2012-09-09 07:22:00
ループ(小説)
テーマ:BOOK & MAGAZINE「リング」シリーズ その6
見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオ」に翻弄される主人公たちを描いた、鈴木光司によるホラー小説『リング』『らせん』の続編。その後、『エス』、外伝作品『バースデイ』が刊行。
【STORY】
近い未来。10歳の少年・二見馨(かおる)は、科学者で大学教授の父・秀幸と事あるごとに自然科学の話題について語り合っている。あるとき馨は、地球上の重力異常の地に住む者に長寿が多いことに気づき、父と議論を交わす。そして、その地のひとつであるアメリカ・メキシコ州の長寿村に家族旅行に行くことを約束する。しかしその後、父・秀幸は当時流行していた「移転性ヒトガンウイルス」に犯され、余命幾ばくもない状態で入院する。医学生となった馨は、父の入院先でシングルマザーの杉浦礼子と恋仲になり、礼子は馨の子どもを身籠もる。しかし礼子もまた「移転性ヒトガンウイルス」のキャリアだった。馨は長寿村に行った者がヒトガンウイルスを克服した話を聞き、父、礼子、礼子のお腹の中の子どもを救うため、アメリカに旅立つ…。
【REVIEW】
夏休み企画としてリングシリーズを開始したわけだが、不本意というか、思った通りというか夏休み中に終わらせることができなかったが、「夏休み企画」という冠を外して続けたいと思う。
さて、『リング』『らせん』に続く3作目の『ループ』であるが、上記のあらすじの通りどこが続編なのかと思わせるような始まりである。
リング人気にあやかって、さまざまなかたちで映像化されてきたリングシリーズであるが、この作品はとある理由によって映像化は難しいとされる。決して無理ではないのだが、小説ならではの工夫、ある意味出オチ的な工夫が生かされないので、おもしろさ半減となってしまう。
そのからくりについては後ほど紹介するが、今更ではあるが『ループ』をこれから読もうとする人は注意してほしい。
主人公は科学少年の馨(かおる)。父は人工生命開発プロジェクトの研究員を務めた後、大学教授となった秀幸。父の影響からか、馨は幼い頃から自然科学に興味を持ち、父と熱い議論を交わす日々を送る。
あるとき馨は、地球上の重力異常の地に住む者に長寿が多いことに気づき、父と議論を交わす。そして、アメリカ・ニューメキシコ州の長寿村のひとつフォーコーナーズに家族で訪れる約束をするのである。ちなみに、フォーコーナーズはナバホ族の居住地の近くにあるらしい。
馨は20歳となり、大学の医学部に在籍していた。そして父は、この時代に猛威をふるっていた「移転性ヒトガンウイルス」に感染し、馨が通う大学の付属病院に入院していた。家族旅行の話はキャンセル。
「移転性ヒトガンウイルス」。ガンウイルスによって生じたガン細胞は宿主である人間が死なない限り生き続ける不死細胞で、増殖・転移を繰り返す不治の病である。
ここで『リング』『らせん』を読んできた方は「リングウイルス、キターーッ!」と思うに違いないが、この段階では症状が違うようである。一体このウイルスは何なのか?
いい年になった馨は、ガンで入院する息子を見舞いに来ていたシングルマザーの杉浦礼子知り合い、恋仲に。ついには一線を越え、礼子は馨の子どもを身籠もる。
母親の礼子も、発病はしていないがガンウイルスのキャリアであった。そして生まれてくる子どもも、当然ガンウイルスのキャリアとして生まれてくる。
父親、最愛の人、生まれてくる子ども。馨の愛する者がことごとくガンウイルスの脅威に犯される事態に。
馨は、母親からガンウイルスを克服した人物の話を聞く。末期のガン患者であったその人物は、アメリカのとある場所で2週間ほど過ごして帰ってくるとガン細胞が無くなっていたとのこと。さらにその人物の細胞の分裂回数を調べてみると、同年齢の数より圧倒的に多いことが分かった。細胞の活性化。つまり、その人物はガンを克服しただけでなく、長寿も得たのである。同じく母親から渡された北米インディアンの民間伝承に同じような話が記載されており、その場所がアメリカ・ニューメキシコ州にあると判断した馨は、愛する人々を助けるためにアメリカへと赴くのである。
馨の父・秀幸は、大学教授となる前に人工生命開発プロジェクトの研究員を務めていた。その研究は、日米の巨大研究プロジェクトで「ループ」と呼ばれていた。「ループ」は、コンピュータの仮想空間に生命を誕生させ、地球生命の進化を模した独自の生物界を作り上げるシミュレーション装置である。つまりもうひとつの地球をつくること。わかりやすい例を挙げると、ドラえもんの大長編『のび太の創世日記』に出てくる、もうひとつの太陽系を自らの手で創造できるひみつ道具「創世セット」のようなものである。キリッ。
馨は父親と同じくプロジェクトに参加していた人物に話を聞く。
どうやらループプロジェクトは最後には「ガン化」し、凍結されたようだ。「ガン化」というのは、すべてのパターンが特定のパターンだけに吸収され、多様性を欠いて停止してしまうことらしい。そして「ガン化」した原因。それは「リングウイルス」によるものらしい。
つまり、地球そっくりの世界で「リングウイルス」が蔓延して世界は淘汰されたのである。どっかで聞いた話・・・。
さらには、「リングウイルス」の発生には、タカヤマ、アサカワ、ヤマムラの3つの人工生命が重要な役割を果たしていたという。 ん?
