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第1 設問1
1 Bは甲社に対して会社法(以下、省略する。)423条1項に基づき損害賠償責任を負うか。
2 423条1項の要件は、①役員等、②任務懈怠、③故意・過失、④損害、⑤因果関係、となる。
まず、Bは甲社の取締役であり、①にあたる。
次に、任務懈怠とは、法令違反、善管注意義務違反(330条、民法644条)、忠実義務違反(355条)をいう。以下、検討する。
(1)Eの引き抜きについて
ア.Eを甲社から引き抜いて乙社に入社させたことは、忠実義務違反に反するか。
この点、取締役と言えども、営業の自由(憲法22条1項)を有し、引き抜かれた従業員にも職業選択の自由(憲法22条1項)を有するため、社会通念上著しく不相当な方法で引き抜いた場合は、忠実義務違反となる。また、その判断は、従業員の立場・地位・時期・目的・引き継ぎの有無等を考慮して決する。
イ.甲社は、洋菓子事業を主力商品としている。そして、その事業の中心となる洋菓子工場の工場長という部門のトップを、乙社にノウハウを得させるという不当な目的をもって、他の従業員に引き継ぎもさせず、突然、退社させている。かかる引き抜きは、甲社に著しく不利益をあたる方法で行っており、社会通念上、著しく、不当な方法を用いて行っている。とすれば、Bには、忠実義務違反が認められる。
(2)Bの競業取引(365条1項、356条1項1号)について
ア.Bは乙社の90%の株式を取得し、乙社の事業に携わっている点で、競業取引にあたるか。仮に、あたった場合には、取締役会決議が必要となることから問題となる。
(ア)この点、競業取引を規制する趣旨は、取締役がその地位を利用し、会社に損害を与えることを防止することになる。
とすれば、「事業の部類に属する」とは、実際の取引において市場が競合し、取締役に利益となる一方で、会社に不利益が生じるおそれのあるものをいう。また、上記趣旨から、会社が近い将来、蓋然性をもって進出する地域における市場も含まれる。その上で、「市場」とは、取引先、仕入れ先、顧客が同一のものをいう。
(イ)甲社は、平成22年1月、関西地方への進出を企図してマーケティング調査会社に市場調査を委託し、委託料として、すでに、500万円という出損をして、準備している以上、近い将来蓋然性をもって、進出する地域であったと言える。その一方で、乙社は、関西地方においてチョコレートという洋菓子製造販売という甲社と同様な事業を行っている。とすれば、原材料の仕入れ先、売り先等の顧客は同一である。
したがって、甲社と乙社とは、実際の取引において、市場が競合しているといえる。
(ウ)次に、B取締役に利益となり、甲社にとって不利益になるおそれ(利害の衝突)がああたといえるか。
この点、Bと乙社が一体かどうかが問題となる。
まず、Bは乙社の顧問という取締役以外の役職についているものの、連日、乙社の洋菓子事業の陣頭指揮をとっている。また、同年4月以後、月100万円の顧問料という多額の報酬を得ている。さらに、Bは乙社の90%という大株主であり、乙社の運命を決することのできる立場にある。したがって、Bと乙社は一体であったと評価できる。
その一方で、Bは甲社の洋菓子事情部門の業務の執行を担当しており、洋菓子に関する情報等を自由に得ることのできる立場であった。
とすれば、Bは乙社を通じて、甲社と利害の衝突するおそれがあったといえる。
(エ)したがって、Bが乙社の顧問に就任し、事業を行ったことは、「事業の部類に属する取引」にあたる。
(オ)なお、365条1項1号の「ために」とは、同条の趣旨から、経済的利益が帰属するという計算で行うところ、乙社を通じて、Bは自己の経済的利益を図っている。よって、「自己のために」と言える。
イ.では、Bは、「重要な事実を開示」し、「取締役の承認を得ていた」と言えるか。
まず、Bが乙社株式の取得に際して、A及びCに対し、「今後、乙社の事情に携わる。」と述べた際に、特段の意義を述べなかった(369条5項)。また、甲社は、A・B・Cが取締役善意であるため、かかるBの提案にあたり、全員出席取締役会が成立した上で、賛成したとも考えられる。
もっとも、「重要な事実の開示」とは、取締役が競業取引において判断する上で、基礎となる事実を具体的に開示することが必要である。しかし、本件Bは乙社の90%の株式取得した事実を伝えただけで、乙社がどのような規模で、どのような事業・地域等で活動しているかを伝えておらず、基礎となる事実を具体的に開示していない。よって、「重要な事実の開示」はなされておらず、取締役会決議が形式にあったとしても、実質的にはなされておらず、356条1項本文に反する。
