その後の二人・前編 ~第二の人生のススメ・番外編~ | お気楽ごくらく日記

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白泉社の花とゆめ誌上において連載されている『スキップ・ビート』にハマったアラフォー女が、思いつくままに駄文を書き綴っています。

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「兵頭先生の所、どう?」

 

「厳しいけれど仕事を丁寧に教えてくれるので、とてもやりがいがあります。それに事務所の方たちも親切で良い方達ばりですし。そう言えば、敦賀さんは貴島先生をご存じですか?」

 

キョーコの問いかけに蓮は頷いた。

 

「うん。司法修習で同期だったんだ。」

 

「そうなんですか。貴島先生の口からよく敦賀さんのお名前が出るんですよ。」

 

「あいつが最上さんにどんな話をしてるのか、想像するだけで怖いな。」

 

街中のカフェで楽しそうにお喋りしている二人は、何処からどう見ても恋人同士に見えないのだが、実際はまだ友達以上恋人未満の二人である。

手を替え品を替え、蓮はキョーコに三年前からアプローチし続けてきたのだが、キョーコは一向に首を縦に振ってくれない。

もっとも、キョーコが弁護士になるための勉強に忙しかったのが一番大きな要因ではあるが、そればかりではないと蓮は思っている。

三年と言う月日を経たててもなお、新しい恋に踏み出すのを躊躇うほどにキョーコは酷く傷ついているのだ。

それでも、少しづつではあるが二人の距離は縮まったように蓮は思う。

 

その一方で、キョーコは自分の夢を果たすべく一歩一歩確実に前に進んで来た。

結局、キョーコは予備試験を受けずにロースクールに通うことを選んだ。

キョーコなら合格率数%の予備試験にも余裕で受かるだろうと蓮は思うのだが、他人の人生を左右してしまうような職業を目指すからには、やはりきっちり法学を学びたいと生真面目なキョーコは考えていた様で、ロースクールにキョーコが通い始めた時は驚いた。

そしてキョーコは2年ロースクールに通い、去年司法修習を受け、ついに先月、念願叶って弁護士になったのだ。

 

「それにしても意外でした。」

 

「何がですか?」

 

「俺はてっきり、最上さんは片桐先生の事務所に行くものだとばかり思っていたものですから。」

 

その蓮の言葉でキョーコは合点がいった。

 

「あ~。本当は誘って頂いていたんですけどね。なんだか、コネ入社だと、色眼鏡で見られるような気がして・・・」

 

キョーコらしい理由に蓮は微笑んだ。

ほのぼのとした空気が流れる中、キョーコのスマホからメールの着信と告げる音が鳴った。一体誰からだろう?とキョーコがスマホを見ると、それまでの楽しそうな表情から一変し怒りとも呆れともつかぬ顔をした。

 

件名 : ボロを間とった俺のヴィーナス

 

本文 :やっと今になって分かったよ。お前こそが、俺のヴィーナスだったんだって。

お前はいつもいつもボロ切れを魔とっていたから、俺は木がつかなかったんだな。

そう言えば、お前弁護士になったんだって?

でだ。ここで一つ提案があるんだが、もう一回俺と付き合わねぇ?

弁護士だったら、給料、メッチャ良いはずだよな?

やんきー(くりくり注:「やんごとなき」と言いたいらしい。)生まれの俺には、やっぱり汗水流して働くなんて、煮あわないにも程があるってもんだぜ。

なぁ、キョーコ。俺たち、もう一回やり直せるよな?いや、やり直そうぜ!

お前の給料で両手に鼻をかかえて湯夕自適の生活を送る俺様。

ひっひっひ。想像するだけで、素晴らしい生活になると思わねぇか?

 

ああ、そうだ。まかり間違ってもオヤジとオフクロには言いつけるなよ!!

お前のせいで、給料の半分もオヤジたちにはらっていたら、遊ぶ金がねぇんだわ。

近々、ガラスのくつを持って、お前を迎えに行くからな!

