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キョーの姿を認めた途端、自分の立場を全く理解していない松太郎は怒鳴りつけた。
「おい!キョーコ、この慰謝料一億って、どう言う意味だよ!!フザケてんのか、お前!!」
さり気なくキョーコを自分の背に庇って、蓮が至って冷静な口調で言った。
「貴方がした事を思えば、妥当な金額だと思いますが?」
「ああ?貴様、誰だよ。」
自分の背丈にも顔にも自信のあった松太郎だが、その自分より背が高く顔も整っている蓮を見て、苛立ち紛れにがなった。
「宝田法律事務所の敦賀蓮と申します。」
蓮が渡した名刺を、松太郎はぐしゃぐしゃに握り潰した。
キョーコ以外の人間には強気出ることが出来ない松太郎は、再びキョーコに向かって怒鳴った。
「おい、キョーコ!!弁護士を雇うなんて卑怯だぞ!!」
ぎゃんぎゃん喚く松太郎の後ろにそっと回ると、松太郎の母親は不肖の息子の耳を思いっ切り抓り上げた。
「いててててて。おふくろ、何すんだよ!!」
「ここまで、あんたが恥知らずやとは思わんかったわ!情けない!」
「まぁ、まぁ。お静まりください。こちらの彼にもぜひ聞いて頂きたい物がございますので。」
蓮の言葉に、松太郎の母親は、「せやったな。」と言って、松太郎に座るように命じた。
静まった部屋の中で、蓮が重々しく口を開いた。
「まずはこちらをお聞き下さい。」
何かを再生すると、キョーコと松太郎の声が流れて来た。
『ショーちゃん。お式だけど、来年の10月でどうかな?』
『それでいいんじゃね?』
『でね、やっぱり女将さんのご厚意に甘えて、ここで式を挙げるって言うのは・・・』
『何が悲しくて、自分ン家で挙げなきゃなんねぇんだよ。やっぱり、俺様の様な美形が着るのはタキシードに決まってんだろ!!アカトキホテルだったら、俺の知り合いがいるから、そこでバーンとド派手なのをしようぜ。割引も利くらしいからよ。』
『ちょっと待って、ショーちゃん!!結婚後の生活にもお金がかかるのに、ショーちゃんはそれだけの貯金があるの?私は、あまり盛大なのを出来るような貯金はないよ?』
『ああ?そんなの、親に言えば出してくれンだろ?』
『そんないつまで、板長や女将さんに甘えるつもりなの?結婚するって事は、今まで育ててもらった両親から独り立ちするってことなのよ?』
『ゴチャゴチャうるせぇんだよ!!』
そこで、蓮は音源を止めた。松太郎は、顔色が真っ青である。
「こちらは、キョーコさんが去年、式の打ち合わせを松太郎さんとした時に、たまたまキョーコさんのスマホに録音されていた物です。さて、松太郎さん。あなたは先程、ご母堂にキョーコさんとは来の年4月に式を挙げると仰いましたが、いつ時期を変更なさったのですか?キョーコさんはそのような話は全く聞いていないと仰ってますが。」
淡々と痛い所を突いて来る蓮に、松太郎は沈黙で答えるほかなかった。
《つづく》