不眠症、あなたはどっちのタイプ? 治療法も別々 | Just One of Those Things

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日経新聞のメールに取り上げられたものを取り上げます。日経ナショジオより。

 

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不眠症、あなたはどっちのタイプ? 治療法も別々
日経ナショナル ジオグラフィック社
2018/5/29

 80種類以上ある睡眠障害の中で、患者が一番多いのが不眠症だ。日本では成人の6~10%が罹患(りかん)していて、その半数以上は病院で処方された睡眠薬を服用している。日本以外の先進国でも同様の調査結果が出ており、社会の高齢化とともに不眠症は徐々に増加傾向にある。つまり不眠症は糖尿病や高血圧などと同様に代表的な「ありふれた病気(common disease)」の一つだ。
 
■メカニズムで3種類に分かれる不眠症
 
 ありふれているだけに不眠症の社会的影響は大きい。短期的には眠気や疲労感によって生活の質が低下し、中長期的にはうつ病や生活習慣病、認知症など多くの病気のリスクを高める。医療経済学の分野でも不眠症は産業事故や生産性の低下、医療費増大など社会的コストを押し上げる要因の1つとして注目されている。
 
 最近、この不眠症を2つに分けようと提案している研究者たちがいる。それぞれ病気のたどる経過や結末(予後)も異なり、治療法も変えるべきだという。
 
 これは一体どういうことだろうか。
 
 不眠症とは文字通り夜中に眠れなくなる病気だが、人によってかなり症状の色合いが異なる。従来から、不眠症はそのメカニズムにより大きく3つのタイプに分けられていた。
 
 第1のタイプは「過覚醒型」である。夜中にいったん苦しい不眠を経験すると不安や緊張が高まり、眠気以上に目覚め感が強まって、寝つきが悪くなる(入眠困難)、夜間に目覚める(中途覚醒)などの不眠症状がどんどん重症化する例がこれに当たる。震災などの急激なストレス後の不眠も典型的な「過覚醒型」である。切り替えベタ、心配性で気に病む性格の人がかかりやすい。
 
 第2のタイプは「睡眠恒常性異常型」。疲労すると睡眠の必要性が高まることを睡眠恒常性と呼ぶが、その異常が生じる。典型例が高齢者の不眠症である。年齢とともに必要睡眠時間が短くなり70代にもなれば正味(脳波上は)6時間程度しか眠れなくなる。これ自体は自然な変化であって、異常ではない。ところがリタイヤ世代では寝床で横になる時間は逆に延びてしまう。例えば21時過ぎから朝まで9時間も寝床にいれば、中途覚醒や早い時刻に目覚めて二度寝ができない早朝覚醒が増えるのは避けられない。また、肉体的、精神的に不活発な生活を送ったり、昼寝が長すぎても睡眠恒常性の異常により不眠症状が出現する。結果、眠れないことに悩みや不安を抱くようになる。
 
 第3のタイプは「リズム障害型」。夜型傾向の人がかかりやすく、平均的な就床時刻では眠気が出ずに入眠困難が生じる。平日は出勤や登校のため睡眠不足のまま起床し、そのぶん休日には寝だめが目立つ。遅寝、遅起きが許される環境では睡眠時間は正常で不眠症状も出現しない。本来は概日リズム睡眠―覚醒障害(睡眠―覚醒リズム障害)と呼ばれる別の睡眠障害に分類されるのだが、しばしば不眠症と誤診されるため、あえて不眠(症)を引き起こす3大原因の1つとして取り上げられることが多い。
 
 さて、冒頭で紹介した「不眠症を2つに大別する」とは、第1のタイプと第2のタイプをしっかりと診分けて治療すべきではないかという主張である。
 
 なぜなら、同じ不眠症でもこの2つのタイプでは実際の睡眠時間が大きく異なるからだ。それゆえ症状や重症度もかなり違う。
 
 「過覚醒型」では一般的に病前に比較して睡眠時間は大幅に短くなる。睡眠の絶対量が減っているために心身への負担が大きく、倦怠(けんたい)感や集中力低下など日中の不調も強い。うつ病、生活習慣病、心筋梗塞、脳卒中などにかかるリスクが高いことも明らかになりつつある。
 
 一方、「睡眠恒常性異常型」では不眠症状はあるものの、睡眠時間は同年代の健康な人と比較しても実はさほど短くなっていない。「過覚醒型」に比較して軽症の人が多く、徐々に眠れなくなるなど発症も緩やかであることが多い。
 
■中高年は注意「恒常性異常型」
 
 この2つのタイプの不眠症では効果的な治療法も異なる。
 
 「過覚醒型」の治療は薬物療法が中心になる。睡眠時間の延長作用があり、心身の緊張状態を緩和する睡眠薬や抗うつ薬が効果を発揮することが多い。先にも述べたように、「過覚醒型」は重症例が多く、さまざまな合併症を招くことも少なくない。もし思い当たるフシがおありの方は、効果が定かでない快眠グッズなどに頼らず、かかりつけ医などに早めに相談することをお薦めしたい。
 
