らせん(小説) | KURI of the DEAD

らせん(小説)

夏休み企画「リング」シリーズ その4
日本の夏、金鳥の夏、ホラーの夏・・・。

見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオ」に翻弄される主人公たちを描いた、鈴木光司によるホラー小説『リング』の続編。その後、『ループ』『エス』、外伝作品『バースデイ』が刊行。

【STORY】
自らの不注意によって、海の事故で息子を亡くした解剖医の安藤満男。ある日、安藤は突然死した大学時代の友人・高山竜司の解剖を担当する。解剖後、高山の胃の内容物に紙片が混ざっていた。その紙片には暗号らしき数列が書かれており、解読してみると「DNA」と読み解けることがわかる。高山は死の直前、記者の浅川和行とともに「呪いのビデオ」を調査していた。そして浅川は、高山が死んだ直後に妻子を失い、自らも廃人同様になっていた。安藤は、浅川が遺した手記を手に入れ、仲間の医師・宮下とともに真相に迫るが…。

【REVIEW】
さて、前回の記事は「らせん」の映画版であったが、今回はその原作となる同名小説。
リング』において、問答無用の恐怖体験を展開したかと思いきや、この作品ではその恐怖を科学的にアプローチしようという作品である。

主役は、映画版と同じく解剖医(監察医)の安藤満男。自らの不注意で子どもを亡くした設定も同じ。そして、大学の友人であった高山竜司の解剖を担当する。
高山の死因は、心臓近くの冠動脈に発生した肉腫によって、血流が停止したことによる心不全。どうやらこれが「呪い」がもたらした科学的作用らしい。

そして、高山の胃の中には不審な紙片。紙片には暗号らしき数列。暗号を解くと「DNA」という文字が読み取れる。

その後出会った、高山の助手であり恋人の高野舞からの情報によると、高山は死の直前、記者の浅川和行という男とともに「呪いのビデオ」の調査をしていたらしい。
この浅川和行。
前作『リング』の主人公。呪いのビデオをうっかり見てしまい、その呪いから逃れるために、しゃかりきになった男である。貞子の遺体を見つけたことで呪いが解けたと思いきや、自分をスルーしてなぜか高山死亡。その後、呪いを解く方法がビデオをダビングして他人に見せることだとわかり、同じくビデオを見てしまった妻と子どもを助けるため、妻の両親に呪いのビデオを見せるという暴挙に出た男である。

妻の両親にビデオを見せたことで、妻と子どもは助かったかに思えた前作『リング』。だがしかし、この『らせん』で浅川一家が思わぬ末路をたどっていたことが明らかに。
妻と子どもは、妻の両親にビデオを見せたにもかかわらず、帰りの車中で死んでいた。そしてそれに気づいた浅川は驚いて事故を起こす。浅川は一命を取り留め入院中だが、廃人同然の状態に。
あの『リング』の結末は一体何だったのか、唖然としてしまう流れである。

一方、高野舞。高山が死んだことにより、高山が雑誌に連載していた論文の引き継ぎをすることに。高山の論文原稿の落丁分を手に入れるため、高山の遺品が置かれている実家に。そこで遺品の中から例のビデオテープを発見。自宅に持ち帰り、ビデオを見てしまうのである。高野舞、呪われた。

安藤は、浅川の元上司の吉野からの情報などで、浅川が一連の出来事を手記として残していることを知る。そして浅川の兄の家にあった浅川のワープロから、手記が収められているフロッピーを入手する。
その手記は『リング』のダイジェスト版ともいうべき内容で、安藤は浅川や高山の身に何が起きていたかをひと通り知ることができた。

その後、高山の遺体から未知のウイルスが発見される。そのウイルスに犯されてできた腫瘍は、天然痘の症状にとても良く似ているらしい。
天然痘。
山村貞子が井戸に放り込まれて殺される直前、日本人最後の天然痘患者で医師の長尾城太郎に強姦されている。貞子も天然痘に感染した。そして天然痘ウイルスは、貞子の呪いとともにビデオテープに収まった。ビデオテープにかたちを変えた呪い&ウイルスは、ウイルスの特徴である増殖を目的として、ビデオテープをダビングするように見る者に働きかけたのである。
ビデオテープを見た者は、網膜を通してこのウイルスに感染し、心臓の冠動脈に肉腫を発生させ1週間後に死に至るというわけである。
このあたりは、科学的なアプローチというよりは、SF的といってもいい展開。
ということで、ビデオテープと同様に手記を見た人間もウイルスに感染するらしい。

