スーパー追憶の追憶。 | 境界線型録

境界線型録

I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 スーパーストアは魔窟、物欲のハーレム。数日ぶりに近所のスーパーへ昼飯の材を調達しに行き、目眩く商品の堆積に興奮し奥様方と先を競って走り回った。

$新・境界線型録-1103seika

 野菜売り場を抜けると、そこは麺類売り場だった。
 うどん、そば、きしめん、ラーメン各種、チャンポン、スープ類にメンマ、叉焼、煮卵。私は麺愛好家なので、そういう場にいて退屈すると言うことがない。隣のおでんの具だの練り物類などの景色は霞んでいる。
 しかし、その先には魚介の戦場が待ち構えている。さらに奥の肉売り場には惹かれないが、魚介どもが練り物とおでんの種越しに「お待ちしてるわァ。早くいらしてね」と呼びかけている。この声は鯖か鰈か秋刀魚か。まて、烏賊か蛸かもしれない。最近はチャンポンに凝っていたので浅蜊にもちょっかいをだしていたから、浅蜊が呼ぶのかも知れない。あっさりした声だし。
 などと、色々熱い欲情が体中を駈けめぐるスーパーストア。



 初代ブログの初期に、やはりスーパー情念を記録したのを思いだした。二代目ブログにリサイクルしようとテキストを残してあった。今夜は大量に庭仕事して疲れたので、それをちょっと改変して放りこもう。
 かつて、都心の事務所にせっせと通勤していた頃、ある冬の夕刻の記録。

 小学生の頃から、食品売り場をフラフラするのが好きだった。コンビニでは想像力が働かないが、スーパーでは退屈することがない。今日は粉のコーナー(ダジャレじゃない)で、しばらく遊んだ。
 娘たちが天ぷらを食べたいというので、日曜日に天ぷらをやろうと決意したのである。
 でも、天ぷら粉を発見する前に、中力粉が目に飛び込んでしまった。おお、そうだ、うどんを打たなきゃいけなかったと思い出した。うどんを手打ちして、味噌も自分でブレンドして、味噌煮込みうどんを作ろうと、先月考えたのだった。
 なかなか良さそうな中力粉があったので、うれしくなってしまった。やはり貴重な日曜の団らんは、あったかい味噌煮込みうどんに限るな。
 なんて興奮していると、目の端に上新粉が映った。
 おお、そうだ、そうだった、団子を忘れていた。去年の月見の頃に、団子を手作りしようと思ったのだった。娘たちにキナコで喰わせてやろうと思いつき、ミニ石臼で大豆を挽きキナコは作ったが、団子を作るのを忘れていた。キナコはタッパーに入れてどこかに置いたはずだが、どこだったか。まるで記憶にない。たしか五年くらい前にも同じことをやった気がするが。
 けれど、いまさら月見団子も何だから、と遠山の目付で視野を広げると、右の方に白玉粉を発見した。
 おお、そうだった。これだった、私がずっと念願しながら、成就していなかったのは。
 高校生の頃だったろうか、テレビで白玉団子というのを見て、甘いものは嫌いなのだが、食べてみたいと思ったのだった。甘味屋さんのは甘いだろうから、自分で硬派の白玉団子を作ろうと思っていた。白玉団子こそ、我が青春の悲願だった。これさえ作れば、我が青春に悔いなしではないか。
 ところで、白玉団子って、どうやったら硬派になるんだろ。ハテと悩んでいると、下の方に蕎麦粉を発見してしまった。
 もしかして純な奴ではとしゃがみ込んで探ると、おお、やっぱり。まさかそんな足下の方にそんな上等な粉が隠れているとは。危うく見落としてしまうところだった。
 蕎麦打ちこそは、二十歳の頃からの悲願だった。ついに時を得たり。日曜はザル蕎麦にしよう。
 いやいや、待て。寒いからカケにするか。
 と自問自答しつつ蕎麦粉のパッケージに印刷された蕎麦の打ち方を、老眼鏡をかけて具に検分したら、面倒臭そうだった。今週末も仕事があるし、また今度にしようと思った。
 なんだか疲れてしまったので、柿の種だけ買って帰った。天ぷら粉はすっかり忘れてしまった。

$新・境界線型録-1103sora

 当時のタイトルは「粉の追憶」。
 今日もっとも滞留したのは、乾物コーナー。糠粉がなかなか見つからなかった。乾燥若布の下、陳列棚の最下段の奥にひっそり隠れていた。そろそろ冷えてきたから焼酎を蕎麦湯割りにするために、また粉コーナーをうろちょろしてこようか。

 今日の雲。

$新・境界線型録-1103kumo