ウ.したがって、Bは、365条1項、356条1項1号に反する。
(3)Bには、忠実義務違反と法令違反があり、上記②を満たす。
3 さらに、Bは、忠実義務違反、法令違反につき認識できる立場にあり、故意ないし、少なくとも注意義務違反という過失がある(③)。
4(1)次に、Bは、Eの引き抜きにより、甲社は3日間受注できず、1日あたり、100万円、合計300万円の損害を与えている。
(2)また、上記の通り、Bと乙社は一体であるころ、顧問料100万円(Bが得た報酬)が423条2項により利益として得た額すなわち、損害であったと推定される。
(3)さらに、甲社が調査料として支払った500万円は無駄となっており、損害となる。
以上が損害となる。
5 最後に、仮に、Bの忠実義務・法令違反がなければ、甲社には上記損害は発生せず、因果関係がある(⑤)。
6 以上により、Bは甲社に対し、上記損害賠償責任を負う。
第2 設問2
1 仮に、第1取引及び第2取引が事情譲渡(467条1項2号)にあたる場合、株主総会の特別決議(309条2項11号)が必要であり、本件では、総会決議がなされていない。そこで、第1及び第2取引が事業譲渡にあたるか。
2(1)この点、基準の明確性と会社法21条と同様に考え、事業譲渡とは(a)有機的一体性、(b)事業営業の継続性、(c)競業避止義務を法律上当然に負うことを要件とする見解もある。しかし、上記(c)は、効果であって要件ではないと考える。
よって、私は、事業譲渡とは、(a)(b)のみを要件と考える。
(2)まず、洋菓子の製造販売に必要不可欠な建物・土地・商標権という財産的な価値があるものを売却している。また、その際、甲社の洋菓子事業部門の全従業員という人的財産を丙社に引き継がせている。とすれば、丙社が事業開始を支障なく行うことができ(a)がある。
また、甲社の全部の取引先についてお新たに丙社との間で行うこととされており、営業の継続が行われている(b)。なお、甲社の競業が禁止されていないが、(c)は要件とならず、関係はない。
したがって、事業の譲渡にあたる。
(3)もっとも、甲社は、他に乳製品事業部門を行っており、洋菓子事業部門は、一部の事業譲渡にすぎない。そこで、「重要な一部」にあたるか。
この点、重要な一部とは、資産の帳簿価格が総資産(規則137条1号~8号)の5分の1以上のものをいう(467条1項2号括弧書き)。
そこで、資産の帳簿価格は、第1及び第2取引を別々に取締役会決議の対象とされているが、一体として考えるか問題となる。
この点、上記の通り、有期的一体の判断において、建物・土地・商標権を一体として判断しており、第1及び第2取引は一体として考える。よって、第1及び第2取引をあわせて帳簿価格となり、2億5千万円となる。
その一方で、総資産額は、7億円引く2億円の合計5億円である。したがって、5分の1以上となり、「重要な一部」にあたる。
3 本件では、467条1項2号にあたる。もっとも、事業譲渡は、会社資産に多大な影響があり、株主総会決議が不存在であったことは、絶対的無効となる。
第3 設問3
1 甲社株式の効力は、828条1項2号の無効事由にあたるか。
この点、「無効」事由とは、多数の利害関係人に影響があるため、重大な法令・定款違反に限る。なお、非公開会社は株主相互お信頼関係が重要となり、「無効」事由の判断は、厳格に判断する。
2 まず、甲社の新株予約権は、株主総会決議がなされている(238条2項・240条、甲社は非公開会社)。
その上で、株主総会は、取締役会に委任(239条1項以下)している。また、239条1項1号~3号にはあたらなくとも、細目事項は取締役会決議で決定できるが、会社の帰趨を決する重要な事項にあたっては、委任の趣旨に反して取締役決議ではできない。
Gは新株予約権とは別に報酬を得ているコンサルタントである。そして、新株予約権を与えた趣旨は、上場の成功報酬、すなわち、業績向上につきインセンティブ与える趣旨で取締役会に行使条件を一任している。
とすれば、上場条件を廃止したことは、重要な事項にあたり、取締役会ではできず、239条1項に反する。かかる法令違反は、甲社という小規模非公開会社にとって重大な法令違反といえる。
3 よって、甲社株式の効力は、無効である。
以上