ループプロジェクトに参加していた研究者は、馨の父を含めてほとんどが移転性ヒトガンウイルスに犯されていた。馨が話を聞いた人物の情報によると、元研究者で生きている人物は自分の他に一人。その人物は10年前にアメリカ・ニューメキシコ州・ロスアラモスの研究施設に移ったとのこと。
アメリカ・ニューメキシコ州。またしてもこの地名。この地に移転性ヒトガンウイルスの謎を解く鍵がありそうだ。そして移転性ヒトガンウイルスは、ループプロジェクトとも密接に関わっていいるようである。
アメリカへ到着した馨。父親のバイクで砂漠の中を滑走する馨。そして目的地付近の集落にたどり着く馨。そこには人っ子一人いない。そこでループプロジェクトに参加していた研究者の死体を発見する馨。かなり前に息を引き取っていたようである。
だがしかし彼の研究施設はソーラーエネルギーで稼働していたようで、馨はそこでループの中の世界を垣間見ることができた。
その世界とは『リング』『ループ』の世界であった。
呪いのビデオテープに始まり、浅川と高山がビデオの謎を解く一連の行動。謎を解いたかに見えたが、高山と浅川の妻と子どもの死。高山の遺体を解剖する安藤。呪いのビデオテープを見るとウイルスに感染されてしまう事実。浅川の手記からもそのウイルスに感染してしまうこと。高野舞の身体を利用して復活した山村貞子。息子の復活と引き替えに死んだ高山を復活させる安藤。そして貞子の復活によってリングウイルスに淘汰される世界・・・。
そうなのである。
みなさんおなじみの『リング』『らせん』は、人間が人工的に創り出した仮想空間「ループ」の中のお話だったのである。
3作目にして、これまでの2作を根本からひっくり返すどえらい展開。
『リング』『らせん』の世界を見せられた馨は、「ループ」がガン化した理由を理解。そして我々読者は、忘れかけていた『リング』『らせん』のストーリーをおさらいできたという親切な構成。
さらに、馨がこのループを見たことにより、高山が『リング』で死ぬシーンに恐るべき事実が隠されていたことが明らかとなる。
死ぬ直前に高野舞にかけた電話を早々に切り上げた高山。突然例のビデオを再生する。サイコロが振られるシーン。何度も振られるサイコロを見て、高山は悲鳴を上げる。なぜならサイコロの出た目は13桁の数字を繰り返していたことに気づいたからである。
ここで高山は気づく。この世界は何かに操られている。呪いのビデオなど現実的に存在し得ないこと。ちょうど1週間で人を殺すことなど、外部からの働きかけが無いと実現できないこと。
高山はサイコロの出た目の通り電話の番号ボタンを押す。すると、なんとびっくり「ループ」を見ていた馨の受信装置が着信を知らせる。仮想空間である「ループ」の中の人物が、それを創造した現実空間に連絡をしてきたのである。
そして高山は受話器を通して「おれをそちらの世界に連れていってくれ」と訴える。高山△。
このループの中のワンシーンは、過去の出来事を再生したシーン。当然以前にも高山からの連絡を受けた研究者等が何人もいたはずである。馨は、このシーンを見た人物の一人が高山の願いを聞き入れ、現実世界へ再生させたのではないかと踏む。
そしてそのことがきっかけで「ループ」の「リングウイルス」が現実世界にもたらされ、「移転性ヒトガンウイルス」となったのではないかと確信する。
「リングウイルス」と「移転性ヒトガンウイルス」。症状は違うようだが、その爆発的な広がり方と治療できない絶望的な状況は酷似している。そして「移転性ヒトガンウイルス」が蔓延していること自体が、現実世界に高山が復活した証拠でもある。
一体誰が高山を現実世界で復活させたのか? 高山は現実世界のどこで何をしているのか?
