かつて新幹線や在来線を走る多くの特急列車に連結されていた食堂車
時代の流れと共に徐々に数を減らし、新幹線からは2002年に姿を消しました
その後も北海道へ向かう寝台特急たち…「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」…では営業が継続されましたが、北海道新幹線の開業に伴いこれらの列車は全廃されました
そうした中で、古き良きブルートレインの食堂車の風情を今に伝えるレストランが埼玉県川口市にあります
その名はベーカリーレストラン「グランシャリオ」
最寄駅は武蔵野線または埼玉高速鉄道の東川口駅で、両路線の駅は隣接しています
駅からお店までは500mほどしか離れておらず、大人の足であれば10分とかかりません
9月上旬とはいえ、真夏と変わらない気配の太陽がじりじりと我々を照らしつけるなか、東川口駅前通りをえっちらおっちらと歩いていくと…
住宅街のど真ん中に突如としてブルーの鉄道車両が現れました
上述したようにお店の名前は、ベーカリーレストラン「グランシャリオ」で、かつて上野~札幌間を結んでいた寝台特急「北斗星」の食堂車を移設して営業を行っています
お店と表現すればいいのか、それとも車両と表現すればいいのか難しいところですが、「グランシャリオ」はピュアホームズグループという介護事業や建設事業を経営している会社が管理しているようで、同じ敷地内に和食料理の「神楽」やイタリアンの「リストランテ谷澤」が営業しています
店内?車内?に一刻も早く足を踏み入れたい衝動に駆られつつも、まずは外観をひとしきり観察します
2022年に塗装修繕工事が完了したばかりで、車体は眩いばかりのブルーに輝いており、そのままパーイチに牽引されて動き出しそうな雰囲気です
車体妻面に設置されている銘板がそのままなのも鉄道愛好家にとっては嬉しいポイントです
東急車両で昭和48年に製造され、もともとはサシ481 64として生を受け、昭和63年に改造された際にスシ24 504へ生まれ変わりました
24系オリジナルの食堂車はオシ24形ですが、「北斗星」がデビューした当時は食堂車が不足していたため、ちょうど余剰が発生していた特急電車の食堂車を改造することでスシ24形500番台が生まれました
2008年3月のダイヤ改正時に1往復化されてからは、食堂車の担当がJR東日本となったことから、JR北海道が所有する食堂車は運用を失い、同年中に廃車されました
JR北海道所有分も含めて計8両が改造された同車ですが、晩年はスシ24 504・505・506の3両で運行を担っていたようです
ちなみに、スシ24形の”500番台”が存在するということは”0番台”も存在し、そちらは「トワイライトエクスプレス」用の食堂車となります
出自が電車であることを如実に示しているのが台車で、ご覧の通りTR69Eを履いています
他に電車からブルートレインに編入された例としては、JR九州がかつて運行を受け持っていた寝台特急「なは」のレガートシート車であるオハ24形300番台車がサロ481形からの改造によって生まれています
検査表記を見ると、最後の検査は引退の約2年前である平成25年11月になっていました
車端部に設置されているアンチローリングダンパを観察しながら店内へ入ります
通常運行時に食堂車の連結面をじっくり観察することは出来なかったため、何とも新鮮な体験です
テイクアウトもできるようですが、ここまでやって来て車内で食事を頂かないというのは無粋極まりないです
車内へ一歩足を踏み入れ、厨房横の通路を歩くと、不意に懐かしさがこみ上げてきます
床も壁も手すりも現役当時そのままで、しかもペダルを踏むと、きちんと手洗い場の水まで出てくるのですから、驚かされます
鉄道新聞のインタビュー記事を見ると、わざわざ水道管を繋いで水を出るようにしたそうで、手間を惜しまず車両の保存にかける並々ならぬ情熱が伝わってきます
店内へ足を踏み入れると、そこには現役当時の「グランシャリオ」がそのままの空間が広がっています
何度か現役当時に乗ったことのある管理人としては、いたく感動しました
厨房側に近いテーブルには、実際に使われていたコースターやHOゲージ、雑誌の紹介ページなどが飾られています
確か、現役当時もこのテーブルはグッズ販売コーナーになっていたような気がします
飲み終わったスープの器が汚くてごめんなさい
食堂車といえばカレーと決まっているのかもしれませんが、私は淡路島たまねぎとトマトたっぷりハヤシソースにしました
たまねぎのまろやかさが口に広がる美味しさで、食べ放題のパンと共に、味も雰囲気も大満足でした
これで車窓が動いていたら最高なんですが… 贅沢は言えません
テーブルクロスだけは新調されていますが、ランプシェードやカーテンも現役当時そのままで、「北斗星」を知る人間としては嬉しい限りです
グランシャリオのプレートに照明がきらきらと反射して幻想的です
とにかく現役当時そのままにこだわっているのがひしひしと伝わってきますが、驚いたことに時刻表やお弁当・お土産類の賞味期限表まで保管されていました
レールの上を走っていた頃からの違いはエアコンだけで、どうしても電圧の関係で流用することができず、家庭用のエアコンが店内に2ヶ所設置されていました
機会があればまた是非訪問したいと思える最高のレストランでした
できればブルトレの生き証人として末永く営業して欲しいですね