薬物変更による揺さぶりについて | kyupinの日記 気が向けば更新

薬物変更による揺さぶりについて

過去ログにある薬は良くなかったもののその揺さぶりが良い結果になったと言う記載がある。今回は、この揺さぶりについての話。

 

この「揺さぶり」は特に抗精神病薬がその人にはやや強かった時に起こりやすい。例えば、傾眠とかEPSが出たような時である。

 

例えばAと言う薬をBという薬に変更した時、Bの薬によりEPSが重く出たとしよう。その場合、速やかにBを中止することが多いが、稀に良い症状変化もみられた際は、医師の判断で減薬に留めることもある。

 

難しいのはAからBに変更する場合、完全に切り替えるのではなく、上乗せ投与のことも多いことである。この場合、A+Bだから重いということももちろんある。これはその患者さんの臨床経過や忍容性、ABの薬をよく知っていれば、何が原因かはわりあいわかることが多い。

 

これらのことから、精神科医の「向精神薬を投与後、何が起こっているのか判断する力」はとても重要だと思う。ここが経験の差なのである。

 

これは言い換えると、向精神薬を投与後、表情やちょっとした挙措を見て、その患者さんが良くなっているのか、そうではないのかの判断力である。

 

ある時、統合失調症の長期入院中の患者さんに、ABの抗精神病薬を切り替えのために上乗せ投与した。その後、数日してEPSや不穏が悪化し、その際にCPKを測定した際に500くらいに上昇していた。発熱や発汗などはなかった。一時的にABの薬をともに中止したところ、数日で安定しあまり薬を飲んでいないのに穏やかになった患者さんがいた。

 

この流れは極めて誤解を与える経過だと思う。その瞬間だが、薬がない方がむしろ良いように見えるからである。また、何が起こっていたか看護者でさえ理解できていないことが多い。おそらく正しいと思われることは、「Bの薬は単独で投与したとしてもその患者さんにはEPSが出やすい可能性が高い」くらいである。

 

この経過は、一時的に非定型精神病的経過が生じ、自己治癒的に働いただけである。従って長期入院中の患者さんがほとんど薬なしで温和になっていたとしても、長くは維持できず、近いうちに悪化する可能性が高いと思われる。その際に、Bという薬はあまり適切ではない可能性が高いとはいえる。

 

今後、悪化が見えてきた際に、消極的にAに戻すか、他の薬へのトライをするかは医師の判断であろう。

 

これは鎮静、EPSが増えるなど重い薬以外でも生じることがある。例えばエビリファイやレキサルティなどの賦活系の薬などである。エビリファイの場合は、初期投与量を誤ると、それまで投与していた抗精神病薬の薬効を減らすように働き、EPSの悪化がない不穏状態が生じる。このような際にもエビリファイ中止後、しばらく安定的に推移することがある。

 

ただし、この「揺さぶり」がある程度治療的だったとしても、うまく利用できないのが難点である。少なくとも、これらの揺さぶりに精神が反応しているのは、精神が生きている証拠だと思う。健康な部分がそうさせているようにしか見えないからである。

 

参考

悪性症候群の謎

悪性症候群の謎(補足)

その薬が有効なのではなく、「過程」が有効