感染症対策の専門家組織「JIHS」 厚労省が25年4月創設

              2024年4月9日    日本経済新聞 

 

 厚生労働省は9日、次の感染症危機に備える新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を

2025年4月に創設すると発表した。新組織を準備する委員会で方針を示した。感染症に関する国内外

の情報を集約し、政府に 科学的知見を助言するなど 国内の対応力強化を目指す。

                   国立健康危機管理研究機構 - Wikipedia

   略称は「JIHS(ジース)」とし、今後 閣議で正式決定する。準備委員会に出席した武見敬三厚労相

は「 感染症に関する あらゆる情報をつなぎ、革新的な研究や投資を呼び込む好循環を生む組織にして

ほしい 」と話した。

   新機構は 病原体などを研究する 国立感染症研究所と、感染症の治療などにあたる 国立国際医療

研究センター(NCGM)統合して発足する。 米疾病対策センター(CDC)にならって

「日本版CDC」と呼ばれている。23年の通常国会で関連法が成立していた

 

 今後は 25年4月の創設に向けて、厚労相直轄の実行委員会を設けて準備を進める。必要な人材の

確保、有事の際の動員体制などを整理する。武見厚労相は「 将来起こる感染症のパンデミックで

日本が 国際社会で重要な役割が担えるよう、支援と協力をお願いする 」と呼びかけた。

 

 

 

  〇 創設の論拠となっている永井良三の報告書について、東京大学名誉教授の山田章雄は、

   第71回厚生科学審議会感染症部会で次のように述べた。

    “新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた 次の感染症危機に向けた中長期的な課題について”. 

                         内閣官房. 2022年10月17日

     第71回厚生科学審議会感染症部会 議事録”.  2023年6月5日


  > 私は この有識者会議(註:新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議のこと)の

       報告を読ませていただいたところ、確かに いろいろな問題があったことは 事実ですけれども、

       その中で 特に 感染研(註:国立感染症研究所のこと)だとか NCGM(註:国立国際医療研究

       センターのこと)が 今回の対応で問題があったという指摘は 読み取れていません。

           にもかかわらず、司令塔組織が必要だ というところは 全くその通りだと思うのですけれども、

   そこの部分が拡大解釈されて、次の2つ目の対応案か何かの中に突如として感染研とNCGMを

       CDC化するというのが出てくるので、私は 個人的には 違和感を覚えています。
          というのは、何かやるときには 振り返って、ここに問題があって、これを解決するためには

       こういうことをすればいいのだ、そういう線上で出てこなければいけないのに、感染研、NCGM

       の統合というのは そういう線上で出てきているようには 私には思えません

          かといって 反対するわけではなくて、以前からCDC化が必要だというのは 私自身も思って

       いました。ただ、そのときに足かせになるのは、感染研のFDA機能(註:アメリカ食品医薬品局

       の機能のこと)とNIH機能(註:アメリカ国立衛生研究所の機能のこと)と言われるものを

       どのようにするのか、そこを きちんと考えておかないと混乱を生ずると思っています。


          一方、CDCに関しては、先ほど 調委員からも御指摘がありましたように、年間1兆5000億円

       の予算 並びに1万1000人の職員を抱えた巨大組織であるにもかかわらず、今回のコロナ対応

       では大失敗をして、国民から 物すごい勢いで突き上げられて、ワレンスキー所長が職員に

       eメールを送って、今後 改革をしていくというお話であると理解しています。

         したがって、どんなに大きな立派な組織であっても 必ずしも危機対応がうまくいかない。

       だから、組織の中で 何をするか、どういう組織にしていくかを 常に考えながらやっていか

       なければいけないのだと思っています

          そのワレンスキー所長は、議会に対して 1兆5000億円という年間予算をもらっているそう

       ですけれども、今回 自由に使える予算を確保するように 議会に申し出るという報道も出て

       います。ということは、CDCですら 自由な活動が 例えば こういうエマージェンシーのときに

       できなかったのだ ということを 如実に語っていると思います。したがって、組織だけを CDC

       をまねてつくっても 全く それによって 今後の感染症対策が担保されるわけではなくて、

        こういうときに どさくさに紛れて組織をいじろうとするよりは、基本的に何が必要なのか、

       何が足りないのかを じっくり考えて、そのために必要なことをやっていけばよいと。

 