なおも同地をさまよい続ける馨。そんな馨の前に、ループプロジェクトの最高責任者であったクリストフ・エリオット登場! まだ関係者いたんだ。
倒れていたところをエリオットの研究移設に保護される馨。ここで馨はエリオットから驚きの事実を告げられる。
どうやら高山をこちらの世界で再生させたのはエリオットらしい。この時代の科学力を持ってすればそんなに難しいことではないようだ。移転性ヒトガンウイルスがそこから発生してしまったのも事実らしい。だがしかし問題はここではない。馨は、では移転性ヒトガンウイルスの鍵を握るのは高山か?とエリオットに問う。エリオットは不思議そうに馨に、「ループ」で高山を見なかったのか?と問う。馨は「ループ」の設定で、高山の主観的な視点を通して仮想世界を見ていた。事態を理解したエリオットは、馨に「ループ」の中の高山を見せる。
そこに映し出された高山の風貌は、馨に酷似していたのである。
そう。現実世界で再生された高山は、馨その人であった!
これが『ループ』が映像化できない原因である。仮に映像化され、始まった瞬間、主人公の馨の姿が真田広之だったとしたら・・・。誰もが「高山だ!」と思ってしまうからである。また、別の俳優を最後に高山でした!といってもポカーンとなるだけである。
エリオットは高山=馨が移転性ヒトガンウイルスを倒すヒントであるとして馨に協力を求める。その方法とは、同施設にあるニュートリノ・スキャニング・キャプチャー・システムによって馨の全身をデジタル化し、移転性ヒトガンウイルスの治療方法を解明するということである。だが、この装置にかけられるとデジタル化されることにより馨の実体はなくなってしまうようである。
命と引き替えに移転性ヒトガンウイルスに犯された人々を救うことに決めた馨。肉体消滅。
またデジタル化されたデータにより、馨は「ループ」の世界に組み込むことが可能となった。高山とは逆に現実世界から「ループ」の世界へ行くことになった馨。
ここで高山=馨の貞子から復活した『らせん』のラストにつながるのである。馨=高山は、砂浜で安藤にワクチンを渡し、「ループ」世界の「リングウイルス」収束に寄与する。
さらに馨=高山は、装置にかけられる前にエリオットとある約束をしていた。それは礼子に「ループ」の世界にいる馨を見せることである。
「ループ」世界から現実世界の状況を知ることができない馨=高山は、約束の時間、約束の場所へ。そして礼子が見ているであろう大空に向かって「大丈夫だ」とつぶやくのである。おしまい。
『リング』『らせん』での世界が、人間が創り出した仮想空間だったという大胆な飛躍は非常に興味深い。さらに、我々が住んでいる世界も、実は何らかの外部の介入によって生み出された世界ではないかと思わせるところがおもしろい。生物の誕生、そして猿から人類への進化など、今もなお非常にミステリアスな部分である。
問題は「ループ」の中の「リングウイルス」が、誰の手によってどのように仕込まれたのかが不明な点である。作中でもエリオットは「わからない」と話している。これは、コントロールできる仮想空間であってもなお「貞子の呪い」であった可能性を残しているような気がする。過去の作品を完全に否定できない作者の想いが感じられる。
この『ループ』単体でも楽しめる作品であるが、やはり『リング』『らせん』の徐々に飛躍していく、とんでも展開を楽しんでほしい3部作である。
●関連作品・記事
『リング』(映画)
『リング』(小説)
『らせん』(映画)
『らせん』(小説)
『リング2』
【MARKING】
おすすめ度:★★★★★★★7
えげつない度:★★★3
馨は最初女の子かと思った度:★★★★★★★7
禍々しい度:★★★★★★★★8
【INFORMATION】
・発行年:1998年
・出版社:角川書店
・著者:鈴木光司
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見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオ」に翻弄される主人公たちを描いた、鈴木光司によるホラー小説『リング』『らせん』の続編。その後、『エス』、外伝作品『バースデイ』が刊行。
【STORY】
