精神科受診マニュアル(上級編) | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科受診マニュアル(上級編)

精神科の患者さんの場合、ずっと同じ病院で治療することはあんがい少ないのではないかと思う。転居やその他の理由で転院を思い立つこともあるからだ。ずっと同じ医師にかかっている場合、他の医師がどのレベルの治療を行っているのかさっぱりわからないというのがある。つまり良い医師なのかそうでないのかが判定しにくい。しかし近年ではインターネットや書物で評価ができる環境にはなってきている。これは15年くらい前とは随分と変化してきたと思う。今回は、精神科から他の精神科に転院した時のことについて触れたい。

転院した時、紹介状があるのが普通だが、精神科ではそうではないこともある。それはこっそり転院したいと思う人もいるからだ。こういう場合は、患者さんも心得ていて、どのような薬を服用していたか把握していることが多い。もしさっぱり内服薬を全然知らないで転院する人がいたとしたら、準備が悪すぎるというか、モチベーションが低すぎると思う。そんな人は転院のメリット、デメリットさえわかっているのか疑わしい。

転院の際のフル装備
① 紹介状
② 障害年金の診断書のコピー※
③ 精神保健福祉手帳を持っている人はその診断書コピー※
(自立支援法については後でなんとかなる)


があれば理想だ。(②③はなくても良い)

紹介状は医師によるが、今の治療状況と処方くらいしか書いていない人もいるので、それまでの詳しい経過が全然わからないことがある。だから②があれば助かる。

最近のこと、ある男性患者さんは別の病院に紹介状を書いてもらい受診したが、自分に合わないと思ったのでうちに来たと言う。そのような経緯なので紹介状がないと言う。病院に渡してしまったと言うのだ。その場合、以前の病院に問い合わせるとファックスしてくれるが、それはしないでほしいと言う。まあ良くわからないけど、いろいろ事情があるんでしょう・・

この人は診断が間違っていると思った。僕は初診時に統合失調症ではないと思ったが、統合失調症で障害年金も受けているという。まあ発達障害系だと思うが、その中でもいろいろあるのでもう少し見てみないと。僕は「統合失調症ではない」というのは即座にわかるのよね。しかも失敗がない。これは過去ログにも出てくる。このようなタイプの発達障害は、普通は障害年金が受けられないので、この誤診は本人にはメリットの方が大きい。治療もリスパダール1mgと眠剤だけとか、そういう世界であった。だから統合失調症と誤診されていたとはいえ、無茶な治療を受けていたとは言い難い。このような人のリスパダール1mgはそう悪いとは言わないが、何か他の治療方法もあるかもしれないと思った。

転院理由として、治療を続けてきたが、そこの病院の治療がずっと気に入らなかったと言うものも時々聞く。話を聞いてくれないというのもあるが、嫌なことを看護者から言われたとか。ストーカーが自分の行っていた病院に通い始めたので、避難のためにうちに来たと言うのもあった。ホント、患者さんには色々な苦労があると思う。

あちこちの精神科病院に通院歴がある人は薬や治療に詳しそうだが、実際は全然というのが多い。このブログをよく読んでいるような感じの人はほとんどいない。良くも悪くも医師にまかせっきりなのである。だから患者さんから薬をこうしたいとか、そういうニーズはほぼない。実はこの上級編は現実に即していないのかもしれない。

読者の捨てネコさんやかぼちゃさんは主治医を積極的に誘導して、希望の薬を貰ってきたようなことをブログに書いているが、そういう人は現実には極めて稀なのである。

ある時、診察時に僕のブログを見ているとしか言いようがない話題が出てきた。しかしその患者さんは、kyupinと僕が同一人物であるとは全く気付いていなかった。患者さんでブログをしている人もいて、どうもメンヘル系のブログでもあるようなのだが、意外にアメブロを使っている人がいない。アメブロはわりあい書きやすいと思うが、大手に比べ人気がないのかもしれないと思った。

ちょっと気になっていたことだが、まさか、僕のリアルの患者さんが自分のブログの読者になってしまわないだろうな?

これはシャレにならんでしょ。まあ、今のところは間違いなく自分の患者さんは読者に存在しない。もしそうなったら今より気を使うでしょ。診察で同じことは話しにくいし。相当にやりにくいと思う。

皆はどう思っているかわからないけど、想像以上にインターネットは普及していないものなのである。このブログに来ているような人はこれに気付きにくい。僕は毎年、看護学校でインターネットをしている人数の調査をしている。4~5年前は1クラスに2名くらいだった(40~50人)。最近は増えているかと言うと、そうでもない。せいぜい10人に1人くらいだ。

そもそも今の1人暮らしの人は固定電話を持っていない。電話をマンションに引いていないということは、インターネットをしてないということだ。まさか若い人でエッジを使っているような人は多くはいないだろうし。彼女たちは通信手段は携帯電話のみで生活しているのである。携帯電話はあるいは、インターネットの普及を抑制しているのかもしれない。

携帯でしかこのブログを見ていない人もいるようだが、字が小さいし何ページも開けないと、1つのエントリすら見られない。過去ログも検索で探せないし非常に利便性が悪い。このブログはバカみたいに長文が多いので、携帯で見るのは向いていないと思う。僕はパソコンで閲覧するのを前提で書いている。

話が逸れたが、捨てネコさんが主治医に相談して、希望の薬を貰って来られるのは、つまり上級者なのだと思う。僕の患者さんではそのタイプの患者さんは1名もいない。

捨てネコさんの主治医はわりあい希望を受け入れるようだが、主治医のタイプにより、そのようなことを一切受け付けない人もいることに注意したい。薬のことをあまり知らないはずの患者が特定の薬を希望するのは怪しすぎるというのもある。このようなやり取りが可能かどうかは、

