ゲノム編集: 酵母細胞では染色体の数を減らしてもその適応度にはほとんど影響がない | Just One of Those Things

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前回に引き続き、34号目のネイチャーのハイライトより。

 

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ゲノム編集: 酵母細胞では染色体の数を減らしてもその適応度にはほとんど影響がない
Nature 560, 7718
2018年8月16日    

真核生物の染色体の数は種によって大きく異なっている。だが、さまざまな種が染色体数の変動にどの程度耐えられるのかは分かっていない。今回、酵母染色体を連続的に融合させて数を減らしていく実験を2つの研究グループが別々に行い、J Boekeたちは染色体を2本にまで減らした酵母株を、Z Qinたちは染色体を1本にまでに減らした酵母株をそれぞれ作製した。改変された酵母細胞では適応度が一部の環境でわずかに低下し、有性生殖が最も大きく影響を受けた。だが、このような細胞は、巨大な染色体の三次元構造に大規模な再編成が起こっていたにもかかわらず、意外にも健常であった。

Article p.331
Letter p.392
News & Views p.317
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上記については、CRISPRと書いていますが、論文を読むと、これまでのただのCRISPRゲノム編集ではなく、CRISPR–Cas9ゲノム編集です。
 
CRISPR–Cas9ゲノム編集といえば、最近では「ゲノム編集で誕生で認めず」で過去に取り上げましたが、その編集法です。
 
ゲノム編集より、染色体を融合する論文です。
 
今回、ゲノム編集法を用いて、16本の酵母染色体を融合させ、染色体を1本あるいは2本しか持たない酵母株が作られた。意外なことに、こうした融合は細胞の健常性にほとんど影響を及ぼさなかった。
 
この論文はネイチャーのニュースにも取り上げられました。
 
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ゲノム編集:機能を備えた、染色体を1本だけ持つ酵母を作り出す
Nature 560, 7718 |  Published: 2018年8月16日 |

真核生物のゲノムは一般に複数の染色体で構成されている。今回我々は、機能を備えた、染色体を1本だけ持つ酵母を、16本の線状染色体を含む出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)一倍体細胞で染色体の末端同士の融合とセントロメアの削除を連続的に行うことにより作製した。16本の無傷状態の線状染色体を融合して1本の単一染色体にすると、セントロメアに関連する染色体間相互作用の全て、テロメアに関連する染色体間相互作用の大部分、それに染色体内相互作用の67.4%が失われ、そのため染色体の全体的な三次元構造に顕著な変化が生じる。しかし、染色体を1本だけ持つ酵母細胞と野生型酵母細胞は、ほぼ同一のトランスクリプトームと類似したフェノームプロフファイルを持っていた。この巨大な1本の染色体は細胞の生命を支えることができるが、これを含む酵母株はさまざまな環境での増殖が遅く、競争力、配偶子産生能や生存能力が低下している。この合成生物学的研究は、染色体の構造と機能に関して真核生物の進化を調べる手法の1つを実証したものだ。
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第1回 「フェノーム研究会」、6月29日開催:日経バイオテク

おまけ:生命と環境のフェノーム統合データベース

おまけ:⽣命と環境のフェノーム統合データベース

一例:植物の表現型 - シロイヌナズナフェノームデータベース

 

研究の内容はわかりましたが、んー。染色体の構造と機能に関して真核生物の進化を調べる手法の1つとはどうにも思えないです。わかったことは、出芽酵母では細胞の健全性にはほとんど影響はないが、増殖が遅く、競争力、配偶子さん性能や生存能力が低下しているんですね。

 

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ゲノム編集:染色体融合による核型の改変は酵母の生殖隔離を引き起こす
Nature 560, 7718 |  Published: 2018年8月16日 |

現存種では、比較的似たようなゲノムサイズを持つタクソン内(例えば昆虫)でさえ、染色体数が大きく異なっている。これは、テロメア間の融合やゲノム重複など、ゲノムに刻まれた過去の偶発的事象を反映していると考えられる。ヒトは23対の染色体を持つが、他の類人猿には24対あり、ヒト染色体の1本は祖先染色体の融合産物である。こういった事例から、生物種は、染色体数の変化を、ゲノムの内容を大きく変化させずにどの程度許容できるのかという疑問が浮かび上がる。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)では多くのツールが染色体改変に使われているが、CRISPR–Cas9ゲノム編集によって最も積極的な改変戦略が容易になる。今回我々は、CRISPR–Cas9を用いた酵母染色体の融合に成功し、16本から2本までの範囲で徐々に染色体数を減少させた、一連のほぼ同質遺伝子系統の酵母株を作製した。約6メガ塩基の染色体を2本持つ株では、トランスクリプトームに多少の変化が見られたが、大きな異常を示さず増殖した。我々は、16本の染色体を持つ株を、染色体数がより少ない株と交配させた際に、2つの傾向に気付いた。染色体数が16本より減少すると、胞子の生存率は顕著に低下し、染色体が12本の株では10%未満となった。染色体数がさらに減少すると、酵母の胞子形成は停止した。染色体が16本の株と8本の株とを交配させると、完全な四分子形成が大きく減少し、胞子形成が1%未満になり、そこから生存能力のある胞子は得られなかった。しかし、8本、4本あるいは2本の染色体を持つ株同士の間での同型交配では、優れた胞子形成が行われ、生存能力を有する胞子が産生された。これらの結果から、8つの染色体間の融合事象は生殖能を持つ酵母株を隔離するのに十分であることが示された。以上のことから、出芽酵母は、予想以上によく染色体数の減少を許容し、これによって、変化に対するゲノムのロバスト性の特筆すべき例がもたらされた。
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タクソン - タクソンの概要 - Weblio辞書

タクソン - Wikipedia

ロバスト性(ロバストせい)の意味 - goo国語辞書

 

出芽酵母は、生殖隔離を引き起こすが、染色体数の減少の許容があり、変化に対するゲノムのロバスト性があるわけですね。なるほど・・・。

 

溜まりに溜まった恒例のネイチャー。次回は、エレクトロニクスより、室温励起子デバイス、を取り上げます。

 

 

※多忙につき、相変わらずブログでの対応が遅れていますことを、心からお詫び申し上げます。
 

 

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