うちの外来婦長は才能がある | kyupinの日記 気が向けば更新

うちの外来婦長は才能がある

うちの病院は最初、僕が来たとき、精神科としてはアマチュアの看護師ばかりで、精神疾患の看護にあまり慣れていなかった。

だから、朝、病棟に行き、○○さんはどうでしょうか?と聞いた時、その患者さんの精神症状を明快に答えられるような人は、病棟婦長か主任などに限られていたのである。

その理由の1つは、新規にうちの病院に入って来る看護師さんは他科で長く勤めていたとか、長く主婦をしていて、子供が手を離れたので再び勤め始めたような人が多かったことがある。

今までに精神科の職場を知らなかった人が大半なのである。

また、僕が外来で治療していて寛解したので、そのままうちの職員になった看護師さんもいる。このような人は今は薬すら飲んでいない。いかに治療的空間なのかがわかる。

今から考えると、そのような環境が良かったのである。

うちの病院しか勤めていない職員は、いかにうちの病院が治る病院かに気付かないと思われる。(これは看護師さんだけでなく、コメディカルスタッフも同様)

精神疾患に対する絶望感とかそういうマイナスのイメージが最初からないのがよろしい。また精神病院ずれしていないのも良い。


時々、他の精神科病院で数年くらい勤務したことがある看護師さんや准看護師さん、あるいは補助婦さんに話を聞くことがあるが、うちの病院は閉鎖病棟などで保護室収容になる人がほとんどいないのが凄いらしい。

言われて気付いたのであるが、確かにその通りなのである。

それときちんと診察されているのに驚いている。

さて、うちの外来婦長は元々全く精神科の勤務経験がなかった。しかも精神科に勤めている期間もうちの病院で10年余りである。ところが、既に外来婦長を6年くらいしている。彼女は正看護師であるが、実は看護師自体の経験もさほど長くないのである。(育児をしていて主婦をしていた期間が長い)。

なんだかんだ言って、うちの病院は実力主義的に評価される病院だと思った。それも頭の良し悪しとか学会発表の件数より、実質的な看護師の能力である。これはいかにも民間病院らしくて良い。

実際、大学病院を定年退職したような看護師は使えない人の方がむしろ多い。(←重要)

彼女は訪問看護の際も、ぜひあの人が来てほしいと患者さんから要望が出るほどの人気がある。彼女は僕よりは年上である。

彼女はいくつかのエントリで出て来ている。

1人目女性患者さんについて」から
彼女は、車内に立て篭もってしまったので、車の中を見に行った。僕が来ると、「プイッ」といった感じで、全然こちらを向かないような様子。ちょっと声もかけてみたが会話にもならないので、(僕も他の患者の診察もあるし)外来の婦長さんに説得を任せていた。

2人目の女性患者」から
通院当初、よく外来の床に座り込んで、「誰も私の気持ちをわかってくれない」と泣いていた。外来治療にしろ、あるいは入院にしろ、本人が望んでしたことは全然なかった。この疾患はそういう面がある。いつも、外来の看護師さんがなだめながら、話を聞いてやっていた。若い女性患者で、こういう風に病棟の隅で(彼女は外来だけど)さめざめと泣いているような子は、最終的に良くなる人が多いと感じる。これは過去のエントリでも書いたことがある。

柴胡加竜骨牡蛎湯」から
なぜ、ツムラ12を処方したのかどうしても思い出せない。仕方なく外来婦長に尋ねた。

婦長さん、なぜ、ツムラ12を出したかわかりますか?(←アホ)

酷い話。自分がなぜ出したか思い出せないのに、婦長がわかるわけがないじゃん。しかもカルテにもなぜ処方するのかが書かれていない。婦長さんは、

○○さんが、すごく良くなったと言っておられたのでびっくりしました。


あれだけで良いんですか?
彼女が帰って行った後、外来婦長もあっけにとられており、

あれだけで良いんですか?

と聞いた。


精神科受診マニュアル(上級編)」から
ルーランは僕の場合、特に1mgだけ使う時はヒットになることが多い。少し前だが、ある患者さんにルーラン1mgを処方したところ、ずいぶんと表情が締まった。これは劇的な変化だったのでさすがに誰にでもわかると思った。いつも僕の後ろで話を聞いている外来婦長に、

「ほら、彼はずいぶん表情が締まったでしょう?」

と聞いてみた。彼女も確かにそんな風に見えるという。

やればできるじゃない!

彼女は婦長だけど精神科経験が浅いのである。だからそのような微妙な変化がわからないことが多いのだが、今回はわかったというので誉めてあげた。


などである。彼女の場合、プレコックス感などろくにわからないのもむしろメリットになっていると思う。

貴方は精神科の看護師の才能があるよ。

と僕が言ったところ、とても恐縮して「そんなことはないですよ」と言っていたが、才能がない人を外来婦長に抜擢するわけがない。精神科経験が少ないのに。(外来婦長は外来師長と言うべきだが、この方が雰囲気が出るので)。

彼女は精神科経験が少ないので、いかに妙な処方をしているかもわからないのではないかと思う。これは僕にとって、診察時のストレスがなくて良い。

つまりだ。
精神科の看護師は経験年数より、むしろ人間性の方が重要なのである。

精神科は外来とは言え、チーム医療であることも示していると思う。(精神科医、薬剤師、看護師、コメディカルスタッフ、事務)