女は料理をしなくなると一気にボケる(母の話) | kyupinの日記 気が向けば更新

女は料理をしなくなると一気にボケる(母の話)

正月に里帰りした時、母親が言っていたこと。

近所の人を見ていると、女は料理をしなくなると一気にボケる。

これはあくまで母親の大雑把な印象である。細かいことを言うと、

①料理をしなくなった結果、ボケ(いわゆる認知症)が生じた。

のか、

②ボケ(認知症)が生じたために料理をしなくなった。

のかがわからない。たいてい、母親のこのタイプの感想は明らかな間違い以外はあまりコメントしないことにしている。従って、母親は精神疾患についてほとんど知らない。

精神科的に言うと、これまでできていたことが加齢につれてできなくなるのは、脳の機能の低下を示唆しており、認知症ないしその端緒の影響の方が大きいと思われる。従って、母親の言葉はどちらかというと間違っている。

ただし外から見る限り、認知症は骨折や脳卒中のように明確に見えないので、

女は料理をしなくなると一気にボケる。

ように見えるのはやむを得ない。

前回の記事では、病歴を語る際に「○○の事件から急に悪化した」と言う記載があるが、基本的にはこれに近い。

つまり、「料理をしなくなる」という日常のストレスの軽減を、認知症に結び付けた表現だからである。

料理は女性は長年続けていることもあろうが、既に認知症に至っていても、そこそこできている場合がある。しかし料理内容は既に普通ではなくなっていることも多い。

FTD(前頭側頭型認知症)では、同じ料理ばかり作るようになる。料理がワンパターン化するのである。例えば味噌汁の具も永遠に変えない。つまりずぼらというか、細かい配慮は喪失しているのだが、惰性で料理だけは作れているのである。FTDでは嗜好にも変化が起き、毎日同じ甘いお菓子を飽きもせず食べ続けたりする。

認知症が進んでいても料理を作ろうとする行動は危険であり、火災の原因になる。つまり、このような老人は、家族が一時も目が離せないので、家では面倒がみられない事態になる。留守中に家に置いておけないからである。

脳血管性認知症の場合、特に初期では健康に近い脳の機能が残されており(まだら認知症)、家族の助言に従い、洗濯物をたたむ業務しかしないというある種の「家庭内適応」ができることも多い。

FTDでは、食材の調達のために隣の家の家庭菜園の野菜を抜いて持って帰ってしまうなどの違法行為が生じることがある。FTDの反社会的行動は、1つの精神所見である。FTDで困るのは、脳はともかく身体面は健康なのでけっこう動けること。例えば、車の運転では信号無視も平気だったりする。FTDはアルツハイマーの人のように車を運転しても道に迷わないのである。また、周囲の助言に従わないのは「我が道を行く」という精神症状に由来する。

このようなことから、ぱったり料理をしなくなるという病態は、認知症に限定せず、意欲の低下が生じる器質性疾患ないし内因性疾患も考慮しなくてはならない。高齢者のうつ病では、色々な日常生活が出来ない上に、認知症のように見えることも稀ではないので、専門医に診せることは重要だと思われる。

その大きな理由だが、老年期のうつ病の場合、薬物療法で大幅に回復することも稀ではないからである。このような際に、いったん認知症のように見えた症状が回復するケースは、「仮性認知症」と呼ばれる。つまり、老年期のうつ病であれば、現代の精神医療でできることが多い上に回復する余地もかなり大きい。

高齢者のうつ病を放置していると、自殺という結末が皆が思っている以上に多い上(参考)、実際に認知症に移行しやすい。これはうつ病を呈する人はそうでない人に比べずっと認知症の発症率が高いことでも示されている。

意欲が低下し、終日、何もせずひきこもっているような老人は、認知症が顕在化しやすいのである。これは、ストレスがどうこうと言うより、空虚でメリハリがない生活が脳に対し良くないため、認知症になりやすいと言う意味であろう。(つまり、うつ状態は認知症を抑制する適度なストレスではないといえる)

重大なことは、老年期のうつ病の場合、本人が努力して脱出できる部分が極めて小さいことである。

高齢者に無関心な家族は専門医に診せようとしない点で、老人保健施設や養護老人ホーム内の老人より、環境が悪いと思われる。

参考
東京都の自殺率が低い理由
認知症予防に有望と考えられるもの
うつ状態と料理
水戸黄門