日本もワクチン開発を

…米国で感染拡大するH5N1型「鳥インフルエンザ」に備えよ(全文)

                                       2024年05月02日      デイリー新潮 

         藤和彦:経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、

       1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、

       2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

 

パンデミック条約は不透明な情勢

 新型コロナのパンデミック発生から4年が経過し、通常通りの日常生活が戻りつつあるものの、

改めて その「爪痕」の大きさが明らかになっている。

                   【図表を見る】H5N1型「鳥インフル」発生国・地域とヒトでの確定症例数は

 英医学誌「ランセット」の研究によれば、2019年から2021年の間に世界の平均寿命が 1.6年

短くなり、新型コロナは 死因の第2位だった。平均寿命の縮小は 1990年以来初、死因の順位が

大きく入れ替わったのは 数十年ぶりのことだ。この研究では 「 新型コロナが出現しなければ

1590万人の命が失われることはなかった 」とも言及している。

 

 国際社会は 新型コロナの悲劇を二度と繰り返してはならないと誓い、新たな感染症パンデミック

(世界的大流行)に備える体制づくりに乗り出している。

 その中心的な役割を果たしているのが 世界保健機関(WHO)だ。

 

 WHOは 2021年12月からパンデミック条約に関する協議を開始し、5月27日から開催される

世界保健総会までの交渉妥結を目指している。条約の柱は「 緊急事態宣言の手続きなどを定めた

国際保健規則の改正 」と「 感染症の公平な予防・対策実現のために不可欠な医薬品の技術移転など

に関する枠組みづくり 」だ。

 だが、医薬品の技術移転を巡って、ワクチン特許使用料の減免などを求める発展途上国と

大手製薬企業を擁する先進国が 激しく対立しており、4月29日からの協議でも交渉がまとまるか

どうかは不透明な情勢だ。

 

日本は「笛吹けど踊らず」となる可能性

 

厚生労働省

 

                                                              出典:厚生労働省ホームページ

 

 日本も 感染症対策を強化し始めている。ワクチン開発で 諸外国に後れをとり、緊急時に医療体制

が脆弱性を露呈したことなどへの反省を踏まえた対応だ。

 来年4月1日に設立される 新しい専門家組織「 国立健康危機管理研究機構 」もその1つである。

「国立感染症研究所」と「国立国際医療研究センター」が統合して発足する。感染症の調査・分析から

臨床までを 一貫して対応するとともに、ワクチンや治療薬の開発支援といった役目も担うことから、

米疾病対策センター(CDC)にならって「日本版CDC」と呼ばれている。

                                   岸田版CDC「JIHS」創設を、強引に進める勢力は・・・。 

 政府は さらに感染対策を「柔軟かつ機動的に」に実施できるよう、新型インフルエンザ等対策政府行動

計画の改定案を 6月中に閣議決定するとしている。だが、政府の掛け声に現場が呼応しない

「笛吹けど踊らず」となる可能性は 排除できないと思う。

                                   新型インフルエンザ等対策推進会議|内閣官房 |

 

 

デング熱、百日咳…まだまだある感染症

 日本を始め 国際社会の対応が 必ずしも十分ではない状況下で、次のパンデミックは 時間の問題

との声が高まっている。

 ブラジルを中心に急増しているのは、蚊を媒介とするデング熱だ。感染するとインフルエンザの

ような症状が出て、死に至る場合もある。

 

 汎米保健機構によれば、4月17日までに報告されたデング熱の症例数は 520万を超え、昨年の

年間症例数(約457万件)を上回った。今年に入って死亡した患者は すでに合計1858人と、昨年の

年間合計(2481人)を上回る勢いだ。

 中国や欧州の一部では、咳やくしゃみなどの飛沫で感染する呼吸器疾患の百日咳が大流行している。

中国政府によれば、1月から2月にかけての感染者数は 昨年の20倍以上(3万2380人)と急増し、

少なくとも 13人が死亡した。欧州では オランダが深刻だ。4月第2週までに 5303人が感染し、

4人が死亡している(4月19日付Forbes)。

 

牛乳に 鳥インフルウイルスの残骸

 世界各地で感染症が蔓延している中、筆者は「 最も危険なのは H5N1型の鳥インフルエンザ

なのではないか 」と危惧している。

 WHOによれば、鳥インフルエンザのヒトへの感染は 2003年1月から今年3月28日までに合計888例、

うち死亡は 463例。ヒトからヒトへの感染は 現時点では起きていないとされているが、油断は禁物だ。

 鳥インフルエンザの世界的流行は 2020年に欧州から始まり、米国にも飛び火した。その後に

流行は沈静化したが、米国で 再び感染が拡大している。

 気になるのは 乳牛にも感染が広がっていることだ。鶏は感染すると死に至る場合が多いが、

乳牛は 回復すると言われている。

 米食品医薬品局(FDA)は4月25日「 米国内で市販されている 牛乳5本のサンプルのうち1本から

鳥インフルエンザウイルスの残骸が検出された 」と発表した。

 

ヒト用のワクチン開発を

 乳牛からヒトへの感染も起きている。南部テキサス州では 4月1日、陽性が疑われる乳牛から

男性が 鳥インフルエンザに感染し、結膜炎とみられる症状が出た(その後、回復)。

 鳥インフルエンザウイルスは変異を続けており、ヒトからヒトに感染する新種が出現する確率が

高まっていると言わざるを得ない。

「 鳥インフルエンザのパンデミックが起きる 」と断言するつもりはないが、備えあれば憂いなし。

FDAは 既にヒト用のワクチンを承認している(4月19日付Forbes)。

 日本もヒト用のワクチン開発を直ちに開始するとともに、WHOを介して公平に世界へ配分できる

メカニズムの構築に尽力すべきではないだろうか。