超分子化学: 柔軟な自己修復結晶 | Just One of Those Things

Just One of Those Things

Let's call the whole thing off

昨日に引き続き、18号目のネイチャーのハイライトより。

 

----------------------------------------------------------
超分子化学: 柔軟な自己修復結晶
Nature 557, 7703
2018年5月3日 


結晶材料を柔軟にするには、原子成分や分子成分の相互作用の程度についてトレードオフが求められる。つまり、一般的に相互作用を増やすと結晶性が維持されるが、相互作用を減らすと柔軟になる。そのため、結晶の柔軟性(すなわち結晶格子の膨張性)の程度が制限されることになる。今回A Tezcanたちは、フェリチンタンパク質結晶の多孔性を利用して、フェリチン結晶内にポリマーネットワークを注入した。このタンパク質とポリマーの複合材料は、水を加えると、周期性を維持しつつ等方的に膨張してサイズが約2倍になる。この膨張は可逆的であり、塩を加えると収縮する。この複合材料は、フェリチン格子とポリマーネットワークの間の非共有結合性相互作用によって、それぞれの単独成分よりも丈夫になるとともに、傷つけると自己修復挙動を示す。この新たなクラスの複合材料は、フェリチン結晶の構造秩序とポリマーヒドロゲルの化学的な調整能を併せ持っている。


Letter p.86
News & Views p.38
----------------------------------------------------------

 

超分子化学より、タンパク質とゲルの完璧な融合についての論文です。

 

今回、吸水性のゲルがタンパク質結晶の隙間に組み込まれ、注目すべき自己修復材料が生み出されました。膨張と収縮を数回繰り返した後でも分子秩序が回復するというものです。

 

----------------------------------------------------------
超分子化学:ポリマーネットワークを融合した超膨張性自己修復巨大分子結晶

Nature 557, 7703 |  Published:  2018年5月3日  |


凝縮物質の形成には、構造秩序と柔軟性の間のトレードオフが伴うことが多い。原子成分間や分子成分間の相互作用の程度と方向性が大きくなると、一般的に、物質の秩序は増すが柔軟性が低くなり、その逆も同様である。だが、高度な構造秩序と柔軟性は、必ずしも相いれないものではない。生物学的集合体(微小管、鞭毛、ウイルスなど)や合成集合体(動的な分子結晶や骨格など)には、結晶秩序を失うことなく大きく構造を変えられるものや、選択収着、分離、センシング、メカノアクチュエーションなどのさまざまな用途に有用な優れた機械的特性を示すものが多い。しかし、そうした柔軟性結晶の構造変化の程度や弾性は、格子の構成成分間で連続的な結合相互作用ネットワークを維持する必要があるため制限される。その結果、最も動的な多孔性材料であっても、砕けやすく、微粉末としてバラバラな状態になる傾向があり、一方で有機または無機の柔軟性分子結晶は破断せずに膨張することができない。また、結晶性材料は剛性が高いため、自己修復挙動を示すことはほとんどない。今回我々は、ヒドロゲルポリマーと融合したフェリチン巨大分子結晶が、周期的秩序とウルフ(Wulff)のファセット形態を維持しながら元の寸法の180%まで、また元の体積の500%以上、等方的に膨張することを報告する。格子膨張時に隣り合うフェリチン分子が50 Å離れた後でも、格子収縮時に特異的な分子接触が再形成され、これが原子レベルの周期性の回復と、これまで報告された中で最高分解能のフェリチン構造につながる。ヒドロゲルネットワークとフェリチン分子の間の動的結合相互作用は、結晶に、破壊に耐えて効率よく自己修復する能力をもたらす。一方で、フェリチン分子は化学的に調整可能なので、単一結晶内に化学的・力学的に異なるドメインを形成できる。

----------------------------------------------------------

 

この論文は、ネイチャーのニュースにも取り上げられました。

 

超分子化学で試みると、結晶に、破壊に耐えて効率よく自己修復する能力をもたらす、一方で、フェリチン分子は化学的に調整可能なので、単一結晶内に化学的・力学的に異なるドメインを形成できるのですね。興味深い・・・。というか、分子より小さくなるのね。先々、原子なんちゃらといった、更に、小さい小さい研究を土台とした科学になったりして(笑)。精神が"老眼"にならないように努めるだけでなく、頭の脳みそが"老眼"にならないようにせねばw

 

他にも応用できそうですが、今回の新材料が何に使われるかは、今のところ、思いつきません(苦笑)。思いつくといえば、『アベンジャーズ』のリーダーぐらいです(笑)。

 

念のため・・・。

フェリチン - Wikipedia

ゲル - Wikipedia

 

因みに、ヒドロゲルには「化学刺激応答超分子ヒドロゲル」や、細胞を育てる「DNAヒドロゲル」や「超分子ヒドロゲル」や、光を当てるだけで何でも加工できるヒドロゲルなど、様々なヒドロゲルがあります。

 

さて、明日は、微生物学より、ミトコンドリアに関するものを取り上げます。

 

 

ペタしてね