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第1 甲の罪責

1 まず、A社は互いに他の部から独立した部屋で業務を行っている。とすれば、甲が同月15日、新薬開発部の部屋に窃盗(刑法(以下、省略する。)235条)目的で立入った行為は、A社たる管理権者A社の意思に反し、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。

2 次に、新薬の書類を自己のカバンに入れた行為につき窃盗罪の共同正犯(60条)が成立するか。

 この点、新薬開発という情報としての価値の高い上が化体した10枚の書類は、「財物」にあたる。

 次に、窃取とは、他人の財物につき占有者の意思に反し、占有者の占有を侵害し、自己または第三者の占有に移すことをいう。そして、占有とは事実上の占有それ自体(242条)をいう。また、その判断は、地位・保管状況・態様・意思等から決する。

 確かに、新薬開発当時、甲は部長であったものの、現在、財務部経理課に所属しているにすぎない。また、すでに、新薬開発部の後任の部長に引き継ぎを行っており、また、金庫の暗証番号を伝えている点で、事実上の占有につき放棄したものと評価できる。さらに、新薬開発情報が記載された書類は、価値が高く、会社の金庫にて厳重に管理されている。とすれば、甲には事実上の占有はないものと言える。

 そして、甲は、自己所有のかばん(時価約2万円)という厳重に保管できるかばんに書類を入れたことはA社の財物につき、A社たる占有者の意思に反し、甲自身の占有に移している。

 よって、窃取したと言える。さらに、甲自身はA社の占有侵害につき認識認容があり、故意(38条1項)が認められる。

 なお、誰もいない部屋で、A3サイズの書類が入る大きさで、かつ、持ち運びやすい持ち手が付いた甲所有のかばんにA3サイズの10枚の書類を入れた時点で甲自身の占有に確定的に移したといえる。よって、かかる時点で既遂となる。

 以上により、甲はA社に対して窃盗罪が成立し、後述の通り、乙と共同正犯となる。

3 次に、甲は乙から300万円を得ているものの、自己が経理部所属になったという重要な事実につき伝えているため、詐欺罪(246条1項)は成立しない。

4 甲が、CからCが持っていたC所有のかばんを取り上げた行為につき強盗罪(236条1項)が成立するか。

(1)ア.この点、強盗罪の暴行とは、恐喝罪(249条)と異なり、人の反抗を抑圧するに至る程度で足りる。そして、その判断は、一般人を基準に、年齢・体格・性別・場所・被害者の対応等から社会通念上客観的に判断する。

イ.加害者甲は、53歳というCよりも(35歳)随分、上の年齢である。その一方で、Cは35歳という体力もある若者である。しかし、53歳という年齢は、一般的に見ても体力が劣っているとも言えない。さらに、甲・Cとも男性であり、体格も甲が身長170cm、体重75キログラムであって、Cは身長175センチメートル体重65キログラムというほぼ同一の体格である。

 その一方で、Cは甲の存在にまったく気付いておらず、甲は力の入りやすい持ち手をでしっかりつかんでいる。その一方で、Cはかばんの持ちにくい他の部分をつかんでいる。その上で、本件甲とCがもみあった場所は、狭い電車の往来があるホームである。仮に、甲が力の入れ具体を変えたりして、Cがホームに落ちる危険もある場所である。かかる場所での甲とCのやり取りを一般人がそばから見れば、Cがホームに転落し、命を落とす危険がある行為である。よって、甲が持ち手を手でつかんで引っ張ってそのかばんを取り上げる行為は、Cの反抗を抑圧するに至る程度、すなわち、暴行にあたる。

(2)次に、強盗罪には反抗抑圧状態にあたり、処分行為は不要である。

(3)また、強取とは、人の反抗を抑圧して、事実上の占有を自己に移すことにある。本件甲は、出発間際の電車に飛び乗った時点でCは取り戻すことが不可能となり、確定的に自己の占有に移したといえる。

