里山と熊鈴と私(焼石岳・岩手県) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 つーわけで、200名山のひとつ、岩手県の焼石岳(1,548m)に登る。

 

 それにしても。たった1週間で、仕事の環境が激変し、茫然とするばかり。

 本当は26日から30日まで、夏休みの予定だったのだ。

 

 それが、18日夕方に上司に呼ばれ、20日までに、あるプロジェクトの立ち上げを手伝えと。

 他セクションから来た2人と、なんとか立ち上げてHPをアップしてやれやれした翌週、今度はその2人が抜けて、小生をリーダーに、10月まで新人5人によるチームを統率せよと。

 とっても、「休みが…。」などど言える環境ではなくなってしまったのだった。

 

 この土日も出勤すれば、来週以降、比較的楽なんだろうけれど。

 この先、いつ休めるかもわからないし。読み方によっていかようにでもブレる法解釈に頭が疲れたこともあって、なにもかも投げ出して、お山へと向かう。

 

 天候はまずまず。

 前沢ICで降りてから40分ほど。途中、たしかコンビニは2軒ほどあったように思う。

 

 岩手県南側の代表的な登山口は、中沼登山口と、つぶ沼登山口。山頂へのアプローチは中沼の方が近いけれど、駐車場が狭く、途中、7kmくらい、ワインディングな砂利道が続くようだ。

 なので、胆沢ダムを左に見ながら、つぶ沼方面へと国道397号を進む。

 

 10時ちょうど、つぶ沼着。それなりに広い駐車場で、立派なトイレもある。

 ネット情報によれば、100台は置ける、らしい。今日は10台程度が停まっていた。

 

 つぶ沼は、木々に囲まれた美しい沼。今日の帰り、時間があったらゆっくり散策してみたい。

 国道まで戻る。道路の反対側にある、木立の中へ斜めに向かう坂道が、登山口である。


 しばらく、樹林帯の中を進む。傾斜はそれほどでなく、チビッコでも頑張って歩けるグレード。曇りがちではあるけれど、たまに心地よい木漏れ日が差してくる。

 

 道は次第に湿地となり、ぬかるむ箇所がしばしば。幾多の沢筋に出会う。

 雪解け水が豊富な山なのだろう。

 

 本日の脳内BGMは、さっき寄ったセブンイレブンで流れていた、ディズニー『リトル・マーメイド』より「Under The Sea」。

 スティール・パンの音色に脳内で浮かれつつ、ポクポク進む。

 

 10:44、金山沢に差し掛かる。飛び石を渡り、向こう岸へ。

 10:57、ここでようやく、眺望が右に開ける。いつの間にか、随分上って来ていたのだった。

 いつしか、岳山の脇を通り過ぎていたようだ。

 銀名水から2.5kmほど手前あたりから、道の手入れが行われていて、格段に歩きやすくなる。やや斜度は上がり、木製の階段が現れる。

 

 11:22、右のがけ下へと向かう道がある。石沼に降りられるのかもしれない。

 直進した先にヘルメットを装着したおじいちゃんが休憩しておられた。木立が切れ、手前に石沼、その向こうに六沢山?と天竺山、経塚山を眺められるポイントがあり、実に美しい眺め。

 

 美しいエメラルド色の湖面。さっきの道を降りて行きたい衝動にかられたけれど、ここはぐっと我慢して、先を急ぎましょう。

 12時ちょうど、中沼からの登山道と合流。

 ところどころ、木道の両側に湿原が現れ、視界が広がる。向こうに見えるのは横山か。シーズンには、色とりどりの花々が見られることだろう。

 今日も、それなりに道々で花々の姿が。

 そろそろ花の名前も覚えなきゃなあ、と思っているのだけど、なかなか。

 

 木道は、ところどころ傷んでいて、うっかり踏むとシーソー状態で「ガックン!」と傾き、あやうく水しぶきを浴びそうになる。

 

 道を譲ってくれた、気の良さそうなオジサンが、さっき小生がガックンしたあたりで「うひゃあ!」と大きな声を出していた。教えてあげればよかった。

 ええと。銀名水の手前5分くらい、大きな段差があるちょっと手前くらいのところです(遅いか)。

 

 12:20、ちょっと開けた、広場のようなところに出る。ここが銀名水。

 オジサマ方がくつろいでおられた。

 道の右側に、さりげなく清水が沸いている。岩に「銀名水」と彫られている。

 ネット情報ではひしゃくが置いてあるとのことだが、見当たらない。コロナ対策の一環なのかもしれない。

 

 コップも何も持っていないので、しゃがんで手にすくい、口に含む。

 ふーむ。確かに、美味しい。なんというか、東北らしい、後味スッキリ感?

 

 銀名水避難小屋の脇を抜け、急坂をジグザグに進む。

 この辺りから灌木帯になり、一気に視界が広がる。

 このへんは、8月初旬まで残雪に覆われているようだ。

 天気もやや、回復してきた。学生さんのグループとすれ違う。

 

 右側の谷に大きな滝が見える。

 この辺りの道はかなり荒れていて、ロープにつかまりながら慎重に進む。

 だんだん、ゴツゴツした石に覆われた道となり、一歩一歩慎重に進む。

 

 池塘があったり、沢に出くわしたり、実に変化に富んだ道ゆき。

 何人かとすれ違う。これだけ人影があれば、熊鈴は不要と判断し、ポケットにしまう。

 鳥の声。「どう」という風の音。静寂を楽しみつつ、ずんずん進む。

 

 13:07,右に焼石岳、左に横岳を広く見渡せる場所に出た。にわかに涼しい風が強まり、帽子を飛ばされそうになる。

 わりと大きな沢があって、水量も豊富。こんな、頂上直下に大きな流れがあることに驚き。

 沢のほとりにリュックが3つ打ち捨ててあって、まさか、泳いでるんでは、と思ったけれど、さすがに冷たいだろ。

人影は見えないが…。

 

 いよいよ、親子連れに会ったのを最後に、誰もいなくなった。

 この大風景の中、ひとり、黙々と石ころだらけの道を進む。

 なんのために?