 「睡眠恒常性異常型」のケースでは寝床で必要以上に長く横になっていることで不眠症が悪化する。背景に睡眠習慣の拙さがあり、睡眠時間はさほど短くなっていないため、薬物療法だけでは効果が出にくい。このタイプには中高年が多く薬の副作用が出やすいため、安易に増量することも避けなくてはならない。したがって治療は睡眠習慣の改善から始めることが勧められている。ただし、「睡眠恒常性異常型」といえども対処を誤ると、寝床で眠れない体験を繰り返すうちに不眠恐怖症、寝室恐怖症が生じて「過覚醒型」に移行することもある。このあたりは、「『青木まりこ現象』からみた不眠を呼ぶ黒魔術の考察」で詳しく説明したので関心があればお目通しいただきたい。
 
 このように、現在の診断基準では「不眠症」と一括(ひとくく)りにされている患者さんの中にも、メカニズムや症状、治療法が異なるケースがあるということが分かってきている。もちろん、両タイプを合わせ持っている人もいるだろうし、先に述べた「リズム障害型」が混在しているケースもある。ただ、このような知識を持っていれば、不眠症をもう少し丁寧に診分けて効率的で安全な治療ができるようになる。不眠で悩んでいる方はご自分がどちらのタイプか考えてみては如何だろうか。
 
■三島和夫
 秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
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引き続き、「『青木まりこ現象』からみた不眠を呼ぶ黒魔術の考察」を次に取り上げます。

 

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『青木まりこ現象』からみた不眠を呼ぶ黒魔術の考察
日経ナショナル ジオグラフィック社
2015/9/8
 
 先日、ネットニュースをボーっと眺めていたら「青木まりこ現象」というワードが目に入った。何だコレ?
 
 科学界には固有名詞を冠する疾患や現象は多数あるので、当初は「青木まりこ現象」もその類いであろうと思った。生物とか物性などを専門とする青木まりこという教授がおられて、その分野では有名な現象を発見したのであろうと。それにしても「青木現象」ならまだしも、「青木まりこ現象」とはちと長いな……。
 
 気になってWikipediaで検索してみるとどうやら青木まりこさんは著名な学者さんなどではなく、その名を冠した現象も「ナゼか知らねど、書店に行くたびに便意を催す」、すなわち「ウン〇」がしたくなるという都市伝説だという。ガクッ。
 
■条件反射でつい催してしまう?
 
 バブル景気まっただ中の1985年、当時29歳の青木さんが『本の雑誌』(本の雑誌社)の読者欄にご自分の体験談として投稿したところ、当時の編集長であった椎名誠さんが面白がり、「いま書店界を震撼させる現象」と題打って特集まで組んだのが出自らしい。さすが「クソ話好き(編集者談)」の椎名さんである。
 
 私も美女のウン〇話……、いや、都市伝説と聞いては捨て置けず、ひとまずWikiを最後までじっくりと読んでみる。書店で便意をもよおすヒトを「書便派」と呼ぶそうだが、その後、週刊誌やテレビでも取り上げられたことから大いに注目を集めたとのこと。やはり下ネタ最強である。
 
 「病因論」についても議論百出で、便意を誘発させる何らかの匂い物質が紙に含まれているという「匂い刺激説」から始まり、便意を催させることでトイレットペーパーの消費量を増やそうとする「製紙業界の陰謀説」、公衆の面前で便失禁した幼児体験によるトラウマ説、心身症説、思い込み(?)説まで諸説紛々である。
 
 もっともらしいのが条件反射説。条件反射はパブロフの犬で有名なのでご存じの方も多いだろう。エサを見るとよだれが出るという反応は学習せずとも生まれつき持っている無条件反射、それに対して毎日エサを運んでくれる飼育員の足音を聞いただけでよだれが出てくるようになるのが学習による条件反射である。
 
 書便派の条件反射説とは、簡単に言えば「いつも家のトイレで本を読むから本屋でも出そうになる」のだと。『なるほどなぁー、そのようなケースもあるかもね』と思わず説得されそうになったが、私の頭の中には1つの疑念がわき上がったのだった。『ヘビーな本好きはそのようなステージで留まることはない!』と。
 
 私の自宅のトイレには芳香剤と並んで書籍が山積みであり、ブックラックまで持ち込んで家族にはイヤーな顔をされている。でもトイレで姿勢を正して読書をするのが楽しみなんだもん。しかし私は書便派ではない。いや、かつては書便派であったかもしれないが、今や「便便派」になり果ててしまったのだ。
 
 ちなみに、便便派とは「便所で便秘派」の略である(Wikipediaには載っていません)。便便派を医学的に表現すれば、「一時は読書で条件付けられた便所での排便反射を獲得したものの(←書便派はココ)、何らかの原因でその効果が減弱し、便所という空間で便が出ないままに読書を続けるという体験を繰り返すあまり、ついには便所に入ると便が引っ込むという新たな条件反射を獲得してしまった一群」かな。
 
 解説をしたいのだが、このままでは今回は「ウン〇」の話で終わってしまうので、排便を睡眠、便所を寝室、と読み替えてご説明したい。
 
■眠気を感じないのに寝室へで恐怖症に
 
 「一時は読書で条件付けられた寝室での睡眠反射(眠気)を獲得したものの、何らかの原因でその効果が減弱し、寝室という空間で眠気が出ないままに読書を続けるという体験を繰り返すあまり、ついには寝室に入ると眠気が飛んでしまうという新たな条件反射を獲得してしまった一群」、これはまさに不眠症の人々のことではないか!
 