近い未来。10歳の少年・二見馨(かおる)は、科学者で大学教授の父・秀幸と事あるごとに自然科学の話題について語り合っている。あるとき馨は、地球上の重力異常の地に住む者に長寿が多いことに気づき、父と議論を交わす。そして、その地のひとつであるアメリカ・メキシコ州の長寿村に家族旅行に行くことを約束する。しかしその後、父・秀幸は当時流行していた「移転性ヒトガンウイルス」に犯され、余命幾ばくもない状態で入院する。医学生となった馨は、父の入院先でシングルマザーの杉浦礼子と恋仲になり、礼子は馨の子どもを身籠もる。しかし礼子もまた「移転性ヒトガンウイルス」のキャリアだった。馨は長寿村に行った者がヒトガンウイルスを克服した話を聞き、父、礼子、礼子のお腹の中の子どもを救うため、アメリカに旅立つ…。
【REVIEW】
夏休み企画としてリングシリーズを開始したわけだが、不本意というか、思った通りというか夏休み中に終わらせることができなかったが、「夏休み企画」という冠を外して続けたいと思う。
さて、『リング』『らせん』に続く3作目の『ループ』であるが、上記のあらすじの通りどこが続編なのかと思わせるような始まりである。
リング人気にあやかって、さまざまなかたちで映像化されてきたリングシリーズであるが、この作品はとある理由によって映像化は難しいとされる。決して無理ではないのだが、小説ならではの工夫、ある意味出オチ的な工夫が生かされないので、おもしろさ半減となってしまう。
そのからくりについては後ほど紹介するが、今更ではあるが『ループ』をこれから読もうとする人は注意してほしい。
主人公は科学少年の馨(かおる)。父は人工生命開発プロジェクトの研究員を務めた後、大学教授となった秀幸。父の影響からか、馨は幼い頃から自然科学に興味を持ち、父と熱い議論を交わす日々を送る。
あるとき馨は、地球上の重力異常の地に住む者に長寿が多いことに気づき、父と議論を交わす。そして、アメリカ・ニューメキシコ州の長寿村のひとつフォーコーナーズに家族で訪れる約束をするのである。ちなみに、フォーコーナーズはナバホ族の居住地の近くにあるらしい。
馨は20歳となり、大学の医学部に在籍していた。そして父は、この時代に猛威をふるっていた「移転性ヒトガンウイルス」に感染し、馨が通う大学の付属病院に入院していた。家族旅行の話はキャンセル。
「移転性ヒトガンウイルス」。ガンウイルスによって生じたガン細胞は宿主である人間が死なない限り生き続ける不死細胞で、増殖・転移を繰り返す不治の病である。
ここで『リング』『らせん』を読んできた方は「リングウイルス、キターーッ!」と思うに違いないが、この段階では症状が違うようである。一体このウイルスは何なのか?
いい年になった馨は、ガンで入院する息子を見舞いに来ていたシングルマザーの杉浦礼子知り合い、恋仲に。ついには一線を越え、礼子は馨の子どもを身籠もる。
母親の礼子も、発病はしていないがガンウイルスのキャリアであった。そして生まれてくる子どもも、当然ガンウイルスのキャリアとして生まれてくる。
父親、最愛の人、生まれてくる子ども。馨の愛する者がことごとくガンウイルスの脅威に犯される事態に。
馨は、母親からガンウイルスを克服した人物の話を聞く。末期のガン患者であったその人物は、アメリカのとある場所で2週間ほど過ごして帰ってくるとガン細胞が無くなっていたとのこと。さらにその人物の細胞の分裂回数を調べてみると、同年齢の数より圧倒的に多いことが分かった。細胞の活性化。つまり、その人物はガンを克服しただけでなく、長寿も得たのである。同じく母親から渡された北米インディアンの民間伝承に同じような話が記載されており、その場所がアメリカ・ニューメキシコ州にあると判断した馨は、愛する人々を助けるためにアメリカへと赴くのである。
馨の父・秀幸は、大学教授となる前に人工生命開発プロジェクトの研究員を務めていた。その研究は、日米の巨大研究プロジェクトで「ループ」と呼ばれていた。「ループ」は、コンピュータの仮想空間に生命を誕生させ、地球生命の進化を模した独自の生物界を作り上げるシミュレーション装置である。つまりもうひとつの地球をつくること。わかりやすい例を挙げると、ドラえもんの大長編『のび太の創世日記』に出てくる、もうひとつの太陽系を自らの手で創造できるひみつ道具「創世セット」のようなものである。キリッ。
馨は父親と同じくプロジェクトに参加していた人物に話を聞く。
どうやらループプロジェクトは最後には「ガン化」し、凍結されたようだ。「ガン化」というのは、すべてのパターンが特定のパターンだけに吸収され、多様性を欠いて停止してしまうことらしい。そして「ガン化」した原因。それは「リングウイルス」によるものらしい。
つまり、地球そっくりの世界で「リングウイルス」が蔓延して世界は淘汰されたのである。どっかで聞いた話・・・。
さらには、「リングウイルス」の発生には、タカヤマ、アサカワ、ヤマムラの3つの人工生命が重要な役割を果たしていたという。 ん?
