「真昼の暗黒」
拷問により強制された自白で無実の人が逮捕され、
裁判で死刑判決を受け、その後の人生を大きく狂わされる冤罪。
1951年に山口県八海で起きた老夫婦の強盗殺害で犯人として逮捕された
22歳の男の供述により、共犯者として21歳から24歳の青年4人が逮捕され、
山口地裁で死刑から無期懲役の刑を言い渡された八海事件。
1953年の広島高裁の後に、後から逮捕された4人の無実を認識した
正木弁護士が弁護団に加わり、1957年に事実誤認として差戻し判決を受け、
その後無罪・有罪と二転・三転し最終的に事件から17年後に最高裁で4人の
無実が確定した八海事件を基にした「真昼の暗黒」
正木弁護士の手記を基に橋本忍が脚本を書き上げ、今井正監督が
1956年に製作した「真昼の暗黒」は、差戻し判決を受ける前の
広島高裁で全員有罪判決が下されるまでの被疑者たちの姿を描いている。
未だ裁判が進行中で、拷問による自白強要の残虐な様子が
臨場感あふれる映像で流される本作に対する裁判所や関係機関からの
圧力の激しさを物語り、本作は孤立した製作会社、独立プロによる製作・上映に
より世に出されている。
「疑わしきは罰せず」の裁判の鉄則の重要性を世に問うた本作、
自白は判断基準としない裁判、
第三者の目からみて犯行を裏付ける物的証拠を判断基準とする裁判、
半世紀以上前に製作された本作の理念とはうらはらに、
1956年以降も冤罪判決が無くなることはない日本の裁判制度、
そして警察の捜査体制は、個人の力の及ばない肥大化・硬直化した
組織の弊害の象徴であろうか。
わが町
代表作「洲崎パラダイス赤信号」(1956)、「幕末太陽傳」(1957)と
同時代に製作された川島雄三監督日活作品「わが町」(1956)
明治時代から昭和に至る大阪のまちを舞台に、
織田作之助の原作を基にした「わが町」は、
自己の頑強な肉体を資本に生き抜くことを絶対視し、
この生き方を他人に強制することで、家族を含めた多くの
人を死に追いやったことに微塵の反省も無く、
他者の目からみたら、独善的で社会常識を無視した
“鈍感”な男とそれに巻き込まれた家族の生き様を
川島雄三独特の“無常”の視点に立って描いている。
「洲崎パラダイス赤信号」でも「幕末太陽傳」でもダメ男はどこか愛嬌があり、
それを支える女性達は美しくしっかりした存在として描かれ、
本作でも女性は美しく健気であるが、ダメ男はあくまでも自己中止的な
思考方法から脱却できない本質的に愛嬌のないダメ男。
大東亜共栄圏への独善的関与、
長い戦争下で貧困環境に斃れ、また生き抜いた大阪庶民の姿を
描いた本作のダメ男は他者の言うことに耳を貸さず、
自己を絶対視して、正当化し、
国民に犠牲を強いてきた独善的な帝国主義国家そのものを
象徴しているか。