 

   〇 中央大学教授の野村修也は、以下のように発言した。

   > 
宣言の出し方や内容など 政府対応の問題に踏み込まず、今後の制度改正にお墨付きを

    与えただけ。極めて 不十分で検証とは呼べない。

 


          〇 参議院議員の倉林明子は、2010年の新型インフルエンザの対応について行われた

    ような 丁寧な検証が 新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議では ほとんど

    出来ていないと国会で述べた。

       会議録情報 第211回国会 参議院 厚生労働委員会 第15号 令和5年5月25日”. 



  一方、永井良三は、2023年2月3日の日本公衆衛生協会の講演において、

   「 有識者会議、えらくメディアから評判が悪く 」「 メディアの勉強不足なんだろう 」

         「 お前たち何も分かっていない 」「 一時間も議論すれば分かるわけです 」「 あのくらいで

          良かったんじゃないかと 今でも思っております 」などと主張している。

                   『公衆衛生1207』。2023

      医薬品の品質管理についての誤った認識に基づいて創設されている
         国立感染症研究所は ワクチンなどの生物学的製剤についての国家検定を行政機関として 所管

      している。すなわち アメリカのFDAに相当する機能を担っている。

  塩崎恭久は、「 さして先端技術等が求められることもない検定 」という理解を根拠として、

      合併に伴い 国家検定の所掌を国立感染症研究所から PMDAという実験室を持たない官僚組織へ

      移管することを、厚生労働省の猛反発を受けながらも 2020年9月の自民党の提言に盛り込んだ。

         自民党の提言にも「 必ずしも世界最先端の知見を必要としない国家検定 」という表現が

      含まれている。しかしながら、薬害エイズ事件は 薬事行政が 最新の学術動向を踏まえきれ

      なかったことにより起きた事件であり、厚生労働省の担当課長は そのことで 業務上過失致死罪

      の刑事罰すら受けている。

         また、自民党が提言を出した数ヶ月後に 初めて実用化した新型コロナウイルスワクチンが

      全く 新規のモダリティのものであったことは、検定や審査制度の整備に 先端技術の理解や予測

      が重要であることを示している。すなわち、医薬品の検定についての自民党の認識は 完全なる

      間違いである。2023年5月の国会では、国家検定を PMDAへ移管することの危険性について

      多くの国会議員が質問した。

 

      称の「CDC」は合併により生み出されるものと無関係
         本家CDCであるアメリカのCDCは、国立国際医療研究センターのような病院機能を持って

      いない。岸田文雄総理大臣は「 日本版CDCを創設することにより、基礎から臨床までの一体的な

      研究基盤 」と国会で述べたが、そもそも アメリカのCDCには 基礎から臨床までの一体的な

      研究基盤が存在しない。衆議院議員 仁木博文は、国立健康危機管理研究機構を「岸田版CDC」と

      表現した。また、参議院議員川田龍平は、米国CDCとは比較するのも申し訳ないほど 小さな組織

      であり、機能も実態も異なるものなので、CDCと呼称することをやめるよう国会で主張した

      感染症対策を目的としなくなる可能性がある
       「 国立健康危機管理研究機構 」という名称には「感染」という言葉は含まれていない。

      全国知事会の伊藤賢一は 第71回厚生科学審議会感染症部会において「 もう少し感染症という

      ものを前面に押し出した組織のお名前にしていただいていいのではないかと 個人的には考えて

      います」と述べたが、その意見は取り入れられなかった。 

         浅沼一成厚生労働省審議官は、将来的に 感染症以外の業務を対象にしていく可能性について、

     「 将来 どのようになっていくかというのは、また その時々で御議論をまたなければ 」と

      2023年5月10日の衆議院厚生労働委員会において答弁し、否定はしなかった。

         創設法案が 衆参両院で可決した 2023年5月31日には、東尚弘東京大学教授が

     「 国民の脅威になるのは 感染症だけではない。感染症以外の病気も調査し、健康上の課題を

      見渡すような機能も持たせてほしい 」と早速主張した。

         m3.comによると、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長自身も

     「 国立健康危機管理研究機構という名称には、感染症という言葉は入っていないことにも注目

      していただきたい …… 感染症にとどまらず、幅広い健康危機への対応体制を強化できれば

      と思っています 」とインタビューで発言している。

 