ループプロジェクトに参加していた研究者は、馨の父を含めてほとんどが移転性ヒトガンウイルスに犯されていた。馨が話を聞いた人物の情報によると、元研究者で生きている人物は自分の他に一人。その人物は10年前にアメリカ・ニューメキシコ州・ロスアラモスの研究施設に移ったとのこと。
アメリカ・ニューメキシコ州。またしてもこの地名。この地に移転性ヒトガンウイルスの謎を解く鍵がありそうだ。そして移転性ヒトガンウイルスは、ループプロジェクトとも密接に関わっていいるようである。
アメリカへ到着した馨。父親のバイクで砂漠の中を滑走する馨。そして目的地付近の集落にたどり着く馨。そこには人っ子一人いない。そこでループプロジェクトに参加していた研究者の死体を発見する馨。かなり前に息を引き取っていたようである。
だがしかし彼の研究施設はソーラーエネルギーで稼働していたようで、馨はそこでループの中の世界を垣間見ることができた。
その世界とは『リング』『ループ』の世界であった。
呪いのビデオテープに始まり、浅川と高山がビデオの謎を解く一連の行動。謎を解いたかに見えたが、高山と浅川の妻と子どもの死。高山の遺体を解剖する安藤。呪いのビデオテープを見るとウイルスに感染されてしまう事実。浅川の手記からもそのウイルスに感染してしまうこと。高野舞の身体を利用して復活した山村貞子。息子の復活と引き替えに死んだ高山を復活させる安藤。そして貞子の復活によってリングウイルスに淘汰される世界・・・。
そうなのである。
みなさんおなじみの『リング』『らせん』は、人間が人工的に創り出した仮想空間「ループ」の中のお話だったのである。
3作目にして、これまでの2作を根本からひっくり返すどえらい展開。
『リング』『らせん』の世界を見せられた馨は、「ループ」がガン化した理由を理解。そして我々読者は、忘れかけていた『リング』『らせん』のストーリーをおさらいできたという親切な構成。
さらに、馨がこのループを見たことにより、高山が『リング』で死ぬシーンに恐るべき事実が隠されていたことが明らかとなる。
死ぬ直前に高野舞にかけた電話を早々に切り上げた高山。突然例のビデオを再生する。サイコロが振られるシーン。何度も振られるサイコロを見て、高山は悲鳴を上げる。なぜならサイコロの出た目は13桁の数字を繰り返していたことに気づいたからである。
ここで高山は気づく。この世界は何かに操られている。呪いのビデオなど現実的に存在し得ないこと。ちょうど1週間で人を殺すことなど、外部からの働きかけが無いと実現できないこと。
高山はサイコロの出た目の通り電話の番号ボタンを押す。すると、なんとびっくり「ループ」を見ていた馨の受信装置が着信を知らせる。仮想空間である「ループ」の中の人物が、それを創造した現実空間に連絡をしてきたのである。
そして高山は受話器を通して「おれをそちらの世界に連れていってくれ」と訴える。高山△。
このループの中のワンシーンは、過去の出来事を再生したシーン。当然以前にも高山からの連絡を受けた研究者等が何人もいたはずである。馨は、このシーンを見た人物の一人が高山の願いを聞き入れ、現実世界へ再生させたのではないかと踏む。
そしてそのことがきっかけで「ループ」の「リングウイルス」が現実世界にもたらされ、「移転性ヒトガンウイルス」となったのではないかと確信する。
「リングウイルス」と「移転性ヒトガンウイルス」。症状は違うようだが、その爆発的な広がり方と治療できない絶望的な状況は酷似している。そして「移転性ヒトガンウイルス」が蔓延していること自体が、現実世界に高山が復活した証拠でもある。
一体誰が高山を現実世界で復活させたのか? 高山は現実世界のどこで何をしているのか?
