大熊先生の教科書の躁うつ病の発生率 | kyupinの日記 気が向けば更新

大熊先生の教科書の躁うつ病の発生率

僕が精神科医になった当時、躁うつ病は統合失調症に比べて発生頻度が低いとされていた。

だから、学会での統計的な演題で、統合失調症より発生頻度が高いような結果が出ていた場合、会場から「その調査の診断はおかしいのではないか?」と言う質問が実際にあった。これは本当の話だ。

また長期にわたり、発生率があまり変化していなかったのも統合失調症と同様である。つまり、この2つの内因性疾患は、環境には関係が乏しく、遺伝子に深く関係していることを示している。だから、何千年も変化がなかったのである。

今の研修医がいかなる教科書を使っているかよく知らないのだが、当時は諏訪先生か大熊先生の教科書がオーソドックスで、アンリ・エーは穴狙いと言えた。過去ログにアンリ・エーの教科書についての記事があるので参照してほしい。

大熊先生の教科書は、タイトルが「現代臨床精神医学」と言うもので、初版は昭和55年3月である。僕は精神科の入局以前のポリクリの際に既に購入しており、その後、内容が変わっていると思い、平成2年頃に新しいものを買いなおした。実際に変わっていたかどうかは不明である。

従って、今、持っている大熊先生の教科書は既に20年以上前のものである。

躁うつ病の疫学の項目を読むと、出現頻度の概説の欄に、

躁うつ病の一般人口における出現頻度(発生率、罹患危険率)は、精神分裂病に比べると低く、穿刺法(東京大学精神医学教室の調査、1941~1943)では0.36%(分裂病0.63%)、わが国のくつかの地域での一斉調査法(同教室調査1941)の結果では0.49%(分裂病0.69%)で、およそ0.5%前後と言える。この出現率は諸外国のそれと大差なく、例えば、ドイツのルクセンブルガーの調査では、穿刺法で0.44%(分裂病0.85%)である。わが国における躁うつ病の有病率は1963年には人口1000対0.2であり、1954年のそれとほぼ同じであった。

これらから、躁うつ病の発生率は、統合失調症の概ね6~7割と言える。当時はそのように考えられていたのである。

近年の躁うつ病の発生率の論議は、診断学よりも、遺伝子も含めヒトの住む環境にある種のノイズが出現したことを示唆していると思う。

つまり、昔の精神科医がバカだったから、躁うつ病を見落としていたのではないのである。

参考
躁うつ病は減っているのか?