射ろ酔い返事を待ってるぜ。

                    ----END---

 

「どうしました?」

 

蓮の問いかけに、キョーコは黙って自分のスマホを差し出した。奇妙に思いながらも、メールを送ってきた名前だけで微妙な気持ちに蓮もなり、更にはその内容に怒りが湧いてきた。

 

「下衆が。」

 

低く呟いた蓮の声に、思わずキョーコは首を竦めた。

キョーコの知っている蓮は、春の日差しのような人間で言葉遣いもいつも丁寧である。

その蓮から漂う冷気と蓮の口から飛び出た単語に、キョーコは目を白黒させた。

 

「誤字も文章も酷いが、相変わらず自分の事しか考えていない。この様子からすると、監視されてる方の目をかいくぐってあなたの元に現れる確率が高い。接近禁止命令の手続く気を早急にとって、私の方から釘を刺しておきましょう。」

 

プライベートで会ってるはずが、たちまち蓮は弁護士モードに入った。

 

「お手数をお掛けしますが、よろしくお願い致します。」

 

自分でなんとかすべきかとも思ったが、ここはお世話になった蓮に任せるのが一番だろうとキョーコは思い直したのだ。

蓮の言葉で人心地着いたのか、キョーコはカフェラテを口に運んだ。

 

2人の前に置かれたカップが空になった頃を見計らって、蓮はそろそろ映画館に行こうかとキョーコを促し歩いていると、後ろから声がかかった。

 

「キョーコ!!」

 

嫌な予感しかしなかったが、蓮とキョーコは思い切って後ろを揃って振り向いた。

そこには案の定、一番会いたくない相手、松太郎が立っていた。

 

「よう!メール見ただろ?また一緒に暮らそうぜ。こうやって俺様が迎えに来てやったんだからな。嫌とは言わせないぜ。」

 

畳みかける様に喋りまくる松太郎を警戒し、さり気なくキョーコを背後に庇いながら、前に進み出た。

 

「はて、これはまた異なことを言う。ご両親をはじめ周りの方々の承諾無しには親戚の家から戻って来れない話になっていたはずだが。」

 

「ああ?てめぇには用はないんだから、すっこんでろ!!」

 

「生憎だが、それは却下する。彼女は俺の依頼人だ。その彼女の身の安全を守る義務が俺にはある。」

 

「ちっ。すかした野郎だぜ。おい、キョーコ、お前も何とか言えよ!」

 

「お言葉ですが、私たちの縁はもう3年前に切れてます。私はもう新しい人生を歩み始めてるので、これ以上邪魔しないで下さい。」

 

キョーコはまるで赤の他人を前に話すように、バカ丁寧な口調ではっきりきっぱり拒絶の言葉を告げた。

 

「なぁ、俺たちの仲じゃん。そんな余所余所しい喋り方はなんだよ。」

 

「私とあなたの仲は、かつては幼馴染で許嫁同志でしたが、三年前に破断になって以降は立派な赤の他人です。これ以上言い掛かりをつけるようなら、このまま警察に行きます。」

 

「は?警察?俺が何したって言うんだよ。」

 

「何って、三年前、もう私の前には姿を現さないと言う取り決めをしたはず。それを破って、こうして私の前に現れたからには三年前の物と一緒に被害届を出します。」

 

一向に自分の思う通りにならないキョーコに、元来短気な松太郎は苛立ちを覚えた。

そして強引にでもキョーコを連れ去るべくにじり寄り、キョーコの腕を掴もうと腕を伸ばした途端、蓮に腕を捩じり上げられた。

 

「痛ぇっ!何すんだよ!!」

 

「それはこっちのセリフだ。貴様の汚らしい手で彼女を触るな!!」

 

周囲の誰かが通報したのだろう。やがてパトカーのサイレンが近付いた。

現れた警察官に蓮は説明し、そのまま松太郎は連行されていった。

 

「敦賀さん、敦賀さん・・・・」

 

それ以上は言葉にならずに、キョーコは蓮にしがみ付いて、泣き出した。

 

静かに泣くキョーコを前に、蓮はどうしていいのか分らずに一人オロオロし、とりあえずはキョーコを抱きしめて不器用ながらもその背中をさすり続けた。

 

《つづく》

 

今回の話は、松太郎がキョーコに復縁を求めるメールをさらしたいがために、、書いたブツです( ̄▽ ̄)