里山と熊鈴と私(駒ケ岳・岩手県北上市) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 ああ、磐梯山でヘタをこいて、左腕と右足を痛めてしまった。

 そんな状態にもかかわらず、昨日はバンドの練習に。

 

 スティックは問題なく持てる。だけど、左側のクラッシュ・シンバルには手が届かない。タム回しも無理。

 なので、シンバルは主に右手で叩き、オカズもスネアとBD主体にしてしのいだ。

 まあ、さほど音楽的には質を落とすことなく、演奏できたのではないでしょうか?

 

 それに気をよくし、それに、怪我したぐらいで山を休むのは、へなちょこハイカーの沽券に関わる、ということで、半ば意地で、山に向かう。

 

 いっそ、どーんと、岩手山にでも行こうかと思ったのだけれど、右足の様子からしてロングトレイルにはリスクがある、と、にわかに消極的になり。

 

 結局、先日、小生が頂上にいる時間帯「だけ」曇ったという、焼石岳のリベンジをすべく、焼石連峰へと向かう。経塚山、あるいは牛形山あたりにしましょうかね。

 

 快晴である。水沢ICを降りて直後、広大な田んぼの向うに、夏油(げとう)の山々がうつくしく浮かんでいるスポットに差し掛かり、たまらず停車して撮影。

 入畑ダムを通過。この辺りは、昔は冬場、夏油のスキー場に向かう際、よく通ったものであった。橋の上がよく凍結してツルツルするもんで、ひやひやしながら通ることがよくあった。

 

 道幅は狭まり、たまに退避場所がある、曲がりくねった細道を行く。途中、2台ほどとすれ違い、切り返し・バックを余儀なくされた。

 

 9:30過ぎ、夏油温泉着。

 これが、夏油温泉か。夏油川沿いに数件の宿が立ち並ぶ、ごく小さな温泉場。「ひなびた」って表現が良く似合う。

 

 広い駐車場がある。その東側斜面に経塚山や牛形山への登山口があるのだが、バリケードが張ってあり、通行禁止になっている。山道が崩落している箇所がある模様。

(現在は復旧しています)

 

 ちょっと思案した結果、夏油三山の一角、駒ケ岳(1,129.8m)への道は無事であるようなので、こちらへと方向転換。

 近年、駒ヶ岳へは、道が易しいこともあって、金ヶ崎町の牧野からのルートが一般的になっているようだ。

 

 夏油温泉からのコースは、情報がないが、立て看板によると、登り190分、下り140分程度である模様。

 まあ、行って見ますかね。

 

 夏油川を渡り、国民宿舎向かいの自然研究路の奥から、登山道が伸びているらしい。

 

 9:54、入山。森の中を、石ころ交じりで、おびただしい木の根を踏み越えていく、典型的な山道。

 斜度は大したことなく、斜面をジグザグに登っていく感じは宮城の寒風山(マイナーすぎるか)の雰囲気に似ている。

 

 10:36、尾根に到達。とたんに視界が開け、横岳、兎森山方面が見渡せた。

 ここから90度右に折れ、尾根沿いに進む。若干、斜度も上がり始める。

 10:52、「駒ケ岳 四」っていう立派な看板があった。

 「一」 から「三」は見落としていたようだ。

 ただ、「四」じゃなくって、「四/十」とか、「四」がどのあたりの「四」なのか、書いてもらえるとなお助かるのだが。

 「十」まで行っても頂上に着かず、「十一」とかが始まったら、この上なくガッカリするような気がする。

 

 それはさておき(笑)、先へと進む。

 左腕をかばいながら進む。ただ歩いている分には問題ないのだが、浮石を踏んだりして、右足をズルっ!とかやったりすると、ビーン!って上腕に響くのだ。

 

 そんな思いして山に来なくても、と自分の中の自分にたしなめられつつ、ズンズン進む。

 

 先行していたニコニコ顔の中年夫婦を追い抜いた直後、ブナが素敵に林立する地点に着いた。生憎、日差しの量が少ない。撮影は帰り道を狙いましょう。

 

 何度かアップダウン。やや道が平坦となり、湿原に入った模様。わりと新しめの木道が設置されている。

 新しいのはいいのだが、坂道になかなかの斜度で設置されているので、今日みたいな雨上がりはツルツルして危険。

 

 何度目かの沢を渡る手前、向こうから来た2人組のオジサマに、そこ危険だから乗らない方がいいよ!と注意される。

木道を避け、左側の湿地に足を踏み入れ、えいっ!と、渡り切る。

 

 次第に斜度が増し、岩ゴロゴロの道になる。

 前方が明るみ、間もなく頂上ということはわかるのだが、なかなか、なかなか着かない。ふうふう。

 

