武田が買収めざすシャイアー、「希少疾患」薬の価値は | Just One of Those Things

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武田薬品工業は現在、「希少疾患」の治療薬や新薬候補を狙って、シャイアーの買収を目指しています。

 

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武田が買収めざすシャイアー、「希少疾患」薬の価値は 
科学記者の目 編集委員 安藤淳
コラム(テクノロジー) 科学&新技術
2018/5/1 6:30日本経済新聞 電子版


 武田薬品工業が買収しようとするアイルランドの製薬大手シャイアー。狙うのはシャイアーが持つ「希少疾患」の治療薬や新薬候補だという。希少、つまり「珍しい」病気の薬のどこに魅力があるのか。理由を探ると劇的に変革しつつある創薬の手法と、激しさを増す国際競争を勝ち抜く条件が見えてくる。

 

 希少疾患とは文字通り患者数が極めて限られ、場合によっては国内に数人しかいないような珍しい病気だ。日本では、一部は難病指定を受けている病気とも重なる。さらに、まだ病名さえなく診断がつかない「未診断疾患」も希少疾患である場合が多い。薬がなく患者が取り残されてしまうのを防ぐため国が開発を奨励しており、比較的承認が得やすく高い価格付けが認められる利点はあるが、なにぶんにも患者数が少ない。従来は製薬会社からあまり見向きもされず、どちらかといえば避けられてきた。

 

■きっかけはゲノム研究の進展

 

 それが脚光を浴びるようになったきっかけは、ゲノム(全遺伝情報)研究の急速な進展だ。遺伝情報のわずかな違いや異常な配列と希少疾患との関係が少しずつではあるが解明され、新薬に結びつくようになってきた。米スパーク・セラピューティクスが、失明を招く網膜の希少疾患の治療用に開発し、注射式の遺伝子治療薬として昨年、米国で初めて承認されて話題を呼んだ新薬は典型例だ。副作用報告などのため、しばらく下火となっていた遺伝子治療のブーム再来へ期待が高まった。

 

 シャイアーが得意とする血液や免疫系の希少疾患も、注目度が高い。血液の病気は、血液が固まりにくくなる血友病から悪性の貧血、がんまで、多くのタイプがある。また、最近の研究で免疫系の異常は炎症のほか、がん、認知症を含む神経系疾患など、実に多様な病気にかかわることが明らかになってきた。同社が強みをもち、日本でも近年、成人患者の増加が指摘されている注意欠陥・多動性障害(ADHD)も、遺伝情報に基づく研究が世界で急ピッチで進んでいる。

 

 ひとたび開発手法を確立すれば、次々に関連疾患の新薬を出せる可能性がある。一つ一つの病気の患者数は少ないが、希少疾患は全部で7000種類もあるとされる。有力な薬を効率よくいくつも開発できれば、かなりの規模になりうる。

 

 ゲノムに基づく創薬で欠かせないのは良質で豊富なデータだ。ところが希少疾患は患者が少ないので、データが通常の病気に比べはるかに少ないという大問題がある。これを乗り切るための新しい取り組みが、欧米を中心に大きなうねりとなって動き出している。世界各国が共通の仕様で遺伝情報や症状に関するデータを集め、個人情報保護に配慮しながらも相互に交換する大規模なネットワークづくりだ。

 

■開発コスト3分の1も

 

 「希少疾患の診断が大きく改善する」。英国ケンブリッジに拠点を置く欧州バイオインフォマティクス研究所のイワン・バーニー所長は力説する。71カ国の約500社・機関が参加するデータシェアリングの組織の代表を務め、希少疾患やがんで試験的に遺伝情報の相互利用を始めている。希少疾患の原因となる遺伝子変異を突き止めて診断をつけられる確率を、従来の数%から20~30%に高めつつ、コストを3分の1に抑えられる可能性があるという。

 

 こうしたツールが自由に使えれば、希少疾患の新薬開発コストは大きく引き下げられる。医療機関や研究機関の連携により、患者数が少な過ぎて不可能とみられていた臨床試験も実施しやすくなり、開発期間の短縮が見込める。米欧の製薬大手はゲノムのデータ収集・解析で日本に先行しており、自社のデータベースも豊富だ。シャイアーのように希少疾患の研究に秀でた企業の買収は、貴重な遺伝情報や臨床データ、それらを関連づけて効果的な薬を探し出す手法、他機関との連携などのノウハウをまとめて獲得する早道になる。

 

 患者のゲノムを解析し、病気の原因とみられる遺伝子変異などの候補を明らかにする。類似の症例と比較し、真の原因を特定する。そして、変異を治したり、正常な働きをする遺伝子を導入したりして治療する。さらに、武田が力を入れる再生医療や、ゲノム編集の技術も組み合わせれば、これまでにない画期的な新薬の開発を加速できるとみられる。

 

 こうした創薬の新しい流れは、実は希少疾患にとどまらない。多くの病気では、患者によって症状の出方や悪化の有無、薬の効き具合や最適な投与量などが異なる。患者のもつ遺伝子変異によっては、特効薬のはずが重篤な副作用を引き起こすことさえある。「ブロックバスター」と呼ばれる数千億円を稼ぎ出すような従来の大型新薬は、患者ごとの微妙な違いを半ば無視して、同じように治療する考え方によって成り立っていた。しかし、今後は個人個人の特性に応じた「精密医療」が本格化する。

 

 希少疾患薬の開発は、そうした新時代への入り口であり、ここで積んだ経験は幅広い薬の開発に生きる。「希少疾患を制する者は将来の創薬を制する」とまでいわれるようになってきた。だからこそ、製薬大手や各国政府・機関がデータシェアリングの主導権確保や国境を越えた連携に動く。

 

 もちろん、すべてが理想通りにいくとは限らない。個人情報保護規制が立ちはだかったり、思わぬ副作用で開発が中断したりといったつまずきは避けられないだろう。データの精度向上や加工のために、当初はコストも膨らむかもしれない。医療費の膨張は日米欧などの共通の悩みとなっており、今後は希少疾患薬を含め価格の引き下げ圧力が強まるとみられる。

 

 こうしたなかで、10年~20年単位で長期的に開発に挑み続ける戦略と体力のある企業のみが、ゲノムのデータ解析と先端技術に基づいた新薬開発の果実を手にできる。武田にそれが可能か。シャイアーの買収が成功しても、その先にはいくつものハードルが控えている。

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日経新聞なので、経済よりの見方で詳しく説明されていますが、現在の製薬会社が抱えているものやその背景がわかるかと思います。また、希少疾患を抱えている人にとっては、重要な情報です。

 

希少疾患を抱えている人々も、恩恵を受けられるよう、切に祈っています。

 

さて、次は恒例のネイチャーを定時に取り上げます。

 

 

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