【詩】「パリにて、風の吹きすさぶ秋の夜」 | 山下晴代の「そして現代思想」

山下晴代の「そして現代思想」

映画、本、世界の話題から、ヤマシタがチョイスして、現代思想的に考えてみます。
そしてときどき、詩を書きます(笑)。

「パリにて、風の吹きすさぶ秋の夜」

At Paris, just after dark one gusty evening in the autumn of___
と書くと、あまりに漠然としている。具体的にいえば、
フォブール・サンジェルマン
デュノ通り三十三番地
四階の
おれの、小さな書庫兼書斎で、おれは日本人の女探偵と
コニャックと暗がりという
豪奢を
楽しんでいた。そこへ
突然現れた
若いアメリカ人、若いといったって、まあ、われわれと比べてという意味だが、
女探偵は身動きひとつせず、眼を閉じたままいた。
アメリカンは、勝手に椅子を引き寄せて
われわれのテーブルに着いた。
「事件かね? FBIのおにーさん」と女探偵はそう言ってコニャックを飲み干した。
「まあね。手紙が盗まれた」FBIの若造は言った。
「ラカンか」おれはうんざりとした調子で言って明かりをつけようとした。
女探偵はサッと手をあげて明かりをつけるのを遮った。
「せっかくの暗さを味わおう」
現場は、CIA副長官のデスクの上
なんで今更紙の手紙?
「それは──」
「コピーを残さないため」女探偵が言った。
「その手紙を見つけるのがきみの仕事か」
「ラカンはいかにも日本人好みだな」FBIの若造が言った。
「ニヤけた蝶ネクタイ、しち難しそうな理屈……」おれが言った。
gusty evening
gusty gusty evening
犯人は
わかっていた。