 読書に限らず、音楽、テレビ、アロマなど寝つくまでに何気なく行っている習慣をお持ちの方も多いだろう。寝室での眠る前のちょっとした儀式。しかし、その儀式が不眠の悪魔を呼ぶ黒魔術と化したとしたら……。
 
 あるとき、ちょっとした人間関係の悩みで不眠気味になったとしよう。家族の心配、皮膚の痒みなど、きっかけは何でも良い。それまでは布団に入ってちょっと退屈な小説とか、学習本を読んでいるうちに知らぬ間に寝落ちしていたのに、悩み事ができてからなかなか眠気が来ない。先週は50ページ、今週は1章読んでもさっぱり眠れない。そのうち1晩に1冊読み通してしまうのではないか……。
 
 何カ月も不眠で悩むうちに、「どうせ今晩も眠れない」というあきらめの境地に至る。読書も何気ない習慣ではなくもはや苦行である。寝る時刻が近づくのが憂鬱だ。リビングのソファーでふと眠気を感じて寝室に向かっても、ベッドに横になると目が冴える。そのうちに、寝室に向かっただけで目が覚めるようになってきた。長~い御鈴廊下(おすずろうか)を通って大奥に行くわけじゃあるまいし、わずか数メートルの間に何が起こっているのか!?
 
 これは毎晩、寝室で悶々と苦しい思いをしているうちに、「寝室=眠れない苦しい場所」という記憶が定着し、寝室に入ると、いや寝室に向かう廊下に立っただけで眠気が飛んでしまうという新たな条件反射を獲得してしまったのである。逆に寝るつもりのないソファーや電車の中ではすぐにウトウトできる。不眠症は不眠恐怖症、ひいては寝室恐怖症(寝室不眠)と呼ばれるゆえんである。
 
■原因が解決しても不眠は解消できない
 
 不眠症のきっかけは患者によってさまざまだが、いったん慢性不眠に陥ると出だしの原因は関係なくなるのである。たとえ原因が解決しても寝室不眠の条件付けが完成しているため、不眠症が1人歩きを始めてしまうのだ。
 
 最近、睡眠薬を使わない不眠症の治療法として認知行動療法が注目されている。認知行動療法の目的は慢性不眠症に悩む人々が陥りやすい誤った就床習慣を正すことにある。「眠気がしっかり出てから就床する」「眠れないときは寝室から出る」ことを徹底し、「寝床で悶々として過ごす時間をできるだけ減らす」ことで寝室不眠の条件付けを解除する。自宅で実践するための指南書も何冊か出ている。ご興味のある方は拙著をご一読いただきたい。
 
 ここで「青木まりこ現象」に戻ろう。
 
 書便派は排便のたびに読書をすることで「読書→ 排便」という条件付けを獲得した人々ではないかと私なりに推察した次第である。この段階であれば「青木まりこ現象」は起こりえる。
 
 しかし、何らかの原因で書便派が便秘に陥ると、長時間にわたり便座に座って読書を続けることになる。その結果、「読書や便所という空間」が「便秘で苦しむ」という現象に条件付けられてしまう可能性がある。便便派の誕生である。
 
 便便派は新宿駅で便意を感じても、近くの書店のトイレに(いや、ついにはコンビニの雑誌コーナー脇のトイレですら)飛び込んだが最後、ようやく直腸近くまで辿り着いた「ウン〇」が一気に引っ込んでしまうという悲劇に遭遇する可能性が高い。そして、諦めて立川方面行きの中央線に乗った直後に、「書店でも便所でもない場所」に身を置いたことから条件付けが解除され、猛烈な便意が再燃するがそこにはトイレはなく、しかも特別快速であったためにしばらく先の駅まで止まらないというWの悲劇に遭遇するのであった。ウーン。
 
 とにかく、トイレと寝室ではやるべきこと以外はやるべきではない、という教訓を思い出させてくれた「青木まりこ現象」であった。
 
■三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
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まぁ、「だって~なんだもん」で、砕けた内容でしたが、楽しんでいただけましたでしょうか。

 

眠れずに悩まれている方は、三島さんの著書を一度読んでみられるとよいかもしれません。

 

次は、恒例のネイチャーを定時に取り上げます。

 

 

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