群を緩和するためにしばしば選択されていた薬は、アキネトン(ビペリデン)、アーテン(トリヘキシフェニジル)、ヒベルナ(プロメタジン)の3剤である。前者2剤は、ブチロフェノン系抗精神病薬(セレネースやトロペロン)、ヒベルナはフェノチアジン系抗精神病薬に併用すると良いと言われていた(相性が良いと言う意味)。

 

かつてのほとんどの定型抗精神病薬は副作用を緩和する機能がなかったため、これらの抗パーキンソン薬が併用されていたのである。(プロピタンは例外)

 

もし定型抗精神病薬単剤で治療した場合、用量にもよるが、錐体外路症状などの副作用が生じ、たとえ幻覚妄想が減少したとしても副作用のために患者さんが苦しむ経過になりやすい。これは服薬中断に至りやすい要因と言えた。何を書いているかわからない人は以下のSDAの記事を読んでほしい。

 

 

上のリンクから重要部分を抜粋。

 

脳内には4つのドーパミン経路がある。そのうち黒質線条体ドーパミン経路は黒質から基底核に投射して、運動をコントロールしていると言われる。定型抗精神病薬などの投与により、ドーパミン受容体が黒質線条体経路のシナプス後部で遮断されると、パーキンソン病に似た運動障害が引き起こされる。このような定型抗精神病薬による、パーキンソン症状を薬剤性パーキンソン症候群などと呼ぶ。また、この時に出現する振戦、筋強剛、流涎などの症状は錐体外路症状(EPS)と呼ばれる。

 

時代は流れ、非定型抗精神病薬という抗パーキンソン薬を併用しないで良い薬が登場した。非定型抗精神病薬は錐体外路症状を緩和する薬理作用を内包していたからである。

 

しかし今から考えると、最初に登場したリスパダールは、比較的副作用が出やすい非定型抗精神病薬だったと思う。これはリスパダールの処方上限が当初24㎎(12㎎までで適宜増減で24㎎まで)だったことも大きな要因だった。(現在は6㎎で適宜増減で12㎎まで)

 

非定型抗精神病薬が順次発売されていくうちに、アキネトンなどの抗パーキンソン薬の処方量が激減することになった。これらの薬の併用の必要がない人が多かったためである。

 

当時と現在の処方内容を比較すると、このカテゴリーの薬の激減が最も大きい。

 

しかしながら、忍容性が低い人は非定型抗精神病薬でさえ錐体外路症状が出現しやすいため、用量を少なくして処方しアキネトンの併用を避けるか、アキネトンの併用の必要性がない非定型抗精神病薬を選ぶしか方法がない。

 

統合失調症の治療では、単にアキネトンを使いたくないと言う理由で、治療に値しない低い用量の処方をし続けることは間違いなので、今でもこれらの抗パーキンソン薬はある程度処方されている。

 

アキネトンが使われるパターンは主に2つあり、

 

1、忍容性が低く非定型抗精神病薬も比較的少ないのだが、副作用のために仕方なく併用される。

 

2、特に長期入院の重篤な患者さんでどうしても大用量を処方せざるを得ず、バランスを取るために併用処方される。(定型抗精神病薬を使わざるを得ない人もこれに近い)。

 

それでもなお、精神科治療でアキネトン(及びアーテン、ヒベルナ)の処方が激減したのは確かである。

 

アキネトンなどの抗パーキンソン薬を併用すると、非定型および定型抗精神病薬だけ処方するより便秘になりやすいなど更に副作用が増えるパターンになる。いかなる精神科医もなるだけアキネトンを使わない処方を心掛けていると思う。

 

アキネトンの処方箋数の減少は、抗精神病薬の進歩(バージョンアップ)もよく反映しているのである。