今日は、朝から強い雨。
駅の近くを通ると、いつもより混雑していた。
その中に、私は見つけた。
左手にビニール傘、右手にカバンとおにぎりを持った男。
しかも、おにぎりを開けて頬張りながら歩いている。
え、こんな雨の中、歩きおにぎり?
向こうから歩いてくる彼を、私はさりげなく凝視した。
イワイガワジョニ男から、ちょび髭を無くしたような男。
ひょろっと伸びた細身に、グレーの背広を着ている。
忙しくて朝ごはんを食べられなかったから、コンビニで買って、出勤しつつ食べているのかな?
私だったらそんな場合は朝食抜いちゃうけど、彼は絶対に朝は食べる派らしい。
そういえば、朝食をとらないと脳がしっかり動かないからダメ!と、小学校からのお便りに書いてあった。彼は正しい。
そんなことを考えているうちに、彼との距離が近くなる。
具はなにかな?サケかな?梅かな?たらこかな?
やっぱツナかな。
ツナに3000点!はらたいらに3000点!
ひとり脳内クイズダービーを開催しつつ、彼とすれ違う。
その瞬間。
「あっ」
突風が吹いて、ジョニ男似の男のビニール傘が飛ばされそうになった。
慌てて傘を両手で支えようとして―――。
「あっ!」
ぽとり、と、おにぎりが落ちた。
水たまりINおにぎり。もう三秒ルールなんて効かない。
ジョニ男似の顔に、絶望の色が広がった。
さらに追い打ちをかけるように、ビニール傘が風にあおられ、空を舞った。
「ああっ!」
雨は容赦なく降り注ぎ、グレーのスーツがダークグレーに染まっていく。
私は彼から視線をそらし、振り返りもせずに立ち去った。
おにぎりの具は、恐らく、おかかだった。