(4)さらに、甲は、Cに対する暴行ないし占有奪取につき認識認容があり故意が認められる。

(5)以上により、甲には、Cに対して強盗罪が成立する。

5(1)次に、Cは甲からかばんを引っ張られた弾みで通路に手をつき手の平を擦りむく人の生理的機能を害する加療1週間を要する傷害を負わせている。そこで、強盗の機会により、強盗致傷罪(240条前段)が成立するか。

ア.この点、強盗罪において刑事学的に見て、人に傷害を負わせることは顕著である。とすれば、強盗の機会が必要である。もっとも、処罰適正化の見地より、強盗手段と密接関連性が必要である。

 本件では、甲がCからかばんを引っ張ったという暴行行為によって手をつき傷害を負っている。とすれば、密接関連性があり、強盗の機会と言える。

 そして、暴行行為と傷害には因果関係が認められる。なぜなら、甲の暴行が直接原因となっており、危険の現実化が認められるからである。

 さらに、暴行につき故意がある委譲、結果的加重犯である傷害結果には故意は不要である。

イ.したがって、強盗致傷罪が成立する。

(2)なお、甲は、自己のカバンを取り返そうとしており、自救行為として違法性阻却されるか問題となる。しかし、強取ないし暴行という社会的相当性を逸脱する行為を行っている以上、違法性阻却されない。また、過剰性に認識があるため、責任故意は阻却されず、故意犯が成立する。

6 以上により、甲には、A社に対して建造物侵入罪・窃盗罪の共同正犯が成立し、けん連犯(54条後段)となり、Cに対する強盗致傷罪と併合罪(45条)となる。

第2 丙の罪責

1 丙が同ベンチに置いてあったかばんを待合室の外に持ち出した行為について窃盗罪が成立するか。

 この点、窃取とは前述の通り、占有者の意思に反し自己の占有に移すことをいい、占有とは事実上の占有をいうところ、かかる占有は占有の事実と占有の意思によって判断する。その判断は、時間的場所的近接性・場所・見通し状況・被害者の意思等を考慮して決する。

 確かに、待合室は常時開放されており、誰でも利用できる開かれた空間とも思える。また、待合室は、四方がガラス張りであるが自販機からは見通し状況が悪い。しかし、甲がかばんをベンチに置いた時刻は同日午前11時15分であり、丙が持ち去った時刻は、1分後の同日午前11時16分である。また、自動券売機は待合室の隣に(20メート)にある。とすれば、時間的場所的近接性が認められる。

 そして、ベンチは待合室の出入り口を入って、すぐ近くにあり、おかれている。その上で、待合室には、丙が持ち去った時点で丙のみがおり、多数人の人がいた訳ではない。また、甲はかばんがなくなった後、心配になってベンチを見ており、また、必死に探している。なお、書類は甲の2万円相当の頑丈なかばんに入れられており、かかる事実も補強する事実となる。

 したがって、かばんには甲の占有の事実と占有の意思が及んでおり、丙が待合室の外に持ち出したことは窃取にあたる。また、丙には故意もある。

2 もっとも、丙は逮捕され寒さをしのぐ意思で行っており、不法領得の意思のうち経済的利用意思が欠けるか。

 この点、毀棄罪との区別をするため、経済的利用意思は必要であるもの、毀棄罪の裏返しを意味しており、何らかの利用意思があれば足りる。本件では、ホームレスの人にとって冬の寒さはきびしいものであり、暖をとれる留置施設ですごすことも利用意思が認められる。

 したがって、不法領得の意思が認められる。

3 なお、待合室を一歩出れば、B駅には多数の人がおり、丙を発見することが困難であり、かかる時点で、窃盗罪は既遂となる。

第3 乙の罪責

1 乙には、甲との間で業務上横領罪(253条)の共謀共同正犯(60条)が成立する。以下、理由を述べる。

2 まず、共謀共同正犯には、謀議・正犯意思が必要である。本件では書類を手に入れることに甲乙間で謀議している。また、乙は、営業部長であり、出世するために行っており、正犯意思が認められる。

3 次に、窃盗罪が成立しており、主観的には、業務上横領罪の故意で行っている。しかし、行為は奪取するという同一の行為、財産を害するという法益侵害の点でかさなりあいが認められる。よって、故意は阻却されない。

以上