なおも同地をさまよい続ける馨。そんな馨の前に、ループプロジェクトの最高責任者であったクリストフ・エリオット登場! まだ関係者いたんだ。
倒れていたところをエリオットの研究移設に保護される馨。ここで馨はエリオットから驚きの事実を告げられる。
どうやら高山をこちらの世界で再生させたのはエリオットらしい。この時代の科学力を持ってすればそんなに難しいことではないようだ。移転性ヒトガンウイルスがそこから発生してしまったのも事実らしい。だがしかし問題はここではない。馨は、では移転性ヒトガンウイルスの鍵を握るのは高山か?とエリオットに問う。エリオットは不思議そうに馨に、「ループ」で高山を見なかったのか?と問う。馨は「ループ」の設定で、高山の主観的な視点を通して仮想世界を見ていた。事態を理解したエリオットは、馨に「ループ」の中の高山を見せる。
そこに映し出された高山の風貌は、馨に酷似していたのである。
そう。現実世界で再生された高山は、馨その人であった!
これが『ループ』が映像化できない原因である。仮に映像化され、始まった瞬間、主人公の馨の姿が真田広之だったとしたら・・・。誰もが「高山だ!」と思ってしまうからである。また、別の俳優を最後に高山でした!といってもポカーンとなるだけである。
エリオットは高山=馨が移転性ヒトガンウイルスを倒すヒントであるとして馨に協力を求める。その方法とは、同施設にあるニュートリノ・スキャニング・キャプチャー・システムによって馨の全身をデジタル化し、移転性ヒトガンウイルスの治療方法を解明するということである。だが、この装置にかけられるとデジタル化されることにより馨の実体はなくなってしまうようである。
命と引き替えに移転性ヒトガンウイルスに犯された人々を救うことに決めた馨。肉体消滅。
またデジタル化されたデータにより、馨は「ループ」の世界に組み込むことが可能となった。高山とは逆に現実世界から「ループ」の世界へ行くことになった馨。
ここで高山=馨の貞子から復活した『らせん』のラストにつながるのである。馨=高山は、砂浜で安藤にワクチンを渡し、「ループ」世界の「リングウイルス」収束に寄与する。
さらに馨=高山は、装置にかけられる前にエリオットとある約束をしていた。それは礼子に「ループ」の世界にいる馨を見せることである。
「ループ」世界から現実世界の状況を知ることができない馨=高山は、約束の時間、約束の場所へ。そして礼子が見ているであろう大空に向かって「大丈夫だ」とつぶやくのである。おしまい。
『リング』『らせん』での世界が、人間が創り出した仮想空間だったという大胆な飛躍は非常に興味深い。さらに、我々が住んでいる世界も、実は何らかの外部の介入によって生み出された世界ではないかと思わせるところがおもしろい。生物の誕生、そして猿から人類への進化など、今もなお非常にミステリアスな部分である。
問題は「ループ」の中の「リングウイルス」が、誰の手によってどのように仕込まれたのかが不明な点である。作中でもエリオットは「わからない」と話している。これは、コントロールできる仮想空間であってもなお「貞子の呪い」であった可能性を残しているような気がする。過去の作品を完全に否定できない作者の想いが感じられる。
この『ループ』単体でも楽しめる作品であるが、やはり『リング』『らせん』の徐々に飛躍していく、とんでも展開を楽しんでほしい3部作である。
●関連作品・記事
『リング』(映画)
『リング』(小説)
『らせん』(映画)
『らせん』(小説)
『リング2』
【MARKING】
おすすめ度:★★★★★★★7
えげつない度:★★★3
馨は最初女の子かと思った度:★★★★★★★7
禍々しい度:★★★★★★★★8
【INFORMATION】
・発行年:1998年
・出版社:角川書店
・著者:鈴木光司
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