 13:23,姥石平着。お地蔵様にごあいさつ。

 ここで、三人組の若者とすれ違う。そうか、さっきのリュック。荷物を軽くして、ピークハントしてきた模様。ペチャクチャ、楽しそうである。

 

 頂上目指し、ポクポク歩く。

 13:27,泉水沼。天気が良かったら、頂上を映して美しかっただろうなと思う。

 次第に、沼の向こうに東焼石岳が見えて来た。

 稜線にたどり着き、横岳分岐。ようやく、向こう側が見えた。

 南本内岳かと思ったら、1511m峰、というのだそうだ。天気が良ければ、この方向に鳥海山が見えていたらしい。

 強風の中、登ってきた道を振り返る。頂上まで、もうひと頑張り。

 

 と思ったら、急激にガスって来た。

 やばい。なんとか、ガスる前に頂上に着きたい。

 だが、なかなか足が進まない。さすがに足にダメージが…。

 がんばれど、がんばれど。頂上への道は、険し。

 ふうふう。

 

 13:45、頂上に着く。だけど。まっちろけ。

 何というタイミングの悪さであろう。

 しかも、ますます風は強まり、雨粒さえ混じっている。

 

 そして、寒い。先日、300円(笑)で買った中古のパーカ、さらにレインウェアを重ね着。

 あまりにも残念なので、強風の中、14時リミットでしばし、遅いお昼を摂りながら、天候の回復を待つことにする。

 両手ストックのオジサマ、若いカップルが登ってきた。この人たちも運が悪い。

 

 山頂でガスるのは、先月の後烏帽子岳と2回連続。

 これまでのお山行きの中で、ほとんどこういうことはなかったんだけど。

 年間300日ガスるという愛媛の石鎚山でさえも、びっくりするようなピーカンに恵まれたのに。

 まあ、今まで、よっぽど運が良かった、ということでしょうか。

 

 10分ほど待ったら、一瞬、南側のガスが晴れて、胆沢側の景色が垣間見えた。

 これである程度納得し、下山することにする。

 さよなら。またいつか、リベンジしますね。

 

 何度も振り返ってみたけれど、結局、山頂を再び見ることはできなかった。

 来た道を戻る。

 

 15:27,懐かしい銀名水避難小屋の赤い屋根が見えた。

 銀名水で、さっき山頂にいらしたオジサマを追い抜く。

 

 15:50、中沼への分岐。

 ここで思案。このまま、つぶ沼コースを下ると、あのビチャビチャした湿地帯を、薄暗がりの中通ることになる。

 中沼の風景にも興味がわき、左に曲がることにする。林道歩きが長くなるけれど、まあ、仕方がないところだろう。

 

 あら、こちらも沢沿いの道で、なかなかの悪路ですね。

 

 16:09,上沼着。

 誰もいない。実に静か。

 振り返るとさっきまで辿った山々。

 山頂のガスは晴れたようだけれど、さすがにこの時間までは粘れなかったろうな。

 

 16:25,中沼着。

 こちらも周囲に湿原が広がり、花のシーズンはさぞかし目に賑やかなことでしょう。

 尿前林道まで1.1km。もうひと頑張り。

 

 樹林帯を黙々と下る。なかなか、着かない。

 ふーむ。まさか、道を間違ったわけじゃないよね?と不安がよぎった途端、中沼登山口着。16:57。

 40台ほど置ける駐車場で、トイレもある。

 この時間、3台ほどが停まっているのみ。

 

 林道は砂利道で、そんなに凸凹があるわけではないけれど、やはり普通車で来るには勇気がいる道。

 とにかく、歩く。

 まあ、足元は乾いていて、歩くのに難儀することはない。

 でも、沼のあたりからお供いただいているヤブカさんの皆さんには閉口。

 扇子を取り出し、必死に仰ぐも、どこまでもどこまでも、実に忠実なお供っぷりである。

 

 奥州湖の岸壁が見えた。橋への坂を登り、18:00、ようやく国道に到着。

 その途端、ヤブカ様たちは任務解除されたらしく、どこかへと飛び去って行かれた。

 心細い森の中、お供してくれて、ありがとう?

 

 湖を見ながら、秋田方面にこ線橋を渡る。夕暮れに、三角形の「猿岩」、そして湖面が美しい。

 結局、中沼登山口から8kmくらい歩いて、なつかしい、つぶ沼に到着。

 残っている車は3台のみ。

 

 すっかり日は落ちた。

 ふう。参ったまいった。

 かなりグロッキー。そのまま、運転席で眠りに落ちてしまった。

 

 19時頃、隣のつくばナンバーの車に人の気配。

 さっき、山頂で会ったオジサマかもしれない。だとすると、この暗がりの中、つぶ沼コースを越えて来たのだろうか?

 

 一関を経由して、自宅に着いたのは22時近く。

 

 焼石岳は、熊さんの出現度が高いという。つぶ沼にも出現することがあると、道すがらの注意書きにもあった。

 無事に下山できて、まずは良かった。

 

 花の名山、焼石岳。

 標高はさほどでもないのにかかわらず、石沼、姥石平周辺の眺望と、じつに充実感のある山行き。

 (このブログのポリシーには反するけれど)次は、もう少し早起きして、稜線沿いに東焼石岳、その先まで足を伸ばしてみたい。

(2021.8.29)