  通常の指揮命令系統や情報伝達機構が 制度設計の時点で崩壊している
         岸田文雄は 国立健康危機管理研究機構の創設と同時に 内閣官房に内閣感染症危機管理統括庁

      を感染症対策の司令塔として創設することも決定した。国立健康危機管理研究機構は 厚生労働省

      に所管されるはずのものだが、この内閣官房の内閣感染症危機管理統括庁は 国立健康危機管理

      研究機構に 科学的知見を提供させることができると法的に定められた

        すなわち、国立健康危機管理研究機構には 事実上2つの上部機関が存在する。つまり、制度設計

      の時点で 国立健康危機管理研究機構が 内閣官房と厚生労働省の板挟みになっており、通常の

      指揮命令系統 や 情報伝達機構が 感染症対策について存在し得なくなっている。

         参議院議員の天畠大輔は「 一機の飛行機に二つの異なる操縦桿が付いているようなものであり、

      墜落するのは確実」と国会で述べた。

              “会議録情報 第211回国会 参議院 厚生労働委員会 第15号 令和5年5月25日”.

      科学的知見と政策との距離が 遠くなる
          国立感染症研究所は 国の組織であり、厚生労働省の一部であった。国立健康危機管理研究機構

      の創設によって 国立感染症研究所の専門家は 厚生労働省と別組織に属することになり、距離は

      遠くなる。

    また、米国CDCとは異なり、国立健康危機管理研究機構には 政策の立案権限は与えられて

      いない加藤勝信厚生労働大臣は、政府が 国立健康危機管理研究機構の見解とは離れた政策を

      決定した場合においても、「(国立健康危機管理研究機構から)異論が出てくるということは

      ない」と 2023年5月10日の国会で述べている。

      ほとんどの構成員は感染症を専門としていない
         ほとんどの構成員が属していた国立国際医療研究センターは、基本的には 全疾患を対象にする

      総合病院であり、感染症のみを対象とした機関では全くない。 国立国際医療研究センターが

      今後も「 総合病院として進化し続け 」ると宣言するプレスリリースを2023年6月1日に出して

      いることから、国立国際医療研究センターの総合病院としての機能は 維持されると思われる。

      即ち、国立健康危機管理研究機構の構成員のほとんどは感染症を専門としていないことになる。

  構成員の地位や使命感やモチベーションは低下する
   特殊法人化により 国立感染症研究所の所員は 公務員の立場を失うことから、国内的にも国際的

      にも地位は低下する。給与等の待遇が改善されでもしない限り、構成員の使命感や資質といった

      ものは 少なくとも 長期的には低下する。

         長崎大学特区長の森田公一は、第71回厚生科学審議会感染症部会において

     「 これまでは 感染研の職員は 国家公務員であったので、いろいろなベネフィットがあったわけ

      ですけれども、これらの海外での活動が 不利益を被らないような方策も考えておいて頂きたい」

  と述べた。
   国立国際医療研究センターの構成員は 公務員ではなかったが、感染症以外の分野で 研鑽を

      積んできた ほとんどの構成員にとっては、肩書きに感染症対策を使命とするようなものが 

      突然 加わることになる。

         参議院議員川田龍平は、国立国際医療研究センターにとって 合併は寝耳に水の話であり、

      病院長すら 事前に聞いていなかったことを 2023年5月25日の参議院で明らかにしている。

         衆議院議員松本尚は、国立国際医療研究センターは「 常時感染症の専門病院となるべき 」

      とする意見があることを国会で述べている。