弓道で,弓を取る左手を弓手(ゆんで)と呼び,馬の手綱を取る右手を馬手(めて)と言います。よく妻手とも書きますが,妻手は正式には「つまて」と読み,大工道具の曲尺の長短2本の枝のうち短い方を妻手(つまで)と言います。長い方を長手(ながて)と呼び,妻手(つまで)はその半分程度の長さです。
妻とは他でも使われ,二つある片方を指し,短いとか狭い方をいいます。
弓道で言えば延ばしている左手が長手なのに対して曲げて短い右手が妻手(つまて)なのでしょう。
また,弓道では弓を押す左手を押手(おしで)と呼び,箙から矢を刈る右手を刈手(かって)と呼びます。貞丈雑記巻之十一一〔武蕊之部〉 蔵王町刈田郡は「かりたぐん」とは言わず「かった」と呼び刈田岳は「かっただけ」です。
この刈手を勝手と表記するようになったのは,武士にとって勝利は重要で勝ち虫や勝栗のように縁起を担いだものと考えます。

現在「勝手」について,デジタル大辞泉では次のように解説されています。
[名・形動]
1 他人のことはかまわないで、自分だけに都合がよいように振る舞うこと。また、そのさま。
2 何かするときの物事のぐあいのよしあし。都合や便利のよいこと。また、そのさま。
[名]
1 台所。「勝手仕事」
2 暮らし向き。生計。「勝手が苦しい」
3 自分がかかわる物事のようす・事情。「仕事の勝手がわからない」「勝手が違う」「勝手知ったる他人の家」
4 弓の弦を引くほうの手。右手。左手より力が勝ちやすいからいう。引き手。
●何故,弓の弦を引くほうの手を勝手というのか?
刈り手→勝手。上述のことより4の「弓の弦を引くほうの手。右手。左手より力が勝ちやすいからいう。」は全く根拠のない誤りであると言えます。
●何故,自由気ままのことを勝手というのか
武士は手から弓を取り落とすことは不覚とされました。手から弓が離れないように,また速射や狹間,馬上や船上で弓を射る場合手に薬煉を塗り(手薬煉を引く)弓を貼り付け弓返りを止めました。従って左手は一度弓を取ると何もできず,全ての用は右手で行う事しかできなくなるのです。自由に使える手は右手の勝手なのです。
●何故,台所のことを勝手というのか
台所とは食料を調理する場所です。平安時代の台盤(食物を載せるための脚付きの台)が語源とも言われます。昔は保存技術がなく、日光による食物の腐敗を防ぐ為、台所は北側に置かれました。台所の出入り口を「お勝手口」と呼びます。食料や日用品,生活用品などを運び込みました。食糧(主食となる食糧)の事を糧と呼び,糧を運び込んだ所だから糧口と呼ばれました。古くは「かりて」と読み,転じてかて,かってとなりました。そして糧の意が転じて台所や生計の意を表すようになったのです。勝手方
また,糧(かりて)とは古代、旅や戦闘に携帯した干し飯(ほしいい)などの携帯食糧のことをいいました。その様なものを準備保存する場所だから,かりて→かって→勝手
となったと考えられます。
「昔は家の中で女性が自由に使えたのが台所だけだったことから、台所のことを「勝手」と呼ぶようになった。」という意見もありますが,全く根拠のない誤りであると言えます。