 ん?頭上で、賑やかな話し声が聞こえる。小さな祠が見えて、広場に飛び出したら、そこが頂上なのであった。12:10。

 2時間ちょっとで到着。まずまずのタイム、と言ったところでしょう。

 快晴。

ややブッシュの背丈はあるものの、全方位の眺望。正面に紅く染まった経塚山、それに隠れて焼石岳、その右側に夏油の山々が続く。

 経塚山の左肩にはとおく、栗駒山の姿も見える。

 東側は、金ケ崎ののどかな田園風景の奥に、北上山地が南北に長く伸びている。

 絶景、である。

 駒形神社の奥宮に参拝。

 山頂は、金ヶ崎方面から来たと思われる、オッチャン・オバサマの団体で、まあ、賑やかなこと。

 オバチャン1名が反対側から一人で来た小生を目ざとく見つけ、「経塚山、キレイネー」と声をかけてくる。

 

 そうっすね。

 

 一同を引率してきた、リーダーと思しきベテランおじさまが、

 「経塚山も良いところだよ。ただ、途中の橋が落ちてそのまんまなんで、一度沢に降りて登り返さなくちゃいけないんだけど」などなど、おっしゃっている。

 

 そうっすか。

 

 そうこうするうちに、御一行様は金ヶ崎方面に下山していった。

 にわかに静まり返る山頂。

 残ったのは、小生と中年の御夫婦のみ。

 

 お宮の端に腰かけて、お昼タイム。

 と、中年ご夫婦の方から、ラジオだかなんだか分からないけれど、音楽が流れ始める。

 

 まずは、なんと米米CLUBの『浪漫飛行』。ズズトト・ズズトトって、イントロのシンセベースが鳴り出せば、一気に、山頂に広がる昭和&バブル感。このミスマッチ感が、たまらない。

 

 続いては、ザ・ブームのような、そうでないよな、サンシンとかが入った、沖縄テイストのポップス。こちらも、シンセの音に「コルグM1」みたいな雰囲気があって、嗚呼、バブル感。

 

 さらにさらに、松山千春の「生きていくのが つらいとか~」ってやつ。「大空と大地の中で」って歌らしい。

 

 では、お弁当も頂いたし、そろそろお暇しますか。夫婦に会釈して、12:36,下山開始。

 

 直後、あのニコニコ夫婦と再会。ややふくよかな奥様は、かなりグロッキー気味。もう少しですよ!と励ましつつ、狭い登山道をすれ違う。

 

 慎重に下山。羹に懲りて膾を吹く、とはこのことである。

 うーむ。登っている時はそうでもなかったのだが、下るにつれて、右足がシクシク・ジンジン痛み始めた。立ち止まり、休憩しながらなんとか進む。

 

 紅葉にはちょっと早かったけれど、ところどころで圧倒的な緑の中に赤や黄色の色彩に出会い、ハッとさせられる。

 撮影しつつ、ゆっくりと下山。

 また、あの危険な木道に差し掛かる。

 湿原に足を踏み入れたら、思いのほかブーツが深く沈み、思わず木道に左足を踏んばってしまう。

 うっ、と思ったけれど、思いのほか滑らず、無事に通過。と思ったら、その先の、平坦な木道でズルっと。

 あぶない、あぶない。

 

 14:06,素敵なブナ林まで戻ってきた。写真撮影のため小休止。


 

 15時過ぎ、温泉街の建物が見えて来た。

 街を見下ろす高台に差し掛かると、そこで温泉の従業員と思しき、作務衣のような作業着を着た、オジサン、オバサンがいて、一心不乱にラジオ体操に勤しんでおられる。

 

 山と温泉街をバックに、体を動かすさまは、どこか宗教性すら感じさせるうつくしさ(笑)なのであった。

 小生に気が付いた2人、照れくさそうに「エヘヘ」と笑って、道を開けてくれた。

 

 15:25,登山口に到着。3時間近くかかった。まあ、このくらいの慎重さは必要でしょう。

 

 陽が傾きかかる温泉街。

 川のほとりのこのホテルは、600円で日帰り入浴が18時まで可能であるようだ。

 と、従業員の方が出てきて、「こっちに来て下さーい!」と大声。

 

 ちょっとビビったけれど、小生にではなく、納品かなんかに来ていた業者さんに向けられたものだった。

 

 しずかな温泉街をぶらぶら。

 展示室みたいなところがあって、夏油温泉の由来が書いてある。

 

 ええと。夏油とは、アイヌ語の「グット・オ」(崖のあるところの意)から来ているとか、冬は豪雪のため、夏季しか利用できなかったことから、とか、諸説あるようだ。

 へえ。勉強になります。

 

 帰り道、入畑ダムで停車し、夏油三山を撮影。

 今日も一日、うつくしい山行きであった。

 

 予定とは違ったけれど、駒ケ岳も、それなりに登りごたえがあり、頂上からの景色もなかなかであった。

 今度は経塚山、牛形山、そして焼石までの縦走にも挑戦してみたい。

(2021.10.03)