一方、高野舞。
行方不明になっていたが、とあるビルの屋上の排気口内に転落して死亡していた。そして高野舞には出産の形跡があった。肝心の赤ちゃんは近くにはいない。
どうやら、高野舞が例のビデオを見たタイミングが排卵日で、網膜を通して感染したウイルスが卵子と結びつき妊娠してしまったようである。どえらい展開。
貞子は自分の苦しみを他人にもわかってもらいたくて、ビデオテープに怨念を吹き込んだ。同時にやはり貞子は生きたかったに違いない。その生への執着がウイルスにも影響を及ぼし、受精可能なウイルスに変異していったのではないだろうか。貞子は、高野舞の身体を利用して、この世に復活したのか?
ちなみにこのあたりで『リング』の主人公・浅川和行が意識が戻らないまま入院していた病院で死亡する。

その頃安藤は、高野舞の姉・真砂子と名乗る女性と出会う。2人は惹かれ会い肉体関係を持つにまで至るが、じつはこの女性こそが高野舞から生まれた山村貞子だったのである。
2人の情事直後に同僚の宮下から送られてきたFAXをみて、目の前にいる女性が貞子だと知った安藤。気を失うほど驚く。そして逃げる。宮下の家へ逃げる。落ち着きを取り戻し、宮下とともに再び部屋へ戻る。そこには貞子からの置き手紙が。

置き手紙の内容は、貞子自身の身の上話ではじまる。その後、自分の願望、つまりリングウイルスの増殖に協力するように安藤に持ちかける。そして、協力したご褒美として安藤が一番ほしいものを渡すという。それは、死んだ息子・孝則である。

死んだ息子が戻ってくるのを選ぶか、ウイルス増殖による人類滅亡への道を選ぶか。悩む安藤。
しかしここで、安藤はふと思う。
なぜこんなことに自分は巻き込まれているのか?
発端は高山の解剖、そして高山の遺体から出てきたメッセージ、それによって読むことになった手記。
高山からのメッセージは警告だったのか、それとも・・・。
高野舞も、高山の家でビデオテープを見つけ、それを見たことによって貞子が復活してしまった。
すべての出来事に高山が絡んでいる。

そう。
山村貞子の裏で糸を引いているのは、高山竜司であった。
復活した貞子の身体を使って、自らも復活するのが目的だった。そして安藤の息子・孝則も同じ手法で復活させることができる。
医学者である安藤と宮下にはそれが可能なのである。

そして高山と安藤の息子・孝則は貞子の子宮に遺伝子を埋め込まれ、無事復活。
ちなみに、貞子の子宮に埋め込まれた受精卵は1週間で赤ちゃんとなり出産。出産後の1週間で当人が死んだ時点の年齢まで成長するという。便利。

浅川の手記は、彼の兄の手によって「リング」という小説となってベストセラーに。さらにはその小説を原作とした映画化の話も。貞子の呪いは、さまざまな媒体にかたちを変え、より多くの人間が感染していくことに。そして運悪く「リング」を見た女性が、その日が排卵日だった場合、貞子も次々と誕生してしまうのである。
ところで、この作品の中の小説「リング」が、『らせん』の前作『リング』とイコールだとすれば、我々もまたリングウイルスに感染したといってもいいのではないか。死なないけど。

自身の復活とリングウイルスの蔓延という目的を果たした高山竜司。
ウイルスに感染した人間は死に絶え、貞子の遺伝子を持った人間が増殖する。
『リング』において、この世界の仕組みやこの世の終わりを知りたいと本気で豪語していた高山。貞子という新種生物の誕生と繁栄で、生物の進化に介入した。ある意味、世界の仕組みを牛耳ることができたのである。恐るべし男。

「呪いのビデオを見ると死ぬ」というホラー小説を、ただのホラー小説で終わらせず、呪いの原因はウイルスによる感染であったというアプローチが非常におもしろい。ある意味『リング』の恐怖を自ら否定したような挑戦的な作品だと思う。

そして次作『ループ』において、さらにとんでもない方向に向かってしまうのである。


●関連作品・記事
『リング』(映画)
リング』(小説)
らせん』(映画)


【MARKING】
おすすめ度:★★★★★★★7
えげつない度:★★★★★5
高野舞が一番かわいそう度:★★★★★★★★8
禍々しい度:★★★★★★★★8

【INFORMATION】
・発行年:1995年
・出版社:角川書店
・著者:鈴木光司


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