『狛犬ジョンの軌跡』
ドイツのロットワイル地方原産の牧牛用・警備用の大型犬ロットワイラーと、
ライオンに似せて、ニューファンドランド、セント・バーナードと
グレート・ピレニーズの交配によって作られたレオンベルガ―が
上手くかけあわされたような完璧な姿をした巨大な黒犬。
自宅を太刀川建設事務所として設計の仕事をしている太刀川要が
息抜きのための銚子方面まで深夜のドライブを楽しんでいたとき、
突然道に飛び出してきた巨大な黒犬に車をぶつけてしまう。
大きな切り傷を負っていたこの黒犬の命を救うため、銚子そして都内と
治療してくれる病院を訪ねて深夜の街をふんそうする太刀川。
『狛犬ジョンの軌跡』はこの不思議な黒犬と太刀川そして太刀川の恋人
知花麻子との自分探しの旅の物語である。
プロローグ・J
「私とは、いったい何者だろう。」
の言葉から始まり、
J・エピローグ
「だから私は今日も、旅を続ける。
『私』という意識を引き摺って。歩き続ける。」
でエンディングを迎える本作。
垣根涼介の作品の特徴である、その虚飾を取り去った
簡潔で美しい文体は本作でも健在であり、
車や音楽に対する垣根の個人的趣味が色濃く反映された本作に
初期の作品で感じた若々しさと、年を重ねた現在の心の陰影を
感じた。
(垣根のDawning Mailを読み返したら、本作は11年前に『ヒートアイランド』と
代表作『ワイルドソウル』の間に、一旦は600枚ほど書き上げた作品で、
ずっと脳裡の片隅に眠っていた構想に新たな視点を追加して完成させた
作品との事。ヒートアイランドで感じた“不良”性、強い反骨精神を本作で
再び感じたのも納得できた)
その不思議な姿に心を動かされ、
太刀川の手でジョンと名付けられたこの巨大な黒犬は
いったいどこから来て、どこに行くのか、そして
何故、深夜、急に道に飛び出してきたのか。
これらの謎について垣根は本作で直接表現することはなく、
義憤、正義等のフィルターを通して読者に語りかける。
どのような結末が用意されているのか
いくつか想定して読み進んだ本作。
いかにも最近の垣根的エンディングが用意され、
後味は悪くなかったが、
本懐を遂げ、様々な人間の心を知った黒犬が
再度、永遠の命を持った存在として
人間の営みを見つめ続けることが
個人的なエンディングであり、
『狛犬ジョンの軌跡』第二部を期待したい.


