蕎麦屋をやっている頃、「話し言葉検定試験」の講習会を受けました。その中で一番印象的だったのは、「させていただきます」という言葉は不適切だということです。使いすぎる人が多くてくどいと思っていたので、腑に落ちました。
説明では「させていただく」は、誰かにさせてもらうという意味が含まれる。例えば、「食べさせていただく」は、「誰かにスプーンで口まで持ってきてもらう」ことになります。へりくだり過ぎということになるでしょうか。
それでは、どんな言葉が適切かといえば、「いたします」であると習いました。確かに「説明をさせていただきます」よりも「説明をいたします」の方がすっきりします。言葉はすっきりした方が伝わりやすいです。
その数年後、サービス介助士という研修を受けました。「させていただきます」を使うように指導されました。「間違いではないですか」と問いただすと「それがビジネスマナーです」と説明されました。ビジネスマナーに不信感を持ちました。
そこでは、「語先後礼」も習いました。挨拶をしてから頭を下げるという礼の仕方です。伝統的な作法からは違和感を覚えます。その四字熟語自体も変です。語先なら礼後となるはずです。日本語の怪しい人が言い出した言葉としか思えません。
近頃のビジネスマナーに「ノックは3回」とあります。これも、多くの人が信用していますが眉唾物です。「2回はトイレなどの在室確認、3回は入室確認。2回は間違い、3回が正しい」とありますが、元になる根拠が見つかりません。
しいていえば、19世紀のロンドンの刊行物に「ノック1回は身分の低い人。2回は急いでいる人。3回は家の主人や夫人や親しい間柄。4回は上流階級」というものが見つかりました。でも、孫引きなのでどこまで信用できるか。
いろんなマナーがあるのは当たり前だと思います。怪しいと思う理由は、自分のマナーは正しく、それ以外は間違いと断言することです。さらに、怪しいマナーを信じて疑わない人の多いこと、多いこと。怪しい、実に怪しい。