① 主治医の性格
② 治療年数、これまでの信頼関係
③ 患者さんのインテリジェンス


などが関係している。僕の友人で患者さんから言われた薬は絶対処方しない人がいたが、あれはちょっと笑えるとは言えた。その人は病棟の看護者の提案にも全然応じないのだ。つまらないことで意地を張るのは、そのレベルで争っているとしか思えない。ムーディー勝山のように右から左に受け流すくらいでないと。それを処方するかどうかはともかく。

頭ごなしに拒絶するのは論外で、患者さんが希望する薬をなぜ処方できないのか明確に説明できるくらいでないと医師として信頼できないと思う。

インテリジェンスについてだが、例えば大学の先生などが希望したのと一介の主婦が希望した場合では、主治医の対応も違うような気がする。社会的地位がある人に、医師が子供のような意地を張るのはそれを見抜かれそうで、大人気ないのが気恥ずかしいからと思う。だから、すべての人が同じではない。

患者さんがある薬を希望した場合、リタリンとか特殊なものはともかく、なぜその薬を希望したのか、そのあたりが非常に気になるのは事実だ。ただ僕にはそのような状況がほぼない。

このブログは、妙に薬に詳しい(それも少しバイアスがかかった)人を量産していたりして。

薬を希望するのは良いけど、あらかさまに主治医に要求するとか、そのようなことは嫌われるし、引かれる原因になるので注意したい。医師・患者関係を損なうと、その病院やクリニックで治療がしづらくなるからである。

一般に、たいして良くないのに、漫然と治療を続け処方変更すら試みない精神科医はイマジネーションがなさ過ぎると思う。そのような人で妙に劣等感を持っている精神科医なら、患者の提案に依怙地になるであろうし、あまりこだわらない人なら応じる人もいるかもしれない。というか、達観している人は、そういう患者の提案にも応じるというか、つまりは、ボケてても仙人なのであろう。

いずれにせよ、病状が良くはないのに患者さんに要求されてやっと動くと言うのが、相当に終わっている。放って置くとあまり処方変更がない人でも、患者さんが言うとわりあい希望に応じてくれる医師で、治療関係も良いのが一番と思われる。(もちろん希望されても応じられない薬はリタリン以外にもある。あくまで相対的なものだ。)

ちょっと今、思ったのだが、あまり知らない薬を医師が処方したとして、そのような薬が効くものなのかね?

僕は以前リエゾンで他所の病院で治療すると、薬の効き方が他科の医師とは全然違うというようなことを書いたことがある(参考)。この違いだが、精神科患者を長く診ているという無形なものの差と、やはり薬のことを深く理解しているかどうかが関係していると思う。

このようなオカルト的現象は別に医療だけではなく、他の分野でも存在するような気がする。

ルーランは僕の場合、特に1mgだけ使う時はヒットになることが多い。少し前だが、ある患者さんにルーラン1mgを処方したところ、ずいぶんと表情が締まった。これは劇的な変化だったのでさすがに誰にでもわかると思った。いつも僕の後ろで話を聞いている外来婦長に、

「ほら、彼はずいぶん表情が締まったでしょう?」

と聞いてみた。彼女も確かにそんな風に見えるという。

やればできるじゃない!

彼女は婦長だけど精神科経験が浅いのである。だからそのような微妙な変化がわからないことが多いのだが、今回はわかったというので誉めてあげた。

ルーランは失敗もあるが、ごく少量でもうまくいく時はずいぶんと良くなる。これは面白い話があり、もう1年以上前、大日本住友製薬のMRさんと話していた際に、年配の同門の精神科医が僕とほぼ同じ事を言っていたという話が出てきた。それも2名も。彼らの共通の意見は「ルーランは少量では非常に良い」ということらしい。特に8mg以下が良いという。その2名のうち、1名の精神科医はずっとある病院の精神科のトップでやってきており、とても尊敬できる人だ。今はもう引退して他の民間病院で診療されている。もう1人は、僕のオーベンと同年代で僕が研修医の時に助手だった精神科医。

住友製薬のMRさんは、
「kyupin先生とまったく同じ事を言っておられたのでびっくりしました」

という。ほらね、わかる人にはわかる。ルーランの良さがわからないのは凡人と感性の鈍い人だけだと思う。(参考

ただ僕は思うのだが、下手糞がルーランを1~2mg使ったとしても全然効かないような気もするんだな。なんというかファジーな面が関係するような気もするから。(上のリエゾンのパラグラフを参照)

まあ、あれだ。いわゆるフォース(The Force)みたいなもの。

これは「スター・ウォーズ」の中でオビワン・ケノビがルーク・スカイウォーカーとの会話の際に初めて出てきた。当時、映画館の字幕ではこれを「理力」と訳されていたが、今はフォースとそのまま使われている。

気孔とも違うのではないかと思うが、このような「ちょっとわからないメカニズム」は世の中にはずいぶんあるような気がしている。

たぶん、医師がルーランを選択した時点から話が始まっているのだと思う。ルーランの薬効の説明から、投与した後、どのようになるかもしれないという見通し、副作用が出る場合の説明。それらすべてが一体となっているような気がしている。

上級編を話しているうちにだんだん話が逸れ、オカルト的現象だとか、フォースの話に発展してしまった。

このあたりで今日はやめておこう。これ以上続けると、脳内がますますオカルトになってしまうので・・